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サイトカインストームとCOVID-19

このnoteをご覧いただいている皆様、いつも本当にありがとうございます。

新型コロナウイルス感染者数も、北半球では真夏の日本も大都市を中心に愈々激増してきましたね

前回まで、免疫学とCOVID-19を中心について書かせていただきましたが、今回はそのさらにその集大成クライマックスとも言うべき、COVID-19がもたらすサイトカインストームについて、少々深く、科学的・医学的な視点から説明していきたいと思います。

サイトカインストームという名前は最近巷の報道で数多目にしたことがあるかもしれません。「新型コロナウイルス=SARS-COV-2」が普通の風邪を引き起こすコロナウイルスと決定的に違う点は、このウイルスが致死的なサイトカインストームもたらし、血管に凝固線溶系障害を来して全身に深刻な血栓をもたらすからです。

新型コロナウイルスはただの風邪では断じてありません。

致死率の高いSARS(重症急性呼吸器候群)に驚異的な感染力を獲得したさらにとんでもないスーパーSARSです。本来は「新興の重症急性期呼吸器症候群」とでも呼称すべきことを、通常感冒のコロナウイルスの名前を前面に出して矮小化して報道する姿勢にも強い違和感を感じます。

この本質を理解してこのウイルスの真の姿を認識するためにも、改めて致死率上昇をもたらす本質であるSARS-COV-2によるサイトカインストームを一緒にみて参りましょう。自然免疫獲得免疫等、今までの免疫学総まとめと病因の核心部分なので、かなり専門的にはなりますが、力を尽くしてなるべく平易に書いてゆきます。SARS-COV-2ウイルスがもたらすこの病気(=COVID-19)の真の恐ろしさを正しく認識するためにどうかお付き合い下されば幸甚です。

1・中国からの報告

先ずはじめに、一部海外メディアでは比較的早く報告されましたが、SARSに極めて似た重症肺炎をもたらすウイルスが2019年年末以降中国武漢で勃興し、世界においても重大な疫学上の脅威となってきました。

2020年1月下旬、世界の医学論文誌の中でも特に権威の高いThe Lancetにその臨床的特徴の症例報告が出た時、世界中の医学者、科学者が驚愕しました(しなかった人はちゃんと読まなかった人と思います、、、)。

それ以前に全ゲノム情報も明らかになりましたが、ここで明らかになったことは、入院を必要とする武漢で新規にアウトブレイクしていた感染性ウイルスによる肺炎は、入院致死率が約15%にも及ぶということと、著明なリンパ球の減少ARDSという最も深刻な肺の全体的な損傷を伴う呼吸不全を約30%という高率の頻度で来たし、全身の臓器、特に心筋や腎臓に深刻な傷害を齎し55%もの人が呼吸困難を呈するという深刻な内容でした。つまり、肺炎=細菌感染等が主ではなく、このウイルス感染の帰結によりARDSを来たしてしまうのが肺炎の本当の姿です。

中でも驚くべきことは、特に集中治療を必要とした重篤な患者さん達に炎症性サイトカイン群(TNF-α、IL-1β、GM-CSFー後述)やケモカイン群の顕著な上昇が認められたことで、SRASRやMERSと同じくサイトカインストームによるARSDがここでも起ってることは臨床特徴、各種データーからほぼ間違いないと認識されました

その後、武漢での150人からの臨床的研究から、死亡率上昇の要因に炎症性サイトカインであるIL-6(後述)の顕著な上昇多臓器不全D-dimerの上昇(血栓が起ると上昇します)が明らかとなり、病態生理の背景にサイトカインストーム=サイトカイン放出症候群が存在することが強く示唆されました

また、死後の病理解剖の所見で、肺全体のび慢性の肺胞損傷(DAD)が認められ、炎症性単核球の浸潤、肺胞内では細胞性線維粘液様浸出液、繊維化、などが認められ、所見はARSDの病理所見そのものであることが示されました。少々専門的になりますが、リンパ球が優勢間質性単核炎症性浸潤物が両方の肺に見られ、ウイルス感染による細胞変性様変化が示されました。

