「もう選手として水泳をやるのは諦めた方がいいと思います」 医師のその言葉で美緒(みお)の中の何もかもが崩れ落ちた。 不運な事故だった。歩いていた美緒に、後ろから自転車が突っ込んで来たのだった。自転車に乗っていた高校生は、スマートフォンを見ながら運転していたらしい。 医師からの詳しい説明があった。怪我は重度の半月板損傷--。日常生活にはさほど支障はないが、膝に少し負担がかかる動きは避けた方がいい、つまりスポーツを選手として水泳をやるのは厳しいというような説明がしばらく
「あなたの音楽は、人を不幸にする」 母から言われたその言葉が、今でも呪縛のように、奏音(かなと)を支配していた。 ドミドミ…シーソーシーソー…音楽を辞めた今では、この絶対音感という能力は、奏音にとって、苦痛でしかない。奏音の両親は、ピアニストで、奏音と弟の連音(れんと)は、幼い頃からピアノをやることを強制された。そのおかげ…いや、そのせいで奏音には絶対音感という能力が備わった。 「おい、奏音!聞いてる?」 そう話しかけてきたのは、幼馴染の瀬戸直樹(せとなおき)だ。直樹は、