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著作権改正で変わるオンライン教育の在り方|#ルールを考える

コロナ禍により「学びの環境」は激変した
突然の休学、自宅学習、暗中模索をしながらのオンライン教育。教育機関の改革を推し進めるGIGAスクール構想の前倒し。

一方で「やっといて良かった法令改正」が、2年以上前に成立していた。それは、平成30年に成立した改正著作権法改正だ。この法改正は、今後の教育改革を下支えするものでもある。

この意外と知られていない、しかし非常に重要な著作権法の改正内容について、経緯や制度の解説をしていく。

1.とても複雑な著作権

まず著作権について簡単に触れたい。
著作権法は、よく知られた法律のひとつだ。

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"著作物の創作者である著作者に著作権(著作財産権)や著作者人格権という権利を付与することにより、その利益を保護している。(by Wikipedia)"

ただ、知名度とは裏腹に著作権は非常に複雑だ。一例として、「著作権は、複数の権利の集合体」という性質が挙げられる。

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また、改正の頻度が多いのも特徴で、そのためキャッチアップも難しい。

以前、ドワンゴ川上量生氏が「バグりやすい法律」として取り上げており、その複雑性を定量的に示している。興味のある方は是非ご一読いただきたい。

循環的複雑度が75を超えるとバグの混入確率は98%、「いかなる変更も誤修正を生む」状態になる(~中略~)さて、問題はもう1つの著作権法。(~中略~)循環的複雑度の合計は103。(by 週刊アスキー

2.オンライン教育の壁になる著作権

著作権には、制限される(無許諾・無償で利用可能になる)ケースがある。これは、教育現場にも適用されている。

教育現場での代表的な例は下記が挙げられる。
ただ、教育現場だからと完全に自由には使えるわけではないことに注意だ。

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教育現場でも、その用途に応じて「無償・無許諾」と「有償・要許諾」のケースが存在する。そして、オンライン教育をしようとすると、そのほとんどは「有償・要許諾」に該当をする。

著作権者の利益を守るため、対面に比べて複製・拡散の容易性の高いオンラインなどの公衆送信を「有償・要許諾」とするのは、必要な処置だと考えられる。

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※「公衆送信」とは、放送、有線放送、インターネット送信などを指す

ただ、教育機関にとっては、オンライン教育に対応しようとすることでコストが増大するのは事実だ。許諾申請の煩雑さも無視できない。

この「教育現場における公衆送信」という課題は、平成18年にはすでに議論されていたが、折り合いがつかず、長年の課題となっていた。

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これを解消し、「オンライン教育の実現」と「著作権の利益保護」を両立するために実施されたのが、平成30年に成立した改正著作権法に盛り込まれた「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」になる。

3.改正著作権法で見える光明

このオンライン教育にまつわる著作権法の議論は長い時間を要した。

関係者間では「オンライン教育の実現」と「著作権者の利益保護」という重要なテーマについて、主に下記のような意見が飛び交ったという。

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※ここで言われる補償金は、権利者の利益を補償するためのものを指し、後述の「授業目的公衆送信補償金」がこれに該当する。

教育関係団体は、「費用」「事務手続きの負担」を言及し、権利者団体は、「補償金制度の適用」「権利侵害の懸念」「著作権法の適切運用」を言及しているのが分かる。

これらの議論を踏まえ、両者の意見を尊重した法改正の考え方が示された。

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平成30年、この考え方に基づく著作権法の改正が成立し、オンライン教育の壁であった煩雑な手続きの簡素化が可能になった。

また、補償金も学生1人当たり年額数百円と低廉になる想定だという。

そして、法改正を根拠法とした新制度「授業目的公衆送信補償金制度」を整備・運用するため、補助金徴収支援団体となる「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」が平成31年2月に指定された。

SARTRASは、著作権を保有する出版や芸術などの代表的な団体で構成されている。

ここから、補償金額や関係者間の調整など、令和3年度からの制度運用に向けての準備が始まる

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このオンライン教育にまつわる著作権の見直しは、平成18年にはすでに議論がされていたが、その際は結論が出ずに塩漬けとなり、平成26年に議論が再開されてから平成30年5月に成立した。

苦節12年の時を経て、オンライン教育に向けた課題に糸口が掲示された。

4.新制度とコロナ

結果、この制度は前倒しをされることになる。
コロナの影響だ。

コロナによる休学は、オンライン教育の必要性を急激に上げた。しかし、著作権法は改正されていても、肝心の制度は運用を開始できていなかった。

ここで教育の格差が拡大することを懸念した文部科学省に、権利者団体で構成されるSARTRASが協力をする形で「令和2年度の著作物利用における補償金を無料」という特例措置付きで、制度運用の開始を前倒しにした。

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対応が可能だったのは、平成30年に著作権法の改正があったからだ

文科省の調査によれば、緊急事態宣言が解除され、6月1日時点で全国の小学校と中学校の99%、高校の96%が再開されているという。

しかし、オンライン教育は対面授業の単純な代替品でなく、教育の質を向上するための手段を拡張し得るものであり、それを支える本制度が各教育機関で活用されていくことを期待したい。

本制度利用のための届け出は下記から出せる。

5.今後、検討すべき課題

一方、早期施行されたとはいえ、来年度の本格稼働に向けた課題は残る。

まず、補償金額の調整だ。SARTRASは、公式サイトのFAQにて令和2年度の夏までには補助金を認可する文化庁に認可申請を出したいと答えている。

先日、閣議決定した「知的財産推進計画2020」でも、文科省において補償金の負担軽減のための支援を検討する旨も示されている。

また、補償金の分配方法やSARTRASや権利者団体の管理していない著作物・著作権者をどのようにカバーするかも検討中だという。

そして、教育現場での本制度の理解・普及もとても重要だ。本制度は、「著作権者の利益を適切に守ること」を前提としている。全ての制度に言えることだが、適切な運用には、利用者の正しい理解は必ずセットになる。

GIGAスクール構想の追い風にもなる本制度が、適切に立ち上がることが出来るか。今年度が、正念場だ。

[ 執筆・編集:深山 周作 ]

さいごに

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こちらもあわせて

情報ソース

授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について(文化庁)
著作権法の一部を改正する法律の概要(文科省)
授業目的公衆送信補償金制度(文化庁)
著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料(文化庁)
一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)
知的財産推進計画2020(内閣府)

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