【洋書レビュー】Sara Lövestam『Flicka Försvunnen』

スウェーデンの作家サラ・レーヴスタムが2015年に発表した『Flicka Försvunnen』を取り上げる。題名は直訳すると『消えた少女』。本書は同年に発表された『Sanning med Modifikation(修正された真実)』を移民や知的障害者にも読みやすいよう簡単な文法や単語を使って改稿したlättläst版で、読み味としては戦前の抄訳に近い。ただし、本書に関しては作者自ら改稿しているようなので作品の肝心な部分が省略されているリスクは低い点が抄訳とは明確に異なる。
元になった『Sanning med Modifikation』はスウェーデン推理作家アカデミー賞の新人部門を受賞しており、本国で高く評価されたことを窺い知ることができる。

あらすじ

イランを離れストックホルムに不法滞在中のクプランは、祖国でのジャーナリストとしての経験を活かして生活資金を稼ぐために私立探偵を始める。インターネットに広告を出した彼の元に届いた最初の依頼は、失踪した六歳の娘を探してほしいというものだった。
母親が警察に通報するのではなく自分のような私立探偵に依頼したことを不審に思いつつも捜査を進めると、失踪した少女が税務庁に登録されていない事実が明らかになる。クプランがそのことを尋ねると、出産時に精神を病んでいた母親は行政に娘を取り上げられることを恐れて出生届を出さずに密かに娘を産み、一人で育ててきたと告白する。


戸籍がなく存在しないことになっている少女の立ち位置が警察から姿を隠し続ける不法移民のクプラン自身と重なる。社会問題を中心に据えてそこから引き起こされる事件を描くのはいかにもスウェーデンらしい。
あくまでも事件を通して社会の闇を描くタイプの社会派ミステリーであり、結末も最初の1/3あたりで十分に予想可能でサプライズ性は乏しいのだが、一人の人物の発言の端々や細かい手がかりから論理的に真相が導かれているので伏線が回収されていく快感は味わえる。惜しむらくはダミーの手がかりが本筋と全く関係ない部分で処理されていて浮いている点だろうか。
最終章では事件とは関係なく主人公のクプラン自身について一つの事実が明かされ、シリーズの続編に繋がっていくことが示唆されている。