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モデル。

 仕事でモデルを頼むとなると、姿形が良いのはもちろん、動けて当たり前、笑えて当たり前、出来ないと困る。
 前に、動けない、出来ないモデルに対しては当然怒る、というような話を知り合いにしたら、驚かれたことがあって、それは、モデルたる人がお金を払ってくれる「お客さん」ならば、ダメですけど、私の仕事では、商品を売るためにお金を払って頼んでいる、だから出来て当たり前なんですよ、出来なかったら私の責任になる、と説明した。ギャラを払っている以上、きちんと仕事してもらわないと困るのです、と。 学校案内などで在学生をモデルに仕立てて撮影という事が結構あったが、こういう場合はそうはいかない。ぐっとこらえて、おべんちゃらの一つも言います。神戸の某女子大では、本職まがいの人が時々いてくれるので、サクサク進み助かった。手強いのは笑顔の練習などしたことのない普通の人。とにかく枚数を切って、カメラに慣れさせることから始めたので、時間もかかるし最初のほうのデータもほとんど使えないし、膨大な量になった。こういう時は少し眉間にしわが寄っていたかもしれない。ハイ終わりました、と言いながら、ノーファインダーで数枚撮ったら、緊張が解けてたのか、それが良かった、ってことも。

 勤めていたスタジオの先生の子息が子供の頃モデルをやっていて、その彼が長じてスタジオで撮影仕事を始めるようになったころ、ジャリタレは甘やかすとつけあがる、がんがん怒って怒鳴り上げて、厳しく躾けてやったほうが良いと言って、実際そうしてるのも見た。自分がそうだったからだろうけど。ただ、たいていの現場ではこちらが怒るより先に、そのお母さんが怒るほうが多かった。○○ちゃん、お仕事でしょ、ちゃんとおやりなさい、ってとても怖い顔して。で、めそめそ泣いているけどカメラを向けると、泣きながらにっこり笑いやがるガキンチョを撮影するのです。このあたりさすがに子供とは言えプロだな、と感心したもんです。
 もう30年近く前だけど6~8歳の子供のモデルをたくさん使う撮影で、制作費の問題から、編集部の人たちの子供やその友達を使ってやったことがある。この時はホントに大変だった。むやみに怒れないから困ったんだけど、それでも、私はすぐ怒る怖い人、助手さんには優しくて良い人を演じてもらって、飴と鞭で乗り切った。子供は集中できるのが1時間で10分くらいしかないので、なだめすかして、時には美味しいオヤツで釣って。その時の苦労が身に染みたのか、本が売れて予算が確保できたのか、次からはモデル事務所に頼み、オーディションもやって、ようやくまともに使えるようになった。この時は、ちゃんとしてると優しいが、怒ると怒鳴る怖い人で通した。
 
 一度だけ、予算も無いし指先だけなのでと、カミさんに手タレのまねごとをお願いしたことがある。いざ撮影が始まって、ああしろこうしろと言う指示に、うまく出来ないもんだからついついこちらも言葉が荒くなり「動くな」「そっちとちゃう」「なんで出来ん!」なんて罵声を浴びせてしまった。終わるまではなんとか我慢してくれたが、帰ってから、あんた普段ぼーーっとして暢気なくせに、撮影になると短気やな、金輪際もう二度と手伝わないからネ、ああ腹が立つ、と言われてしまった。ま、基本的にカメラマンは短気な人が多いと思います。私が付いた人で短気じゃなかった人はいないぞ。


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