【精神病理】『神聖病』について

『神聖病』とは現代でいう癲癇(てんかん)っていう病気のことで、古代ギリシャの時代にギリシャ人が使っていた病名なんだ。

その頃はまだ医学が発達していないから、精神疾患や神経症のような類のものは『神の仕業だ』とか『悪魔が取り憑いてる』とか、そんなふうに考えられていたんだよね。

まぁ、実際にその考えはもっと後のフロイトの時代くらいまで続くんだけど。

そんな迷信的な考え方を取り払い、医学的にこれらの病気を記述したのがヒポクラテスって人ね。

聞いたこともいるかもしれないよね。

神聖病についても『ヒポクラテス医学論集』ってのに詳しく書かれているんだ。

ヒポクラテスはギリシャ時代の医師で、医療倫理について記された『ヒポクラテスの誓い(Hippocrastic Oath)』は最も古い医学書とも言われているんだ。

ヒポクラテスは、全体観(holism)という考え方を提唱していて、それは何かっていうと、体のどこかが病んでいる時、その一部だけが病んでいるのではなくて、体全体が病んでいて、それが様々な形で現れているだけだって考え方なのね。

つまり、現代でこそ、病気ってのは覚えられないほどたくさんあるけれども、ヒポクラテスは『病気は一つしかない』って考えてたんだ。

それが色々な形に変わって症状として表出するものなんだって考えていたわけだ。

その考え方からヒポクラテスは『四体液説』ってのを捉えるんだ。

人間の体液は『血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁』の4つからできていると考えて、これら4つのバランスが崩れることによって病気になるって考えたんだね。

例えば、血液は体の熱が適当で、食べ物が消化された時に生成されると感げていたんだ。

そして、ヒポクラテスによると、血液は生命維持に欠かせないものだったんだ。これは今では当たり前になっているよね。

そして、粘液と胆汁は悪い体液だと考えていた。粘液や胆汁の比率が多くなることで病気が引き起こされると考えていたんだ。

そして、ヒポクラテスは『神聖病』についてもこの四体液説で説明できると信じていたんだ。

まず、そもそも現代でいう癲癇が『神聖病』と呼ばれ出したのは、それがその他の病気の症状とは異なり、これまでに人々が経験したことないものであったり、その原因が器質的につかめなかったからなんだ。

だから、人々は驚いて、それを神的なものだと考えるようになってんだよね。

だけど、ヒポクラテスによると、神聖病もその他の病気と同様に自然的な要因に起きるものであって、特別神的なものではないと考えていたんだ。

ちなみにヒポクラテスは全ての病気において、それは神に起因していると考えていたのね。

彼の提唱した説明の中で、彼は自然的な現象(空気や水、風など)を非常に重要視していたんだけど、それらの自然現象を引き起こしているのは神だと考えられていたから、その意味では病気は平等に神に起因されるべきだと思っていたんだ。

その証拠に、人々が『神聖病』と呼ぶものだけが神的なものだと考えられていたが、その理由を明確にすると、神聖病以上に神的だと言える病気はたくさん存在していたからなんだよね。

例えば、毎日熱や三日熱(現代でいうマラリアのことらしい)なんかは、症状をとってもその原因をとっても神的なものだとみなされても良いものだったのに、それを神的なものだと考えた人はほとんどいなかったんだって。

このようにして神聖病(現代の癲癇)が神的なものとみなされていたのは、当時のギリシャ人たちの無知が故にであるが、その原因を作ったのは魔術師などのイカサマ師だとヒポクラテスは考えていたそうなんだ。

彼らは、その新性病に対して自分達が最善の治療策を持っていないことを知っていたんだ。

だけど、そんなことを言ってしまうと自分の名声が地に堕ちてしまうから、それを誤魔化して適当な説明を加えた上で、治療法を定めたんだよね。

つまり、そういったイカサマ師たちが自分の身を守るための方策だったんだ。

彼らは今の医学では信じられないような治療法をたくさん提示してきた。治療のためという名目で禁じていたものもたくさんあったんだ。

例えば、赤ボラやウナギなどの魚、ヤギや仔豚、オンドリ、ノガンなどのお肉、さらにはカラミントやニンニク、玉ねぎなど、現代では当たり前に食されているものも禁じられていたんだ。

もしそれらを食べて何かあっては自分達の名声に傷がつくからというイカサマ師たちの保身だよね。

それだけじゃない。黒は死を連想させるからという理由で黒いものを身につけることを禁止にしたり、ヤギの皮の上で寝たり、ヤギの皮で作ったものを見に纏うことも禁じられていた。

さらに、足に足を、手に手を重ねてはいけないという、訳のわからない禁止事項まであったそうだ。

彼らは、自分達が人並み以上に医療について知っているように見せかけることで、それによって患者が健康になれば自分の名声も上がるし、例え患者が亡くなったとしてもそれを神々の責任にして自分達は責任逃れをしようとしていたんだ。

しかし、ヒポクラテスはそれらの治療法に疑問を抱いていた。

そもそも、それらの治療で健康にできるのであれば、理論上、逆にその病気を発症させることもできることになる。

例えば、ウナギやヤギ、アカボラ、ニンニクなどを食べさせて仕舞えば、それらの病気を発症させられるわけだし、黒いものを身につけさせればいい。

つまり、もしそれで病気を発症させることができるのであれば、その病気を人工的に作り出すことができるということになるよね。

人の手によって発症させることができるのであれば、それはもはや神的なものでもなんでもないよね。

人々はその病気の原因も実態もわからないから神のせいにしようとしたけど、彼らが実際にしていたことは、その病気を全くもって神的なものではなくしてしまうことだったんだよね。

それ以外にもヒポクラテスが神聖病を特別神的なものだとは考えなかった根拠や、ヒポクラテスの新性病の原因の説明なんかもあるんだけど、かなり長くなるから今回はやめておこうと思う。

現代となってはぶっ飛ん出るように感じることも多いけど、医学の根幹を作った人としてヒポクラテスは本当にすごい人だと思うんだ。

そんなヒポクラテスの医学論集は本屋でも買えるから、興味がある人は読んでみてね。

『神聖病』について。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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