「心理的安全性のつくりかた」はじめに公開

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この記事では、2020年9月に発売される新刊「心理的安全性のつくりかた」の冒頭の一部分を無料公開します。
もちろん購入(Amazonリンク)して頂けると嬉しいです! が、この記事だけでも「心理的安全性とは、ざっくり何か?」「なぜ、今この時代に心理的安全性が必要なのか」について、学ぶことができます。

いまこそ、日本の組織が、ひとつひとつのチームが、心理的安全で効果的なものへと変わることを祈って、本書の冒頭パートを公開させて頂きます。

はじめに

「それ、おかしくないですか?」
「私はこうした方がいいと思います。なぜかと言うと……」
「ちょっとわからないので、教えてもらえませんか?」

このように率直に意見を言い、また質問をする。
それだけのことですが、これがチームの成果を左右するくらい、実は重要なことなのです。

本書がテーマにしている「心理的安全性」とは、このように組織やチーム全体の成果に向けた、率直な意見、素朴な質問、そして違和感の指摘が、いつでも、誰もが気兼ねなく言えることです。
一見すると普通のことですが、組織・チームでこれを行うのはとても難しいのです。

ただ率直に発言することの、何が難しいのでしょうか?

自分が上位役職者で、実績も経験も十分で、直近の業績が良ければ、率直に意見を言うことは、簡単なことです。
しかし、仕事人生を振り返ってみてください。

新人の頃、何となく違和感があったけれど「相手はベテランの先輩だから……」と指摘できず、後で大きなトラブルになりかけて、「やっぱり自分の違和感は正しかった」と感じたことはなかったでしょうか。

上司の指示がよくわからず、しかし質問をしづらくて、やるべき事が曖昧なまま見当違いの方向で努力してしまい、後で怒られたこともよくあることではないでしょうか。

率直に意見を言うこと、質問をすることが、状況や立場にとっては、とても難しかったことが思い出せるでしょう。

チームの一人一人が、率直に意見を言い、質問をしても安全だと感じられる状況、つまり心理的安全な状況をつくることは、実は難しいのです。
そして、この人々が率直に話せる状況を作ることが、激しく変化し続ける時代における組織とチームの未来をつくるために、重要な仕事なのです。

さまざまな研究が、この心理的安全性によって、効果的な組織・チームが作れることを示しています。

Googleによって知れ渡った「心理的安全性」

Googleは2012年に立ち上げたプロジェクト・アリストテレスの中で、4年の歳月をかけ「効果的なチームは、どのようなチームか」を調査・分析しました。
Googleのリサーチチームが見出したのは、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」だということでした。

そして、さまざまな協力の仕方がある中で圧倒的に重要なのが「心理的安全性」であり、心理的安全なチームは離職率が低く、収益性が高いと結論づけています。

ビジネスの世界にこの知見を広めたのはGoogleですが、もちろんGoogleだけの話ではありません。

米国組織行動学会をはじめとして、さまざまな学会誌にチームの心理的安全性の研究成果が発表されています。20年以上のチームの心理的安全性研究の結果、「業績向上に寄与する」「イノベーションやプロセス改善が起きやすくなる」「意思決定の質が上がる」「情報・知識が共有されやすくなる」
「チームの学習が促進される」と、ビジネスにおいて、有効であるという証拠が次々と報告されています。

ビジネスだけではありません。

命を救うために一刻一秒を争う医療現場、新生児集中治療室の研究においても、「心理的安全な医療チームは、やり方への習熟が早く、手術の成功率が高い」という成果が示されています。

医療現場の例でもわかるように、心理的安全性は「余裕があって、安定しているチームだから、はじめて導入できるもの」ではありません。
むしろ、私たちがいま現在直面しているような、激しい環境変化が巻き起こり、変化しないといけないような、余裕の無いチームが効果的に活動するためにこそ重要なのです。

危機の時代にこそ「心理的安全性」が必要

2019年末に発生した新型コロナウイルス(COVID‐19)は、わずか数ヶ月のうちに中国をはじめとして、世界中に広がりました。多くの国々で都市封鎖・外出自粛要請が行われ、世界中の人々の移動が止まり、甚大な影響を受けました。日本でも緊急事態宣言が発令され、数ヶ月前には誰も予測のできなかった変化が押し寄せました。

そんなVUCAとも言われる、複雑で不確実な、先の見えない・変化の激しい時代を、すでに私たちは生きています。
このような、不確実性の高い、いわば「正解のない」世界において、私たちの組織やチームは、どう対応していけばよいのでしょうか。

