ガタリ
ある休日、本屋にでも行こうと思い立ち、出かけた。お気に入りのキャスケットを目深に被り、伊達眼鏡をかけた。
道すがら、外国からの観光客に声をかけられた。どうやら、目的地へ向かうためのバスがわからなかったようだった。私は、それほど得意でもない英語で、丁寧にバス停までの行き方と、乗るべき路線を教えた。観光客は素敵な笑顔を見せてくれた。良いことをすると気持ちが良い。さきほど教えた情報は全て嘘だったが、それでもあの笑顔が見られたならばそれで良い。せっかくなので、彼らが行きたがっていた観光地へ、バスに乗って向かうことにした。
そこは荘厳な寺院だった。巨大な千手観音を目の当たりにし、心が洗われる気がした。静かに手を合わせて祈りを捧げ、寺院を出る時、感謝を込めて十字を切った。気分が非常に晴れやかになったので、その脚で風俗店に向かった。
このような店を利用するのは初めてだった。だから受付で「オススメの子で」とだけ話した。すると、私の前にモデルやアイドルにいてもおかしくないくらいの美少女が現れた。急に心に殺意の沸くのを感じた。憎いからではない。今は「ラッキーだ」と思う気持ちを抱きたくなかったからだ。目の前の美しい女に、今の私を汚させるわけにはいかなかったので、「一人でするから見ていてくれ」とだけ言って、時間が来るまでずっと女の目の前でスマートフォンのゲームをしていた。
帰宅する前に、コンビニに行ってお金を下ろした。それだけだとなんとなく申し訳ない気がしたので、コーヒーを買った。
家に着いてすぐに、コーヒーを捨てた。私はコーヒーを飲みたい気分ではなかったからだ。明日は朝から仕事だ、と思ったので、とりあえずシャワーを浴びた。翌朝の5時、アラームが私を起こすだろう。それで起きられなかったら、6時に設定したアラームが私を起こすだろう。
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