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ファンキーソーダ

炭酸が飲めない。
コーラも三ツ矢サイダーも、ファンタもオロナミンCもどうしても飲めない。

喉を潤したいのに内ほっぺがビリビリ痛くて、喉までの道のりが長い、長いのだ。
諦めずに、もうひと口、もうひと口、と口に運ぶのだけど、運んだ分だけ内ほっぺがビリビリするものだからすぐに音をあげてしまう。
だから、三十うん歳になった今も炭酸ジュースは私にとって魅惑で未知だ。
特に、コーラ。
コーラなんてもう。
色も名前もしゅわしゅわもなにもかも私から遠すぎる。茶色いジュースなんて私コーラを知る以前には見たことがなかったし、パッケージにだってその得体の一部分も書かれていない。
オレンジジュースのパッケージはオレンジ色が基調になっているものだし、オレンジのイラストが書いてあることも少なくない。
ああ、私は今からオレンジ味の液体つまり、オレンジから抽出したものを飲むのだね、と理解ができるのだ。

だけど、コーラ。
コーラ、君のアイデンティティがどこからも読みとれないのだよ。
私はしこたま警戒してしまう。誰ともしれないものを身体にいれるのがこわいのだ。
しかも口に入れたらビリビリする。
どうしても仲良くなることができない。

炭酸が飲めない私は、炭酸ジュースがまぶしい。コーラはひときわまぶしい。
いつまでたっても相容れない、だけど気になる生意気なあいつ、だ。

親がこんな調子でも、娘は炭酸が好きらしい。
幼稚園のおやつにフルーツポンチが出たことがあって、ポンチ液は三ツ矢サイダーだったそうだ。
なんやそれ、くっそファンキー!
幼稚園生が三ツ矢サイダー。
ファンキーにも程があるんじゃないの。
親戚のお姉さんたちが飲んでいたこともあって、娘は憧れだった炭酸ジュースに華々しくデビューした。しかも、「しゅわしゅわじゅーすおいしかった」そうだ。
先日も、義実家と食事に出かけた際、ドリンクバーで娘はうきうきとメロンソーダを入れていた。
ぎょっとするようなメロンとかけ離れた緑色の飲み物。
この子は私と別の生きものなんだな、と思い知らされる。私の腹から出て、私の乳を飲んで大きくなったけど、私とよく似た顔をしているけど、全然、まったく、違う生きものなんやな。
だって、こんなに元気な緑色の炭酸ジュースを飲めるのだ。

虫歯やらあれこれ気になるから、この先も積極的に用意して飲ませることはないと思うけれど、こうして彼女はしゅわしゅわジュースを身体に取り入れて大人になっていく。
そして、きっと、いつか三十うん歳になった彼女にとって炭酸ジュースは魅惑でも未知でもないのだ。
このあわあわとした気持ちはつまり、すごく個人的なものなんだな、そう考えるとなんか少しだけさみしい。

#エッセイ #育児 #娘 #炭酸 #コーラ #cakesコンテスト

また読みにきてくれたらそれでもう。