特筆すべきは、全体的なリンパ球減少とともに、前回お話したT細胞免疫で抹消の血液のCD4+由来のTh17細胞(後述)とCD8+(キラーT細胞)の活性化亢進を認めたことで、これは免疫系が過剰に反応して肺の細胞を攻撃した証左になります。CD4+とCD8+のT細胞リンパ球が枯渇してしまうのも、このサイトカインストームで免疫担当細胞が消費されてしまうからだと考えられます

最初は中国による限られた証明でしたが、欧州イタリアでも同様の知見が得られました。特に注目すべきは血小板-フィブリン血栓が顕著で、肺胞内の炎症性浸潤物は、主に肺胞内腔のマクロファージと間質のリンパ球で構成されていました。電子顕微鏡検査は、ウイルス粒子が主に肺細胞に位置していたことが明らかにされました。これらはやはりSARS-COV-2が肺胞内で肺胞細胞やマクロファージに感染する過程で、肺胞細胞から放出されたサイトカインが肺胞マクロファージが異常活性化して激しく肺細胞を攻撃していた証拠となります。

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2・サイトカインとは

サイトカインとは細胞が放出する情報伝達のために各種免疫担当細胞に反応を促す蛋白質で、細胞間の情報をやりとります。サイトカインは血流に乗って各種免疫担当細胞を炎症の局所に誘導しますが、ケモカインは炎症反応に関わるサイトカインの一種です。感染局所に好中球などの白血球を遊走させる働きなどがあり、分りやすく言うと細胞と免疫細胞のBloothoothのペアリングみたいなもの?で、電波でなくて特定の蛋白質を介して特定免疫細胞の免疫応答を促します。

サイトカインストーム(嵐)してしまうということは、感染した細胞群が過剰にサイトカインが産生されて、それに応答して各種免疫担当細胞(代表的にはマクロファージ、B細胞、T細胞、好中球等)が異常亢進して暴れまくるのがサイトカインストームの本質、といってよいかと思います。

喩えがなんですが、地球を守るために、ゴジラ、モスラ、モスラ(母)が宇宙外怪獣のキングギドラに立ち向かう、東宝3大怪獣大決戦みたいなことが身体で起っている、みたいな?イメージです(汗汗 キングギドラに立ち向かうゴジラ放射能光線ブァー!!!、モスラ糸ビュー!!、モスラの母ちゃん鱗粉バサー!!、ラドンも助太刀!!、おまけに自衛隊出動で攻撃しまくりで、後で残るは日本中焼け野原、、、みたいな感じです、、、(多分合ってると思います、、、レトロすぎてよく通じなかったらすみません汗)。

サイトカインケモカインは通常は正常免疫のために細胞間の情報伝達に本質的な役割を担っていますが、医学的にも致死率の高いマクロファージ活性化症候群(MAS)血球貪症貪食群(HLH)、などでもサイトカインストームの関与が言われています。

非常に多種多様のサイトカイン、ケモカインが炎症反応に関わるため、全部覚えようとしたら頭が混乱して爆発するのは必定なので、先ずCOVID-19のサイトカインに関与すると言われている代表的なサイトカインを今後の治療戦略を理解する上でも幾つか覚えていただけたらと思います。

一番重要なのはやはりIL-6(インターロイキン6)で、治療薬ターゲットとして有望視されています

多くの文献で重症COVID-19におけるIL-6の異常高値が認められていますが、これはサイトカインストームの中核をなす分子であり、元々は1986年に日本人によってクローニングされ、以後日本人研究者が主にその機能解明に貢献してきました。IL-6はナイーブT細胞(前回説明した、まだ抗原と出会う前のCD4+)をTh17というT細胞に分化させる働きがあリTh17は炎症反応、自己免疫性疾患で重要な役割を果たすことが知られています。

これもやはりIL-6発見者の日本人の研究ですが、ウイルス感染による自然免疫はIL-6産生を促し、かつウイルスがACE2受容体を占有することでアンジオテンシンIIに過剰なシグナルがはいり、やはりIL-6を産生し、相互増幅的IL-6が生み出されてサイトカインストームが起ることが最近提唱されました

