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のんきを守るには

梅雨の、もあっとした空気の中、いつもの道を車で走っていたら、そのいつもの道の途中にあるいつもの公園の入り口に差し掛かるあたりに大きなシェパードが散歩していた。

勿論、飼い主がリード付けて歩いてた訳だけど、ぐったりした空気の中所々黒い体を前に進ませている姿は、ひとりで散歩しているような悠然さがあった。大きい犬、一人で生きていけそうな大きな犬だ。

わー、おーきー。と言いながら私はその横を通り過ぎて、またしばらくしたらゆっくり歩くおじいさんの前や横を、ちょこまかと動く大きくも小さくもない犬がこちらに向かってきた。白さと毛のほわほわさが、その子ののんきを引き伸ばしていた。のんきに白い毛が、動くたびに揺れるのだ。

おじいさんを引き離したり、待って近付けたり、そうかと思うと何か見つけて走り出したり。その後ろをおじいさんもただついてくる。

私はその白い毛の塊を眺めながら、「もうすぐ来るよ、大きい黒い子が。いいのか、そんなのんきに歩いてて」と咄嗟に思ってしまった。きっとこの子は向こうからやってくるあの子を見たら萎縮するだろうと、そして思わず吠えちゃうんじゃないだろうかと、その吠える我が犬をあのおじいさんが押さえなだめなければならないんじゃないかと、とっても余計な心配をした。

どうなったのか、答えは、知らない。


私は自分が暮していても、そんな声が浮かぶ時がある。

「大丈夫?いいの?そっちで本当に」

本当にいいのかなんて正直知らない。でもなんとか今に辿り着いている。結局なんとかここにつながっているんだけど、一度は客観視をしているんだ、外から、上から、未来の方角から、昔の方角からも。

「そっちでいいの?悪いことまってるかもしれないよ」

白い犬が自分の中の恐怖と闘ってなんとかおじいさんを守るように、その時が来たら解決できる力が自分にあればいいことだ。あの声は何なんだろう。

例え、この声が自分の中からではなく、他人から聞かされたとしても「嫌な話」には耳を傾けにくい。何言っちゃってんの、証拠はあるの。自分は安全だと信じていたいものだ。そして実際に起きてほしくないことが起きた時、信じなかった自分を大きく恨む。ここから始まる不幸もある。

ああ、だから白い犬。おじいさんから離れずに、前を見てゆっくりと歩くんだよ。これからも楽しい事だけじゃない、守らなければならないものもあるんだ。楽しかったことを、楽しかったと振り返られるように、今をよく見て感じていてほしい。君にはずっとのんきでいてほしいと思ってる。

ずっとのんきでいる、ってすごいことだから。

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