Close of Dolls

頭がおかしい。一年くらい前のやつです
スマホのロックを解除せず、Siriからのメモ機能で、惰性で書いたという逸話を持ちます。

 ひび割れたアスファルトの上、地面と同じ黒い色の血。死体を踏む感触を感じる。誰かの絶叫が聞こえる。黒の中に辺り一面のネオンが毒々しい色を放っている。他の誰かなど、知ったことではない。
 体に悪そうなガスの匂いが充満している。思い切り吸い込む。空気が汚い。ありとあらゆるものが安っぽいネオンの光を反射している。
 粗末なトタンの屋根に、アスファルトに、雨が打ちつける音で何もかもかき消される。雨の汚くて湿っぽい匂いの中に、いやにツンとする匂いを感じた。麻薬の匂いだとすぐに分かった。この辺の若者は皆麻薬をやっている。麻薬の匂いがしようと、別におかしいことでも何でもない。それが普通だ。
 何か硬い物を踏んだ。ちゃちなプラスチックの音がした。蹴り飛ばしたら幾つかの破片になって割れた。プラスチックの破片の中に金属の針がある。それだけ金属特有の光沢があったからすぐに気がついた。注射器だった。何のために使われたかなんて、火を見るより明らかだ。
 芯まで冷えてしまいそうな雨に打たれながら、あなたはあてもなく彷徨う。この落書きとネオンだらけの街の中で、今日の寝床を探すためだ。雨を凌げて、五月蝿くなくて、誰にも殺されたり強盗されない場所ならどこでもいい。できるなら、人のいない場所……。
 ゴミの腐った匂いがした。足元を小動物がすり抜けた。ゴミ捨て場か何かが近くにあるらしい。ゴミ捨て場にはたまに良いものが捨ててあることがあるので、漁った方が良かったかもしれないが、今あなたは精神的に疲れていた。身体的にも決して元気ではなかったし、早く眠りたい。何よりこんな臭いところには居たくなかった。
 あなたは歩く。特に遅くも早くもない速度で、すでに棒の様になっている脚を無理矢理動かして。水溜りにあなたの顔が映る。何も考えていないように見える。水溜りに映った自分の顔を自分で踏みつけた。飛び跳ねた水滴が黒いスニーカーに小さく染みた。
 歩いても歩いても、喧騒とネオンの光は無くならない。それどころか、増えていっているような気もする。毒々しいネオンの光が表す物の意味もわからないあなたは、この光を五月蝿く感じるだけだ。早くこんな場所を抜けて、眠れる場所を見つけたい。もしくは、周りと同じような、カラフルに光る看板の立て掛けられた粗末な建物に入ってみるのも悪くない、と思っているかもしれない。何にせよ、もう歩くことは疲れたのだ。とにかく休みたい。
 それでも、立ち止まることは許されない。今ここに座り込んだら、間違いなく眠ってしまうだろう。そうしたら、雨に降られて風邪を引いてしまう。風邪を引けば歩くのもままならないし、万が一不良にでも襲われれば生きている保証もない。それに、誰かに寝込みを襲われて、確実になけなしの持ち物が丸ごと奪われる。
 眠ることを考えた途端、急に眠たくなってくる。身体が限界を訴えている。
 朦朧としてくる意識を繋ぎ止めながら歩く。だんだん歩く速度が遅くなる。目の前がぼやけてくる。眩暈がする。
 身体が熱い。長い時間雨の中を歩いていたから、既に風邪を引いているのだ。歩くのが辛い。それでも歩くのをやめてはいけない。そんな脅迫概念だけを動力にして、ふらつきながら歩く。どんどん視界は暗くなってくる。もう無理だ。
 死にたくない、けれど、このまま歩くのはそれ以上に辛い。もう、どうにでもなれ。
 いよいよ倒れる、という時に誰かに掴まれた気がするが、確認することもできずに意識が消えた。


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