今回のパンデミックによる重症COVID-19にIL-6受容体の拮抗薬が治療に有用であるとは当然考えられますので、この後ろ向きコホート研究に引き続き、現在大規模臨床試験が行われましたが、それ単独ではどうやらあまり顕著な効果がなかったようで、世界的にちょっと課題を抱えているのが現状です。IL-6受容体拮抗薬はちなみに各種膠原病などの関節リウマチなどの治療薬として国内でも販売承認されています。

そして、サイトカインストームで放出されるIL-1βも重要です。

細胞が感染に持続的に炎症を起こし、パイロトーシスという炎症に起因するプログラムされた細胞死がマクロファージで起る際、IL-1βが放出されて更に過剰な炎症反応が起ることが知られています

また、COVID-19のサイトカインストームによるARDS発症にIL-1β受容体拮抗薬が有用であったという報告もなされ、今後の大規模臨床治験が待たれます。

同じように、好中球を感染局所に誘導する作用のあるGM-CSFをターゲットにした治療もCOVID-19治療に有望であるとの報告がなされTNF-αを標的にした治療法も提唱されています

まだ今のところ、大規模臨床試験でこれらのサイトカインを標的にした治療がはっきり効果があるかは例証されていませんが、病態生理のメカニズムを考える上で治療上非常に重要なポイントであることは間違いないでしょう。

また、炎症による細胞の持続的なストレスは細胞内ミトコンドリアの機能不全を起こして、それがさらに炎症反応を亢進させるというメカニズムも提唱されています。

3・サイトカインストーム&凝固異常のグラフィカルな模式

専門的に話を広げるときりがありませんが、以前にも触れたように、このウイルスの最大の特徴はサイトカインストームーARDSによる呼吸不全、身体全体の過剰炎症であり、それには血管内皮障害、凝固線溶系障害を伴います。引用論文にあるように、起っている出来事を拙いながら図解させていただきます。血管内皮細胞と肺胞上皮細胞にウイルスが感染した結果、凝固系の異常亢進や、肺胞内の浸出液増加、炎症性サイトカイン放出による各種免疫細胞の動員がイメージして頂ければ、と思います。

ちなみにガス交換に預かる肺胞細胞はI型肺胞細胞、サーファクタントを産生する肺胞細胞はII型肺胞細胞と呼ばれます。サーファクタントは肺を広げるのに不可欠な物質で、赤ちゃんがお腹の中にいる34週頃に肺内に出来上がります。早産でうまれた赤ちゃんにサーファクタントを投与するのは新生児治療でよくあります。ちなみに人口サーファクタントを見出したのは日本人研究者ですから、新生児医療に日本は過去多大な貢献があります。

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4・最後に

上記のようにサイトカインストームに関与する蛋白質分子は様々にわたり、ターゲットをどこにするか、非常に難しい問題があります。少し前に触れたように、最も有望視されていたIL-6受容体拮抗薬のトシリツマブ単独での大規模臨床試験は頓挫してしまったので、natureの論文にあるように、複数のサイトカインを標的とした治療が今後現実的かも知れません

現在夥しい数の臨床治験が行われていますが、今のところこれが一番!というのは事実上存在しないと思いますし、サイトカインを標的としたした治療は抗体などの生物製剤にならざるを得ないでしょうから、高額な薬価が必要になるのは不可避と思います。これだけ世界中にパンデミックが広がって重症者が増えている現在、医療経済的に、また格差の公正な配分から高額な治療のみが有効というのは医療倫理上も大きな問題があると思います。

複雑な分野なので筆至らずの部分も多々あるか思いますが、できるだけ引用論文には現在における最新知見論文を織り込みましたので何卒ご海容くだされば幸いです。

ともあれ絶対感染しないのが一番です。

どうか皆様、くれぐれも感染には引き続き厳重にお気をつけくださいね。

此処まで長くお付き合い下さって本当に有り難うございました!!

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