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「この世にたやすい仕事はない」津村記久子ーᕱ⑅ᕱ「それなー」

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 仕事と愛憎関係に陥りがちな主人公が短期契約の仕事を5つ渡り歩くお話。主人公は大学を出てから14年間務めた仕事を燃え尽きて辞める。その後は実家で休んでいたが、失業保険が切れ、必要に迫られ就職活動をする。数々のマニアック、というか個性的な仕事をこなしていく中で、燃え尽きるに至った前職と再度向き合うことになる。

 主人公は程々に手を抜いて…ということが下手なようだ。責任感が強く真面目で、仕事と真正面からしか向合うことができない。私自身、そうゆう融通の利かない、バランス感覚の悪い部分があるので、この主人公には大いに感情移入して読み進めていった。憂鬱な業務、些細な失態での冷や汗、息の詰まるプレッシャー、上司への不満とそれを抱える自分を情けなく思う気持ち。「うんうん、分かるわかる、あるある、そうゆうこと」って感じで、女友だちとの会話のように共感しまくった。現実の私には女友だち居ないけど(笑)

 私は現役ニートだが過去には短期長期で様々なアルバイトを経験した。それでやっぱり感じる。「この世にたやすい仕事はない」のだ、仕事にきちんと向き合おうとしてしまう限り。仕事に対する誠実さと、自身の生活やキャパシティとのバランスをとること。その難しさゆえ、私は挫折し続けて、就労に対する心理的なハードルがとても高くなってしまっている。のめり込んでしまうクソ真面目さは私を心配する人たちからもれなく注意されてきたし、現実的にはもちろんそれではいけない。だから改善しようとするのだが、元々苦手なのでなかなか上手くいかない。そのうちに自分の仕事に対して取りがちな姿勢に恥を感じるようになった。しかしこの小説では、そんな仕事への真剣すぎるような姿勢そのものを肯定してくれる。

 主人公は最終的に前職と向合うことになるのだが、作中最後の局面に来るまで、問題の発端である前職にはほとんど触れられない。現職に一所懸命になっている時は、今の仕事に集中しているから、主人公の思考にあまり前職が上ってこないのだ。しかし意識下では着々と、前職への思いを処理する下準備が進んでいる。それは次々に短期契約の仕事を経る中で、チラリ、またチラリと暗示される。前職とは関係のない仕事でもひとつひとつ真摯に取組むことで、前職との、また仕事への自分の姿勢を見つめ直す手がかりを得ていく。ドキュメンタリーのようにリアルな話だった。

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