【#35】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品 41 小説家/作詞・作曲家 PJ 2024年6月26日 17:00 【本編連載】#35ボロー・タカバタケ 『西暦3175~3200年 地球にて』 ノゾミはすくすくと育っていった。ノゾミはその体つきが成人と同じぐらいになったころ、ジャパニーズの伝統芸能『オマンザイ』にのめりこむようになった。 やがて『彼女』は『カンサイベン』を覚え、俺に『オマンザイ』の相手をするように要望した。 ノゾミは笑った。 何の知識も与えられていない『彼女』は、その感情を自らで勝手に育てて、ただただ素直に笑い転げていた。 感情は外から作られるものではなく、内側から自然と生まれてくるものだった。 笑いと言うものを、俺はノゾミを通して理解した。 ノゾミの笑顔と笑い声が、繰り返す波のように、何度も何度も俺の中を揺さぶり続けた。 それは脳ではなく、違うところで感じるものだった。俺のような作られた命にも、心は確実に存在していた。 ある日ノゾミは、その小さな顔に似合わない、黒の大きな眼鏡をつけた。きっと『オマンザイ』のヴィジョンの真似なのだろう。「笑いは、人間らしさの賛歌ですわ!」 そう言って、ノゾミは眼鏡を人差し指で『クイッ』と上げ、そして笑った。 3198年。新しい世紀が目の前に来ていた。 俺とノゾミの穏やかな日は終わろうとしていた。 新しいスタートに対し、Dr.タカバタケとガバナは、自らの身体を機械化することを俺に命じた。 そして彼らは、「まもなく計画を実行に移す」と言った。 機械化後のある日、彼らはノゾミをどこかに連れて行った。俺はそれを拒否しようとしたが『従順の証』がそれを許さなかった。 3日の時が過ぎたとき、2人は俺を生命製造室に呼び出した。そこには彼ら2人がいるだけで、ノゾミの姿はなかった。 Dr.タカバタケは、俺に言った。「いよいよこの時が来たのだ。お前が新人類を生成する時が。そしてこれからその新人類が、新しい理論を作り出し、星を超え、新天地に我々を導くのだ!」と。「はい、もちろんですDr.タカバタケ様。それでノゾミはどこに行ったのですか?」「ああ、無事に実験は成功したよ。デザインドヒューマンの遺伝子から『量産』が容易であることが証明された」「Dr.?」「デザインドヒューマンの遺伝子なら、そこに大量にある。ワシの編み出した方法と、ノゾミの遺伝子、そしてお前の『人の錬成』の技術があれば、新人類の『量産』は簡単に行える」 Dr.タカバタケの言っている意味が全く分からなかった。「Dr.タカバタケ様、ノゾミはどこにいるんですか?」「だからそこにあるだろう。その塊だ」 その透明な容器には、赤茶色のこぶし大の肉塊があった。 Dr.タカバタケのその言葉が何を示しているのかわからなかった。「Dr.タカバタケ様。俺はどれだけでも新人類を作ります。ノゾミは、ノゾミはどこにいるのですか?」「お前の理解力はそんなに乏しかったか? ノゾミの役割は遺伝子の増殖だ。それだけの量があればいくらでも作れるだろう?」 そして俺はやっと理解した。そこにある『それ』がノゾミであるということに。 俺の中で何かが破壊されていた。気が付いた時、2人分の脳の破片が足元に飛び散っていた。彼らは、脳を生かしたまま体だけ機械化していたのだ。 俺は塊となったノゾミをその透明な入れ物から、そっと手に乗せた。それは保管用に冷たくなっていた。俺はそれが朽ち果てないように、すぐに冷凍し状態を安定させた。絶望とは何の名だ? 死とは何の名だ? 命とは何の名だ? その日から、俺はその遺伝子を取り出し、何度もノゾミを作ろうとした。しかしそれはどれだけやってもうまくいかなかった。何度も過去のやり方を試し、オンラインの海から見つけた考えうる可能性を試してみたが、俺には『彼女』を再び作り出すことはできなかった。 俺はノゾミの言葉を思い出していた。「ボローな。ウチな、次生まれ変わるとしたら、虫になんねん。虫になったら、なんも悩まんでええねんで、ボローもそうしーや。そんで、なーんも考えずに、ただ生まれて、ただ生きて、ただ死んでいくんや。だからな、ウチはもう人間には生まれへんねん。そう決めてん」 結局俺には、ノゾミを作ることも、捨てることも、あきらめることもできなかった。ノゾミ遺伝子をただ保管することしかできなかった。 俺の中には『従順の証』はもうなかった。俺の中で何かが破壊されたときに、それは外れ、そして2人の狂人の脳を打ち砕いたのだろう。 俺は自分が狂っているのか、ヒトが狂っているのか、世界が狂っているのかわからなかった。どれだけ俺が苦しもうと、人々はただただ『食』と言う快楽に身をゆだねていた。 ガバナとDr.タカバタケが作り出そうとした新人類が憎いのか、今の人類が憎いのかわからなかった。 それでも俺の中には『従順の証』をなくした後でも、『人類を新しい惑星に導き、その命をつないでいく』という、遺伝子にデザインされた『存在理由』が残っていた。 俺はもう一度、地球に潜った。 そこに何かの答えを求めていた。 皮肉なものだ。 そんな俺に地球は自らの『かけら』を渡し、「人類救ってくれ」と言った。 それから地球は俺に1つの提案をした。 それは『俺の遺伝子とノゾミの遺伝子を掛け合わせる』ということだった。「そこから生まれる新しい命が人類を救う」と地球は言った。 俺には何が正しいのかわからなかった。 ただ一人、生命製造室で何日も過ごした。 見つめたその先には、遺伝子だけになったノゾミがいた。 俺は立ち上がると、地球の言うとおりに、2つの遺伝子を掛け合わせ人工子宮に入れた。 そして借り物の名前を捨て、ガバナのいた席に座った。「『ぜん』と『あく』ボローはどっちになりたい?」断章1 終#36👇6月27日17:00投稿 【語句解説】(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります) 【1章まとめ読み記事】 【4つのマガジン】 【本編連載】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民|小説家/作詞・作曲家 PJ|note note創作大賞2024出品作《Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民》の【本編連載マガジン】です。 1話2000文字程度、 note.com 【本編まとめ読み】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民|小説家/作詞・作曲家 PJ|note 1章ごとのまとめ読み記事用のマガジンです。全13章‐12万文字予定。 note創作大賞2024出品作《Dr.タカバタケと『 note.com 【よもやま話】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民|PJ|note note創作大賞2024出品作《Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民》の【よもやま話】のマガジンです。 本編では語れない、 note.com 8月末まで【二次創作タカバタケ】作品箱|PJ|note 参加型二次創作イベント【二次創作タカバタケ】のマガジンです。 note創作大賞2024出品作《Dr.タカバタケと『彼女』の note.com ダウンロード copy #創作大賞2024 #恋愛小説部門 #タカバタケ 41 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート