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ふぅ。さん×しゅんしゅんぽん


ふぅ。さん短歌

 9フィートのサーフボードの上から沖を眺める。
 うねりの揺られながら、自分が乗るべき波を待つ。
 波が割れる音、風が耳を通り抜ける音、そしてサーフボードが海とぶつかる音。それだけが世界の全てだった。
 うねりには周期がある。弱いうねりは無視して、じっと沖を眺める。大きなうねりが見えてもすぐに乗ってはいけない。そのさらに奥にもっと大きな波が待っているからだ。
 波のピークに合わせて僕はパドリング(※波に乗るためクロールのように水をかくこと)をし、板の上に立ち上がる。無事テイクオフ(※ボードの上で立ち上がる)したと思ったら、波がバンプ(※波が突然砕ける)して僕はそのまま、波の渦に巻き込まれた。ぐるぐると回る水の世界の中、僕は君を思い出していた。

 君はいつも怒って、部屋を飛び出して行った。二人の部屋に僕だけが取り残される。
 そして毎回、いつもの喫茶店でむくれる君を、僕が迎えに行く。
「何しに来たの?」
「さっきは言い過ぎたよ」
「そう言えば、私が許すと思っているんでしょ?」
 喧嘩はいつも些細なことだ。僕はいつも自分は間違っていないと思う。それでも先に頭を下げる。そうしたら彼女も「私も言い過ぎたと思う」と言ってくれる。結局、価値観の違いだ。トイレの便座が上がっていようがいまいが、どうだっていいと僕は思うけど、彼女にとってはとても重大な問題だそうだ。それでも育った家庭を批判されたら僕だって腹が立つ。
 でも僕は彼女が好きだった。そして僕が先に謝りせすればさえすれば、その後は僕も彼女も後を引かず、マスターのコーヒーを一緒に飲んで手を繋いで帰った。
 でも今回は違った。君はあのコーヒーショップにいなかった。
 近くのコーヒーショップや君が行きそうな店を全部探したけど、君はどこにも見つからなかった。
 2時間後、あきらめて家に帰ったとき「ピポン」とLINEが通知音がした。
『いったい何があったの、ナミ泣いてたよ。今日はウチに泊めるけど。ちゃんと仲直りしてね』
 ナミの親友のあかりちゃんからだった。
 今回も些細なことだったと思う。
 彼女の中では何か違ったのだろうか?
 でもまあいい。明日迎えに行こう。僕から謝れば、きっとまた機嫌を直してくれるはずだ。
 僕はそんなふうに思っていた。
 でも、翌日あかりちゃんの家に行っても、ナミは出てこなかった。
「なんか、絶対に許せないんだって、何があったの?」
「別に、特別なことではないと思うけど」
「まあ、あの子も頑固なことがあるからね。それにいろんなことが積み重なって、限界が来たのかもしれない。女は冷めるとあっという間よ。気を付けてね」
 あかりちゃんはそう言っていたけど、今回のことも僕だけ悪いわけでもなかったし、本当に些細なことだった。
 僕はそう思っていたけど、翌日にはナミはあかりちゃんの家を出て、実家に戻った。大学は夏休みだったので、会う機会もしばらくはなさそうだった。
 まだナミの両親には会ったこともなく、実家に行くには大げさすぎると僕は思っていた。
 
 波にもまれる。上からのしかかる水圧が僕を海の底に追いやり、回るうねりで上の下もわからなくなる。
 それでも、何度波にもまれても、僕は沖に出てまた波に乗ろうとチャレンジする。
 その日、これまでにない最高のライディング(※波に乗ること)を決めた。それは特別な瞬間だった。無音の風の中で、景色だけが後ろに通り過ぎて行った。
 最高のライディングの後は、波にのもまれてばかりだったけど、それでも何度もチャレンジしたいと思った。
 
 9フィートのサーフボードの上から沖を眺める。
 うねりに揺られながら、僕はナミに謝る言葉を考えていた。

《了》

ふぅ。さんの短歌を見て、サーフィンがすぐに思いつきました。
喧嘩をしたら、先に謝りましょう😂

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