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愛は逃げたか隠れたか

心配してたヘビが見つかりました。

私の心配など、何にも及ばないわけですが、私の妄想の中ではかなり心配だったわけです。

私の中では「自分のことを見てほしくて、家出をしたさびしそうな子」という設定が固まっていました。ご主人が早く見つけてくれないかな、と後ろを振り向き振り向き、見つかりそうで見つからない場所を進み、気が付いたら全く知らない町まで来てしまっていた。そんなイメージです。

もっと言えば、その知らない町で知らない動物たちと出会うんですね。最初は勿論誰もが怖がります、カラスも猫も恐怖から遠巻きに見ていますが、様子がおかしいことに気付きます。「あんた、どこからきたの」声をかけられたヘビは、ここまで来てしまった現実に心がとうとうぱちんとはじけてしまいます。涙をぽろぽろ流しながら「わからないの」と言いました。

どこから来たのか分からない者と、この町の隅々まで分かる動物たちが出会う訳ですが、共通認識は「知らない人間は信用してはいけない」ということ。大きな姿をなんとか誰にも見せないように、ヘビがどこから来たのか、ご主人がどこにいるのかを動物たちは見つけ出そうと奔走します。

その間、ヘビはご主人との思い出が頭をよぎり、事あるごとに寂しさに負けそうになります。でも新しく出会った動物たちが自由に暮らす姿にもあこがれ始めます。どこから来たのか、どう生きたいのかも分からずこんなに大きな体になってしまったことに、ヘビはすっかり自信をなくすのです。きっとご主人はもう私をさがしてなんかいない、そんな気持ちが心を埋め尽くしていく。

ああ、ヘビは今頃どこでこんな悲しい思いをしているだろう。そう思っていた日々は、突然の速報で途切れます。

その子は屋根裏にいたというではないですか。それは、もっと切ない結末でした。

ほんの少し身を隠して、ちょっと心配させたかった。ご主人なら私がどこにいくかなんてすぐ分かってくれる。他のヘビやカメよりではなくて、私がいないとだめって思ってほしい、だから少しだけご主人ごめんなさい。

そんな出来心みたいなもので、にょろりにょろりと隠れただろう。暗い場所は得意だししばらくなら問題なくいられる。あとは耳をすまして主人が見つけてくれるのを待つだけだ。「ここにいたのかぁ」とうれしそうに腕を伸ばしてくれる瞬間の為に、その子は2週間以上をそこで過ごす。

その声は遠ざかり、知らない人間たちの気配が増え、下に降りていける自信がない。様子をうかがい時を待っても、日常と違う空気が屋根裏から出ることをさせない。もう、下が見知らぬ世界に思えて、最早主人が来るまで自分からは出られなくなってしまったのだ。

やっと見つけ出された時、腕を伸ばしてくれたのはご主人ではなかった。でももうそれが誰でもどうでもよかった。残ったのはご主人は私を見つけられなかった、という切ない失望だった。あんまり大事じゃなかったのかな、こんなことなら、本当にどっか外にでも出てしまえばよかったな。

半端な期待と半端ないたずら心が、自分を傷つけることになってしまった。

巻き付いて動物をしとめる、そんな知られなくてもいいことを知らされて全国の人からむやみに怖がられた、かつてご主人に愛されて望まれて迎えられた一つの存在。

共に生きると決めた者から、目を離しちゃいけないね。こんなの悲劇。

私は私で勝手に妄想して、もうずっと苦しい。

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