奥行き知覚(depth perception)

奥行き知覚(depth perception)

〇 奥行き知覚とは、網膜に投射される像が二次元の曲線画像であるにも関わらず、三次元の世界を知覚できること。絵画、写真、映画、テレビなどの画像も2次元の平面画像であるが、生得的あるいは経験的な手がかりから奥行きを知覚している。

単眼手がかり(monocular cue)
 片方の目だけで対象を見る場合にも利用できる手がかり。多くは絵画で遠近感を出すために用いられるため、絵画的手がかりともよばれる。

(1)  陰影(shadow)
 下側に陰があると膨らみを知覚し、上側に陰があるとへこみを知覚する。

(2)  重なり合い
 ある対象が別の対象の一部を覆っている場合、覆っている対象が手前に知覚され、覆われている対象が奥にあるように知覚される。

(3)  線遠近法(linear perspective)
 遠ざかる平行線は一点に収束するため、同じ幅をもった対象でも観察者から遠ざかるほど幅が狭く知覚される。

(4)  大気遠近法(atmospheric perspective)
 大気に靄や霞がかかっているときには、遠くにある対象がぼやけたり、かすんだりして見える。遠景は近景に比べて明瞭度が低下する。

(5)  きめの勾配(texture gradient)
 ドットの密度と大きさは、観察者から遠くなるほど、きめが細かく見える。ギブソン(Gibson,J.J.)は、きめの勾配が奥行き知覚の手がかりになると考えた。

(6)  網膜像の大きさ
 大きさをよく知っている対象に関しては、見えている大きさを手がかりにして、対象との距離を推測できる。網膜像が小さければ遠くに、網膜像が大きければ近くに知覚される。

(7)  運動視差(motion parallax)
 進行中の電車の窓を眺めると、注視対象よりも近くにある対象は、電車の進行方向とは逆方向に急速に過ぎ去り、遠くにある対象は進行方向にゆっくり動いているように見える。観察者や観察対象が移動するときの相対的な運動速度が奥行き知覚の手がかりになる。

(8)  調節
 目のレンズである水晶体のふくらみの変化によって網膜像のピントが合わせられる。水晶体の厚さを変えるための毛様体筋の伸縮が奥行き知覚の手がかりとなり、遠方を見るときは水晶体は薄く、近くを見るときは厚くなる。この手がかりが有効なのは、せいぜい2mぐらいまでだと考えられている。


両眼手がかり(binocular cue)
 両眼で見るときにだけ利用できる手がかりである。眼を動かすときの筋肉の緊張感、両眼網膜像の融合など生理学的事象に関係しており、生理学的手がかりともよばれる。

(9)  輻輳(convergence)
 両眼で一点を凝視するときに両視線が交わる角度を輻輳角とよぶ。輻輳角は凝視点が近くにあるときに大きくなり(寄り目)、遠くにあるときは小さくなる(視線が平行)。この際、両眼球を内転(近くを見るとき)または外転(遠くを見るとき)させる際の動眼筋の伸縮が奥行き手がかりになる。輻輳が有効であるのは、20mくらいまでと考えられている。

(10) 両眼視差(binocular parallax)
 人の両目は約6cmほど離れており、左目と右目にうつる像はわずかに異なっている。人はこの差を脳内で融合させ、1つの立体像を得ることにより、対象の奥行きを知覚することができる。対象間の奥行きの差を知覚する有力な手がかりであり、立体写真や3D映画はこの手がかりを用いている。


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