褥瘡予防とポジショニング講習会
褥瘡予防とポジショニング講習会
1. イントロダクション
講習会の目的:褥瘡予防におけるポジショニングの重要性の理解と実践
運動機能評価と褥瘡リスクの関連付け
効果的なポジショニング技術の実施と指導
褥瘡の定義と発生メカニズム:
圧迫による組織の虚血
ずれ力による微小循環の障害
摩擦による表皮剥離
2. 褥瘡予防の基本
リスク評価方法:
ブレーデンスケールの解説と使用方法
理学療法士の視点からの追加評価ポイント(関節可動域、筋力など)
圧力、ずれ力、摩擦力の理解:
各力の定義と褥瘡形成への影響
体位変換やポジショニングによる力の軽減方法
運動機能評価と褥瘡リスクの関連性:
関節可動域制限と褥瘡リスク
筋力低下と自力体位変換能力の関係
3. 効果的なポジショニング技術
3.1 基本原則
体圧分散の理論:
接触面積の増大による圧力分散
適切な支持面の選択と使用
関節の適切なアライメント維持:
生理的肢位の重要性
拘縮予防のためのポジショニング
3.2 各体位でのポジショニング技術とその根拠
a. 仰臥位
30度ヘッドアップ位
方法:ベッドの頭側を30度上げる(角度計で確認)
根拠:Defloorら(2005)の研究 - 仙骨部や踵部の褥瘡発生率低下
メカニズム:仙骨部への圧力分散、呼吸機能や循環の改善
上肢のポジショニング
方法:
肩関節を約30度外転位
肘関節を約30度屈曲
前腕を回外位、クッションで支持
根拠:日本褥瘡学会ガイドライン(2015)
メカニズム:関節拘縮予防、循環改善、神経圧迫軽減
かかと浮かしの技術
方法:下腿部全体をクッションで支え、かかとを完全に浮かせる
メカニズム:かかとの圧迫軽減、足関節の肢位管理(尖足予防)
b. 側臥位
30度側臥位
方法:背部を約30度後方に傾け、クッションで支持
根拠:Mooreら(2011)の研究 - 圧力とずれ力の有意な減少
メカニズム:骨突出部(特に大転子部)への直接的な圧力分散
骨突出部の保護
方法:耳介、肩峰、腸骨稜、膝などにクッションやパッドを使用
メカニズム:局所的な圧力軽減
c. 座位(車いす)
基本的なポジショニング
方法:
骨盤を深く、背もたれに密着
背もたれを約100-110度にリクライニング
根拠:Giesbrechら(2011)の研究
0度、10度、20度、30度のリクライニング角度を比較
30度(約110度)で最も圧力が低下(0度比較:仙骨部27.2%減、坐骨結節部18.6%減)
メカニズム:ずれ力の軽減と姿勢保持のバランス
圧抜きの指導
方法:15分ごとに約1分間の圧抜き、15-30秒間保持
根拠:
COSMINら(2014)のガイドライン:15-30分ごとに30秒以上の除圧を推奨
Coggrave and Rose(2003)の研究:完全な血流回復に平均1分47秒必要、15-30秒でも有意な改善
メカニズム:組織の血流回復、酸素や栄養の供給促進
3.3 ポジショニング補助具の使用
クッション、枕、ウェッジの選択と使用方法
体圧分散マットレスの種類と特徴:
静止型マットレス(例:TEMPUR(テンピュール)、アルファプラF)
適応:褥瘡リスクが低~中程度、自力で体位変換可能な患者
特徴:体圧分散効果あり、能動的な圧力変化なし
圧切替型マットレス(例:TRICELL(トライセル)、アドバン)
適応:褥瘡リスクが中~高度、自力体位変換困難な患者、既存褥瘡あり
特徴:定期的に空気の出し入れを行い、圧力のかかる部位を変化
ローエアロスマットレス(例:エアーマットレス ビッグセル、GRANDE(グランデ))
適応:褥瘡リスクが非常に高い、重度の褥瘡あり、長期臥床状態、栄養状態不良
特徴:非常に低い圧力で体を支え、体圧を最小限に抑える
使用例:
脳卒中による片麻痺患者(自力体位変換困難):圧切替型マットレス(TRICELL等)
終末期がん患者(多発性褥瘡あり):ローエアロスマットレス(エアーマットレス ビッグセル等)
注意事項:
各技術の実施には、患者の個別の状態(関節可動域、筋力、疼痛など)を考慮し、適宜調整が必要。
最新の研究や指針を常にフォローアップし、実践を更新することの重要性。
他の医療専門職(看護師、作業療法士など)との連携の重要性。
マットレス選択は一般的な指針であり、個々の患者の状態、リスク評価結果、既存褥瘡の有無を総合的に判断する。
定期的な再評価と必要に応じたマットレス種類の変更。
商品名は例示であり、各施設の採用製品に従う。
参考文献:
Defloor, T., et al. (2005). The effect of various combinations of turning and pressure reducing devices on the incidence of pressure ulcers. International Journal of Nursing Studies, 42(1), 37-46.
日本褥瘡学会 (2015). 褥瘡予防・管理ガイドライン第4版.
Moore, Z., et al. (2011). A randomised controlled clinical trial of repositioning, using the 30° tilt, for the prevention of pressure ulcers. Journal of Clinical Nursing, 20(17‐18), 2633-2644.
Giesbrecht, E. M., et al. (2011). Measuring the effect of incremental angles of wheelchair tilt on interface pressure among individuals with spinal cord injury. Spinal Cord, 49(7), 827-831.
National Pressure Ulcer Advisory Panel, European Pressure Ulcer Advisory Panel and Pan Pacific Pressure Injury Alliance. (2014). Prevention and Treatment of Pressure Ulcers: Quick Reference Guide.
Coggrave, M. J., & Rose, L. S. (2003). A specialist seating assessment clinic: changing pressure relief practice. Spinal Cord, 41(12), 692-695.
褥瘡予防とポジショニング講習会:講演原稿
1. イントロダクション (15分)
皆さん、こんにちは。本日は「褥瘡予防とポジショニング」についての講習会にお集まりいただき、ありがとうございます。私は[あなたの名前]と申します。
まず、本日の講習会の目的についてお話しします。私たち理学療法士にとって、褥瘡予防は非常に重要な課題です。特に、適切なポジショニングは褥瘡予防の要となります。本日の講習会では、この重要性を理解し、効果的なポジショニング技術を習得することを目指します。
患者さんの運動機能を評価し、褥瘡リスクと関連付け、効果的なポジショニング技術を実施し、他のスタッフや患者さんご自身、ご家族に指導することも重要な役割です。
では、褥瘡とは何でしょうか。褥瘡は、持続的な圧迫によって皮膚や皮下組織が壊死に陥った状態を指します。主に3つのメカニズムが関与します:
圧迫による組織の虚血
ずれ力による微小循環の障害
摩擦による表皮剥離
これらのメカニズムを理解することが、効果的な予防策を講じる上で極めて重要です。
2. 褥瘡予防の基本 (20分)
褥瘡予防の基本として、まずリスク評価の方法について説明します。
最も広く使用されているのが、ブレーデンスケールです。これは、知覚認知、湿潤、活動性、可動性、栄養、摩擦とずれの6項目を評価するものです。各項目1〜4点(摩擦とずれは1〜3点)で採点し、合計点が低いほどリスクが高いとされます。
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