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「特級」の仕組み、徹底解剖

そもそも「特級」とは何ぞや。どんなピアノコンクールなのか。どんな課題や選抜段階なのか。そこからお話ししていきましょう。すでに何年も見守ってくださっている方には常識のことと思いますが、おさらいを兼ねて。

なぜ名称が「特級」になってしまったのか。日本酒の格付けみたいな(世代がばれる)この名称の由来は、私にも分かりません。未就学児のA2級(なぜA級でなくA2級・A1級なのか、そこにも深~い理由が)から始まって、A1、B、、、、F、Gと来て、特別なクラスにしたかったのでしょうかね(適当・・)。

特級の参加資格には、年齢制限がありません。多少の音楽経験・参加経験が要求され、それがない場合には予備審査が必要になりますが、年齢の制限はないのです。ですから、色々な媒体で「若いピアニストたちにエールを」とか連発してしまっていますが、進出者が出揃うのを待って慎重に使っているのはここだけの話です(笑)。

ピティナ史上に残る社会人グランプリといえば、2005年、当時42歳でグランプリを受賞された金子一朗さん。すでにそこまでに3年連続でファイナル(最終ラウンド)に進出していたという鉄人でしたが、三度目の挑戦にして悲願のグランプリを獲得されたわけです。早稲田高校の数学の先生ということで大きな話題となりました。音楽・ピアノとともに生きてゆく人生。その背中をずっと見せてくださっている偉大なグランプリです。


ひとまず、音楽を高い志で学ぶすべての方に門戸は開かれているのです。

さて、「特級」の選抜段階は5段階。専門家を目指す方々を対象とした国内コンクールでは最大規模の課題を要求しています。これは、ここからさらに国際コンクール(ショパンコンクールやヴァン・クライバーンコンクールの過酷さを目の当たりにしたのは記憶に新しいところです)を目指していただきたい、そこに通用する実力を身に着けていただきたいという願いからです。全体像は以下のようになっています。日程は今年度の例です。

1次予選(動画審査) 6月20日までに動画提出
2次予選  7月26日~27日 ソロ
3次予選  7月29日 コンチェルトの1楽章分(ピアノ伴奏)
セミファイナル  8月14日 ソロリサイタル
ファイナル  8月17日 コンチェルト(オーケストラ伴奏)

1次予選

1次予選は、コロナ禍以降、動画審査となっています。2023年度以降、再び実地審査を復活させるか毎年検討を重ねており、都度、情勢に合わせた最適な方法を選んでいきたいと思っています。

課題は15~25分のソロ。連続して演奏された編集なしの動画を提出します。2つの必須課題を含む必要があります。

(1)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの指定のソナタから1つ以上の楽章
(2)リストからリゲティまで(つまりショパン以外)の指定された作曲家のエチュード1曲

(1)(2)を演奏したうえでまだ時間が余れば、さらに自由曲を付け加えることができます。ここでは、ソナタとエチュードにおいて、クラシック音楽を演奏する基礎的な技量・素養を確認し、次のラウンド以降で多くの時間の演奏を披露するに足る適性や能力を持っているかを確認します。

応募動画はこんな雰囲気です。(2020年度グランプリ尾城杏奈さんの、応募動画のお手本みたいな美しい映像をどうぞ)


2次予選(25名)

2次予選からは、実際のコンサートホールでの審査としています。

2次予選は、25分~35分のピアノソロで、ショパンのエチュード1曲を必ず含むこととしていますが、ショパンエチュードは数分で終わってしまいますので、それ以外はほぼ自由な選択で、たっぷりとそのピアニスト独自のレパートリーを披露していただきます。

このラウンドが最も制約が少なく、ある意味では最も自由に個性が出せる段階となります。そこでは、自由な選択と表現を許容することで、そのピアニストのオリジナリティあふれるプレゼンテーションを期待し、ピアニストとしての能力・技量・音楽性はもちろん、プロフェッショナルな演奏家として「きらりと光る何か」「聴き手にもっと聴きたいと思わせる何か」を持っているかが試されます。最も面白く、そして、最も難しいラウンドといえるかもしれません。ぜひ2次予選にご注目ください。


