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子どもの「不登校」と親のつらさー支援者である私が当事者になって見えたものー

「お母さんはニコニコ笑って、お家の中では太陽みたいな存在でいてあげてね」
このようなことを相談員や知り合いに言われる度に、私は内心「またか!」と大声で叫び出したいような怒りと苦しさを感じていました。 それが出来たらどんなにいいか。あなただって、我が子が不登校になったらこの果てしない苦しさが分かる。終わりの見えない真っ暗なトンネルの中で、ニコニコなんて出来ないし、太陽になんてなれない!

毎朝鳴りつづける目覚まし、手を付けられないままの朝食、閉ざされたトイレ…。時計の針だけが進んでいくあの時間は、まさに母と子の「戦場」でした。
桜が咲き誇る4月、新学期が始まるこの時期が一番辛かったのを思い出します。春休みの間、あれだけ元気に過ごしていた我が子の顔から、みるみるうちに笑顔が消えていき、始業式までのカウントダウンと共に、沈黙とため息が増えていきました。

「また、苦しい一年が始まるな…」
私は、疲れ切った頭で、泣きじゃくる子どもの背中を見つめることしか出来ませんでした。

あれから3年が経って、我が子は、少しずつ学校に通うようになりました。時折しんどくなって休むこともありますが、自分のペースで通い、学校の中でも自分の居場所を見つけたようです。
苦しかった時期を今あらためて振り返ってみると、当時は、子どものつらさと同時に、親独自のつらさをもダブルで抱えて、一人で困り果てていたように思います。
公認心理師として不登校児童とその親の支援を行う筆者が、当事者になった経験をもとに、これまであまり注目されてこなかった子どもを支える保護者の苦しみに焦点を当てて、不登校という現象の一部を捉えてみたいと思います。


「不登校児の親」に求められる姿

不登校になった子どもを支える保護者には、当たり前のように何役もの働きが求められてしまうのが現状です。援助者として、理解者として、庇護者として、学校等との交渉役として、”良き親”としての理想像を無意識に押し付けられてしまいがちです。でも、現実は「何も出来ない(何かすると悪化することもある)」苦しさの中で、ひたすら耐えて待つしかないのが過去の私の日常でした。
誰かを頼りたくても、自分しか動けない状況の中では、「もう無理!しんどい!」と言えないし、投げ出せないと感じると思います。一人の人間としての当たり前の感情を周囲に伝えられない苦しさが、親にはあります。

心無い周囲の言葉や、「気合で乗り切れ」「心を強く持て」といった時代や状況にそぐわないような精神論によって傷つけられ、不登校の原因は自分たち親にあるのかもと自責される方がまだまだ多くいらっしゃいます。不登校は、親子関係や育て方など、家庭環境に原因があると見なされがちですが、それほど単純な問題ではありません。親も子も、それぞれが独立した1人の人間として持つパーソナリティと感情があり、お互いに複雑に影響しあっているのです。

あらためて、過去の自分に起きた不登校問題を心理職として振り返ると、結果として、子どもと自分との間に境界線をしっかりと引いて、それぞれの人生で起きている多様な心の動きを落ち着いて見つめたことがよかったのかもしれないと考えています。
親と子の間に境界線を引き、それぞれの人生で起きている心の動きを見るためには、まず、子どもの親である前に、1人の人間としての自分の心を安全にケアする必要があります。

しかしながら、不登校の子どもにとって安全な居場所を確保するための情報はあっても、子どもを支える親の苦しさや痛みと向き合える居場所はなかなか見つけられません。そこで、私は、不登校児の母としての自らの体験をもとに、親の心のケアに特化した講座を開こうと考えました。

親の心をケアするために

講座では、セルフケアの方法(自宅で出来るリラクゼーション法など)を紹介するとともに、不登校を巡る親の心の動きを「親」「支援者」「個人」の3つの葛藤に分けて説明します。すごく当てはまると思うものもあれば、自分とは関係ないと思うものもあるかもしれませんが、そういった感覚がどこからやって来ているのかということについてもについて、参加者の皆さんと一緒に考える時間を持ちたいと考えています。思ったこと、感じたこと、どんなことでも伝えて下さい。
安全な場所を叶えるために、講座内で話し合ったことについては秘密厳守でお願いします。また、自分の意見も、他者の意見も、ジャッジせずそのままに共有できるように、お互いに気持ちよく参加していただけたらと思います。

著者自己紹介

はじめまして。公認心理師の長村明子です。普段は、いじめ被害や不登校など、福祉・教育の現場で子どもたちの悩みを聞く仕事に就いています。5年前に、不登校児童とその親の支援者でありながら、不登校児童の親(当事者)にもなった経験から、親の心のケアに特化した居場所づくりを志すようになりました。今回、(合)プシケメンタルスクールで、保護者対象のオンラインセミナーを開きます。
誰かをケアする人は、ケアされる人と同様に安全な環境が必要です。太陽にならなくても大丈夫。親だって、くよくよしたり愚痴ったりして、大丈夫。皆さんが、自分の言葉でたくさん話せるような時間にしたいと思います。

長村 明子(公認心理師)
児童相談所やNPO法人にて親子の相談対応に携わる。現在、大学の学生相談室に勤務し、日常の困りごとから家族との葛藤、ハラスメント相談、不登校に悩む学生と親のサポートに携わっている。


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