まずは、正解が「ある」時代のことを考えてみましょう。正解がある時代とは、過去の成功から未来の成功が予測できるような時代のことです。

例えば、フォルクスワーゲン・タイプ1。通称「Beetle」とも呼ばれるこの車は、1938年に製造され、改良が加えられながらも2003年までの65年間生産が続けられ、2000万台以上が生産されました。
フォードのT型は、それより以前、1908年に販売され、その後約20年間、大きなモデルチェンジもないまま1500万台を生産しました。

このように「作れば、売れる」ような正解がある時代、あるいは正解が正解であり続ける期間にあっては、速く、安く、ミスなく正確につくれるチームが、優秀なチームでした。

一方、正解のない時代は、昨日までの正解が今日も正解であるとは限りません。そのため、クイックに行動しながら「暫定的な正解」を模索すること、
実験や挑戦をして、失敗から学ぶという姿勢が大事です。

そして、市場の変化の兆候をつかみ、自社組織ではまだ気づいていないが、
市場ではすでに時代遅れになっている「過去の成功法則」から、解き放たれる必要があります。

これら、正解のあった時代と、正解のない時代とを比較すると、次の表のようになるでしょう。

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このようなチームにあっては、マネジメントのスタイルも変わります。
このように「これまで」と「これから」、二つの時代を対比させることで、
あらためて心理的安全性が低いチームは、挑戦や率直なディスカッションを抑制する、過去のパラダイムだと理解できるのではないでしょうか。

「これまで」の仕事が求められるチームはますます減っていきます。世界の変化の速さと複雑さが「これから」の仕事の要求に拍車をかけるのです。
だからこそ、「挑戦・模索」からチームの学習を促進する、チームの心理的安全性の重要さが日に日に増しています。

筆者自身にとっても「よいチームをつくる」こと、「率直に話してもらう」ことは切実なテーマでした。
メンバーとしてだけではなく、実際に役員、事業部長、プロジェクトマネジャーとして、苦労をしたからです。
例えば、マネジメントしていた事業で大きなトラブルがあり、
現場へ行って工場のメンバーやパートさんから生の情報を集めようとしたのですが、これがまったくうまくいきませんでした。

「石井さん、本当に申し訳ございません。今後はこのような事がないよう気をつけます」

と謝罪はされるのですが、「どのように」トラブルが起きたのか、原因は話してもらえません。解決に繋がる情報も得られず、クライアントへの報告期限を前に、顔が青くなる思いをしました。
今から思えば、彼らにとって、トラブルが起きて急に本社からやってきた私の前は「心理的安全性が低い」場だったのです。

私はアカデミアでの研究と、自分自身のビジネス現場での実践を両輪として、このテーマに取り組みました。具体的には、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科および日本認知科学研究所で、心理学、組織開発、人材開発、幸福学の最先端のアカデミアの知見に触れながら、ひとつひとつのチーム、プロジェクト、現場にその知見を活用していきました。

今では、株式会社ZENTechで取締役を務めながら、それらの研究と実践自体をビジネスとして、心理的安全性の知見、組織診断サーベイ『SAFETY ZONE®』、そして組織開発コンサルティングをクライアントに提供しています。

中でも「心理的安全性 認定マネジメント講座」というプログラムでは、
講義でアカデミアの理論をお伝えするだけではなく、講義と講義の間の数週間、受講生がそれぞれの現場で心理的安全性を向上させ、成果の出るチームに向けてさまざまな取り組みを行い、それをまた講座に持ち帰るという実践を続けています。

この実践から、変化の時代に、チームに心理的安全性を生み出すために必要なのは、単なる読みやすいノウハウ集ではなく、理論と体系に裏付けられた実践だとわかっています。

一つ一つ異なるチームに対し、柔軟に役に立つアプローチができるリーダーシップとしての「心理的柔軟性」と、人々の行動をより良く変えるための理論・体系である「行動分析・言語行動」まで、深く踏み込んだのは、そのような理由からです。

本書では、大企業の取締役・部課長から、人事・経営企画の責任者、そしてベンチャーの経営幹部まで、さまざまな立場や業種の100人以上の修了生によってテストされた、現場で効果的に使える「理論と実践」を凝縮してお届けします。

いま現在、チームを率いるマネジメントの方や、よりよい組織へと変革したいと思っている方の、「心理的安全な組織・チームづくり」に役立てていただけたら幸いです。
 
2020年8月
石井遼介

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著者プロフィール
石井 遼介(いしいりょうすけ)

株式会社ZENTech 取締役
一般社団法人 日本認知科学研究所理事
慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

東京大学工学部卒。
シンガポール国立大 経営学修士(MBA)。
神戸市出身。
研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。
組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。

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