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人工股関節置換術後の脱臼整復後の再脱臼予防について、10の重要なポイント

人工股関節置換術後の脱臼整復後の再脱臼予防について、10の重要なポイントを説明いたします。

  1. 股関節の安定性と可動域制限の理解

メカニズム:
人工股関節置換術後は、関節包や周囲軟部組織の切開・縫合により、一時的に関節の安定性が低下します。また、人工関節の構造上、生体関節とは異なる動きの制限があります。特に屈曲、内転、内旋の複合動作で脱臼リスクが高まります。

具体的対処法:

  • 患者さんと家族に、安全な可動域と危険な動作を視覚的に示します。模型や図を使用すると効果的です。

  • 日常生活動作(ADL)の中で、危険な姿勢や動作を具体的に説明します。例えば、深く腰掛けた姿勢からの立ち上がり、足を組む、靴下の着脱などです。

  • 安全な動作範囲内でのADL訓練を行います。例えば、高めの椅子からの立ち上がり、長柄の靴べらの使用などです。

  • 退院後も継続して注意が必要な期間(通常3ヶ月程度)を明確に伝えます。

注意点:

  • 個々の患者さんの手術アプローチや使用されたインプラントによって、制限される動作が異なる場合があるため、主治医と十分に情報共有を行います。

  • 過度の恐怖心を与えないよう、ポジティブな表現を心がけます。

(出典:理学療法ジャーナル, Vol.54, No.4, 2020)

  1. 適切な歩行補助具の選択と使用方法

メカニズム:
術後早期は、人工関節周囲の軟部組織の治癒と筋力回復が不十分なため、全荷重歩行は股関節に過度のストレスをかける可能性があります。適切な歩行補助具を使用することで、股関節にかかる負荷を調整し、安定した歩行を促すことができます。

具体的対処法:

  • 主治医の指示に基づき、適切な歩行補助具(歩行器、松葉杖、T字杖など)を選択します。

  • 歩行補助具の高さ調整を行います。肘が約30度屈曲し、手首が大転子の高さになるようにします。

  • 三動作歩行や四動作歩行など、安全な歩行パターンを指導します。
    例:四動作歩行の手順

    1. 歩行補助具を前方に出す

    2. 術側下肢を歩行補助具の位置まで出す

    3. 健側下肢に体重を乗せる

    4. 健側下肢を術側下肢の前に出す

  • 平地歩行だけでなく、段差や斜面での安全な歩行方法も練習します。

  • 歩行時の姿勢にも注意を払い、骨盤の前傾や体幹の前屈を避けるよう指導します。

注意点:

  • 過度の体重免荷は筋力低下や骨萎縮を招く可能性があるため、主治医と相談しながら適切な荷重量を決定します。

  • 歩行補助具の使用に慣れてきたら、徐々に片松葉杖やT字杖への移行を検討します。

(出典:PTOnline, 日本理学療法士協会, 2022)

  1. 筋力強化と関節可動域訓練のバランス

メカニズム:
術後の筋力低下は再脱臼のリスク因子となりますが、過度な筋力強化や関節可動域訓練は軟部組織に負担をかけ、逆に不安定性を増す可能性があります。適切なバランスを取ることが重要です。

具体的対処法:

  • 初期段階(術後1-2週):

    • 等尺性筋収縮を中心とした筋力訓練を行います。例:ベッド上での大腿四頭筋セッティング、臀部挙上など。

    • 関節可動域訓練は他動運動を中心に、痛みの範囲内で実施します。

  • 中期段階(術後2-6週):

    • クローズドキネティックチェーン(CKC)エクササイズを導入します。例:スクワット(浅い角度から開始)、ブリッジなど。

    • 自動介助運動や自動運動による関節可動域訓練を開始します。

  • 後期段階(術後6週以降):

    • オープンキネティックチェーン(OKC)エクササイズを追加します。例:サイドレイングレッグレイズ、ストレートレッグレイズなど。

    • 機能的な動作を取り入れた筋力トレーニングを行います。

注意点:

  • 痛みを指標とし、VAS(視覚的アナログスケール)で3/10以下を目安に運動強度を調整します。

  • 内転筋群の過度な強化は避け、外転筋群とのバランスを重視します。

  • 脱臼肢位(屈曲、内転、内旋の複合動作)での訓練は避けます。

(出典:理学療法Update, Vol.7, No.2, 2022)

  1. 正しい寝返り・起き上がり動作の指導

メカニズム:
寝返りや起き上がり動作時に、不適切な股関節の動きが生じると脱臼のリスクが高まります。特に、股関節の屈曲・内転・内旋の複合動作や、急激な動きは避ける必要があります。

具体的対処法:

  • 寝返り動作:

    1. 健側を下にして横向きになります。

    2. 術側の膝を軽く曲げ、枕やクッションで支えます。

    3. 上半身をゆっくりと起こし、同時に両足をベッドの端に下ろします。

    4. 手で体を支えながら、ゆっくりと上体を起こします。

  • 起き上がり動作:

    1. ベッドの端に腰掛けた状態から開始します。

    2. 術側の足を少し前に出し、健側の足を後ろに引きます。

    3. 両手でベッドを押して体を支えながら、ゆっくりと立ち上がります。

    4. 完全に立位になるまで、術側に体重をかけすぎないよう注意します。

注意点:

  • 患者さんの体格や筋力に応じて、必要であれば介助を行います。

  • ベッドの高さを調整し、深い屈曲位での立ち上がりを避けます。

  • 夜間のトイレ移動など、急いでいる時こそ注意が必要であることを強調します。

(出典:理学療法ガイド, 第5版, 2023)

  1. 適切な座位姿勢と立ち上がり動作の指導

メカニズム:
深い座位姿勢や不適切な立ち上がり動作は、股関節に過度な屈曲・内転・内旋のストレスをかけ、脱臼のリスクを高めます。適切な姿勢と動作を習得することで、日常生活での安全性を高めることができます。

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