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2次予選の課題曲(予習編)

日本で早朝からショパンコンクール1次の結果発表に興奮した方、お疲れさまでした。まずは、本当に心の底から、すべてのコンテスタントたちに「おめでとう、そしてありがとう」です。特に今回、パンデミックの中で、延期に次ぐ延期を重ねたコンクールで気持ちをつないでくるのは並大抵のことではなかったでしょう。1人1人に物語があり、大好きな音楽があり、応援してくれる人たちがいるという当たり前の事実に深く感動しました。

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さて、現地では10/8(金)が1次と2次の中日、お休みです。

2次予選は4日間。10/9(土)日本時間17時(現地10時)からスタートします。1次予選と同様、「昼の部」10時(日本時間17時)開始のセッションと、「夜の部」17時(日本時間0時)開始のセッションがあり、公式サイトでは各5人ずつの枠組みが組んでありますが、それでは45人の通過者が入り切りませんので、6人になるセッションがあるのでしょう。スケジュールや日本人コンテスタントの出演時刻が分かり次第、当サイトでもお伝えいたします。

◆公式サイトのスケジュール表(10/8朝現在、演奏予定は未更新)


さて、2次予選の予習をしておきましょう。課題曲の全貌については、以前公開した以下の記事をご参照ください。

そのうえで、今回は「2次予選」のみに注目です。

◆第2次予選の課題曲

30~40分のショパンの作品。以下の(1)~(3)は必ず含むこと。演奏時間内でそれ以外のショパンの作品を追加してもよい。
(1)について、

(1)以下の作品から1曲
バラード第1番 ト短調 Op.23
バラード第2番 ヘ長調 Op.38
バラード第3番 変イ長調 Op.47
バラード第4番 ヘ短調 Op.52
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
幻想曲 ヘ短調 Op.49
スケルツォ第1番 ロ短調 Op.20
スケルツォ第2番 変ロ短調 Op.31
スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op.39
スケルツォ第4番 ホ長調 Op.54
ポロネーズ第7番 変イ長調 Op.61 「幻想ポロネーズ」
※この(1)のジャンルについては、第1次予選でスケルツォを演奏した者は別のジャンルから選択すること

(2)以下のワルツから1曲
変ホ長調 Op.18 「華麗なる大円舞曲」
変イ長調 Op.34-1
ヘ長調 Op.34-3
変イ長調 Op.42
変イ長調 Op.64-3

(3)以下のポロネーズから1曲
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
2つのポロネーズ Op.26(2曲とも演奏のこと)
ポロネーズ第5番 嬰ヘ短調 Op.44
ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53 「英雄ポロネーズ」


ポイントは

ア)演奏時間が、1次予選より少しだけ長くなる
イ)ワルツ、ポロネーズを必ず演奏する
ウ)バラード・スケルツォグループからもう1曲演奏する
エ)時間が余ったら、自由に選択したショパンの曲を演奏してよい

の4つです。順に少しずつ見ていきましょう。

ア)演奏時間が、1次予選より少しだけ長くなる

1次予選は、エチュード・ノクターン系・バラードスケルツォ系と「曲が指定されている」形で、演奏時間の縛りはなかったのですが、演奏者ごとのアーカイブ等を見れば分かるように、おおむねこれらを組み合わせると20~25分程度のプログラムになります。

2次予選では、むしろ全体の枠組みとして「30~40分」と決められていますから、各演奏者とも10~20分くらいは長く弾くことになります。もちろんこのレベルのピアニストたちにとっては何でもないことですが、他の国際コンクールやピティナ特級などと同様、徐々に時間が長くなって、その時間に耐えうるピアニストかどうかがチェックされるようになります。

イ)ワルツ、ポロネーズを必ず演奏する

さあ、来ました。ショパンコンクールの神髄、舞曲の指定課題です。まずは、「ワルツ」そして「ポロネーズ」です。(さらに恐ろしい?「マズルカ」は次の3次予選で待っています)

ワルツもポロネーズも、どの曲でも良いわけではなく、上記の通り、ある程度の規模感があって、これらの舞曲の様式を特によく表しているものが選りすぐられています。たとえば、「小犬のワルツ=ワルツ第6番 Op.64-1」や「軍隊ポロネーズ=ポロネーズ第3番 Op.40」などのおなじみの名曲が指定されていないことには注意です(自由曲枠で選択するのは可)。

また、ポロネーズのようなポロネーズでないような、という傑作「幻想ポロネーズ(ポロネーズ第7番 Op.61)」は、むしろ、(1)のバラードのグループの入れられています。この作品の扱いは毎回細かく変わりますね。

ワルツ(2次)とマズルカ(3次)、そしてポロネーズ(2次)。ショパンの魂ともいえる舞曲をそれぞれどのように理解し、表現するか。ここから「ショパンコンクール」ならではのステージがスタートするといっても過言ではありません。

ウ)バラード、スケルツォグループからもう1曲演奏する

1次予選で課されていた「バラード」or「スケルツォ」or「舟歌」or「幻想曲」。2次でもふたたびこのグループから演奏してください、ということになっています。もちろん異なる曲を選択します(各ラウンドの重複不可ルールにより)。また、2次予選では、「幻想ポロネーズ」が加わっています。

興味深いのは、1次予選で「スケルツォ」を弾いた演奏者は、必ずそれ以外を選択するように指定されていることです。「バラード」的な物語の<語り>の要素をいかに重視しているかが分かります。

エ)時間が余ったら、自由に選択したショパンの曲を演奏してよい

そして、この2次予選からもっとも面白い展開になるのが、このルールです。2次予選と3次予選では、指定課題以外に時間が余れば、「自分の好きなショパンの曲」を入れて、プログラムを組み立てられるのです。ここにピアニストたちの個性とプログラミング能力が出ます。

毎回、少しずつ選曲規定が細かく変わりますが、

たとえば、前回優勝のチョ・ソンジンの2次予選。彼は、3次予選の「ソナタ2番or3番or24の前奏曲」課題では「24の前奏曲」を選択し、なんと2次予選に、弾かなくてもよいソナタ(2番)を入れて、「ソナタも24の前奏曲も弾けます」と示しました。(下記は当時アーカイブ)

また、2010年優勝のラファウ・ブレハッチは、「ワルツ」の課題に対して、指定課題から「Op.64-3」を選択しながら、「Op.64-1小犬のワルツ」と「Op.64-2」も加えた「Op.64の3曲セット全曲」にして見事に演奏してみせました。「1曲だけ取り出すのではなく、作品集として聞いてみて」という彼のメッセージやショパン愛がよく分かります。

なかなか本編では指定されていないジャンル(即興曲、変奏曲など)、聞くことができない小品や少し知名度が劣る名曲を素晴らしい演奏で聴くことができるのも「自由曲枠」の魅力です。

序奏とロンド 変ホ長調 Op.16 (シャルル・リシャール・アムラン、2015年第2位)

マズルカ風ロンド Op.5 (エフゲニ・ボジャノフ、2010年第4位)※この演奏、何度もご紹介していますね

ボレロ Op.19 (ニコライ・ホジャイノフ、2010年ファイナリスト・今回も2次予選進出中)


さて、ちょっとマニアックになってきましたので、このあたりにしましょう。いずれにせよ、1次予選で「完全に指定された課題」から選んでいた参加者たちは、少しずつ自由を得て、時間も得て、自分の個性や強みをアピールするようになってきます。

1次予選とまた違った、2次予選のプログラム。ぜひピアニストたちの個性を存分に楽しみましょう。


写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)

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