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ア・コ・ガ・レ

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夢は夢は、欠片と欠片の歪な映画。現は現は、手帳に記す詩人の溜息。そんな小説群。
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記事一覧

ハダシ

垂れる血が美しかったから、眺めることを求めた。腹が減ったからパンを食べるのと同じだろ? 何が悪いのかわからない。でも、色取り取りの黒い「モヤ」が、謝れと騒ぎ立てるんだ。誰に? どうやって? わからないから問うた。「モヤ」は散った。

私は彼のためを思って言っているんです。だって、おかしいじゃあないですか。なんで当たり前のことがわからないの? って言うとね、彼なんて答えたと思います? 「アタリマエッ

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レナイ

 朝食を作っている時、不注意から左腕に火傷を負った。薬を塗って包帯を巻いたら、なんだかリストカットを隠しているように見える。外はまだ暑いから、長袖は着られない。かといって、包帯を見た者に邪推されるのも嫌だ。だから出かけたくないと思った。仕事は休みだったのは幸いだった。食材も足りているし、外に出なければいけない理由は特になく、しかもちょうど今日は三連休の初日だ。次の出勤までに治る気がしているので、本

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ガタリ

 ある休日、本屋にでも行こうと思い立ち、出かけた。お気に入りのキャスケットを目深に被り、伊達眼鏡をかけた。

 道すがら、外国からの観光客に声をかけられた。どうやら、目的地へ向かうためのバスがわからなかったようだった。私は、それほど得意でもない英語で、丁寧にバス停までの行き方と、乗るべき路線を教えた。観光客は素敵な笑顔を見せてくれた。良いことをすると気持ちが良い。さきほど教えた情報は全て嘘だったが

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コボレ

 割れた鏡で頬を裂いたら、ホンネというものが見える気がした。痛くて冷たい感じがした。同時に、嬉し恥ずかし、という感情が湧いた。頬の外側を赤が伝ったので、白ワインを飲んだら自ずと笑いがこみ上げて来た。酔いがまわりはじめた。急にシャワーを浴びたくなったから、カミソリを持って公園に行った。日差しが腕を焼く感覚を味わう。

 公園の細い木の幹に、カミソリで相合傘を描いた。右にはサルトル、左にはボーボワール

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アラズ

 不在通知が郵便受けに入っていた。私はそれを見て、再配達の依頼をした。指定時刻は明日の12時から14時までの間。その依頼の受付をスマートフォンで済ませてから、私は明日のお昼に、友達と食事に行く約束を取り付けた。相手は誰でも良かった。だから最近会っていなくて土日が休みの友達を誘った。

 来て欲しい。でも逃げたかった。だから両方を取った。ただ、それだけのことだった。

 翌日のお昼、インターホンが誰

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