3次予選(10名)

3次予選は、2次予選から1日を空けて行われる、いっぷう変わった選抜段階です。

そこでは「ピアノ伴奏により、ファイナルのために準備しているピアノ協奏曲の一部(多くは1楽章ぶん)を演奏する」ことになっています。2次予選を通過した10名は、その日の夜に通過の一報を受け、翌日、事務局があてがった公式伴奏者のピアニストの先生方とリハーサルを行います。演奏する楽章は、前々から分かっているのではなく2次予選の1~2週間前に知らされますから、もちろんこの段階で全部の楽章を読んでおかなければなりません。ファイナル直前に付け焼刃でコンチェルトを仕上げることは、「特級」では許されないのです。これは、すべてのレパートリーの準備をもって臨む国際コンクールに少しでも近い状況を再現しようとしているからです。

昨年の3次予選の様子を見てみましょう。ピアノ伴奏でありながら、オケパートが加わり、ぐっと華やかになる楽しいラウンドです。

ここで最もハードな仕事を課されるのは、公式伴奏者のピアニストの先生がたです。1次、2次と進むにつれ、出場者の皆さんが何人ずつ、どんな曲を選んでいるかは知らされますが、それでも最後は前日の夜に知らされる担当曲の伴奏を、翌日のリハーサルと翌々日の本番で担当することになるのです。毎年ご協力いただくピアニストの皆様には本当に頭が下がります。伴奏者の献身的なサポートにもぜひご注目ください。今年も、特級入賞者出身の素晴らしいピアニストの皆様にサポートをお願いしています。乞うご期待。

セミファイナル(7名)

セミファイナルは、3次予選からおおよそ2週間程度を空けて、ピティナの「甲子園」=第一生命ホールで行われます。

美しい響きをもつ 第一生命ホール

セミファイナルの課題は、45~55分のソロリサイタルです。次の2つの必須課題を必ず含むこととされています。

(1)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの任意のソナタから1つ以上の楽章
(2)ピティナが委嘱した日本人作曲家による新曲(4分程度)

(2)の「日本人作曲家による新曲」が、ピティナならではの課題です。そしてこの新曲の楽譜は、2週間ほど前の3次予選終了後、セミファイナリストになることが決まったときに初めて渡されます。プロになれば、できたてほやほやの新曲や、直前に決まった演奏機会に対して、相応のレベルでの演奏をいつでも披露できなければなりません。作品の性格やポイントを大づかみにとらえ、魅力的に表現する技巧と創造性が求められています。

そして何より、セミファイナルでは、約1時間を「あなたのソロリサイタルとして自由に演出してください」という課題が課されているのです。演奏家としての魅力、思い、信念、野望、こだわり。すべてを表現するのがこのセミファイナルのステージです。


セミファイナル終了後、ただちに4人のファイナリストが発表され、ファイナルの演奏順が改めて抽選されます。

セミファイナル翌日には、指揮者の先生と打合せ。翌々日には都内の練習場やコンサートホールで、オーケストラの皆さんとのリハーサルが待っています。ファイナリストにとっては、セミファイナルの後、まったく休む暇もありませんが、これも、選抜が進むにつれてどんどん苛酷に、そして取材なども含めて忙しくなっていく大規模な国際コンクールを意識しています。体力の限界でむかえるファイナル。そこで最高の演奏を披露することができるタフな演奏家にこそ、プロフェッショナルの栄誉が与えられます

ファイナル(4名)

登り詰めた頂上は、いよいよ日本のクラシック音楽の最高峰「サントリーホール」で、プロの指揮者・オーケストラとの夢の舞台「ファイナル」です。

今年は8月17日(水)、飯森範親先生の指揮のもと、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の皆様とともに、4人のソリストたちが、この夏のすべてをかけた全身全霊のコンチェルトを披露します。

音楽の殿堂 サントリーホール

チケットのご予約はすでに始まっています(突然の告知モード)。もちろん無料でのライブ配信も、すべてのラウンドで当然行います。

5つの山を越えて、サントリーホールにたどり着く4人はいったい誰か。2次予選から注目し、25人の中から、ぜひ予想してみてください。

2022 2次予選進出者25名




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