モデルⅢ。
毎年この時期になると、モータースポーツのある選手が夫婦で我がおんぼろスタジオへお越しになる。もう10年以上やっている、プライベートな撮影。毎年、なんとなくテーマがあって、具体的な時もあるし、ふんわりしたイメージの時も。テーマ、衣装に合わせて頭をひねりつつ、背景を選び、撮影する。ライティングも遊び倒して、ポーズもバレエの指導者(二人共です)なのをいいことに、けっこうな無理難題も。今年はちょっと面白い服を着てたので、それに合わせて動きのある感じで撮っていたら、なんだかファッションメーカーのポスターみたい、って言われて、そうかも、と。もともと、いわゆる記念写真的なものを、撮ってもしようがないので、最初の頃からいつもの自分のやり方を押し通しているけど、けっきょく、普段と同じコマーシャルな写真として撮影している気がする。
前に、何度か呉服の撮影をしていた時、間に入っていた制作会社の横やりで、別の京都の写場もあってもちろん和装にも強い、というスタジオへ仕事が流れたことがある。こちらも、けっこうハードな日程だし、ロケ場所にも詰まって困っていたので、これ幸い、ってところも実のところあったのだが、あにはからんや、翌年、仕事が戻ってきた。クライアントから直だったので、どうしたのか?と聞いたら、なんか上りが違う、ぜんぜんよろしくない、と。見せてもらったら、これは記念写真だな、と言う仕上がりだった。つまり、そこはいわゆる、写真館の業務が主なところで、この営業写真ってのは、その人が、モデルになった人が、人物そのものが奇麗に見えて喜んでもらえる写真がいい写真、と。セオリー通りで、ライティングも奇をてらわず、動きもお淑やかさを前に出した感じで、面白みがない。それが私との違いじゃないかと、返答した。下に見るつもりはないけど、冗談で、腕が違うからネ!って言ったけど、まあまあ割と本心、というか、考え方が違う、という事かも。もともと、和装、とくに振袖なんか、それなりの決まりごとが沢山あるはずで、例えば半襟の出し方とか、足の捌き、小さなバッグの持ちかた、などなど、セオリー通りにやるのが普通と思うけど、そこらへん、和装は機会がほぼなかったので、良く知らないのをいいことにお断りとして、間違ったことさせるかもしれないと伝えてはいた。まあ、着付けの大先生が付いてくださるので、あまりに無茶なことはダメ出しされるでしょうけど、それでも、モデルさんに、決まった動きもいいけど、とちゅうで少し裾が暴れるくらい派手なポーズでもやってみて、とリクエストしていた。もちろん、振袖なので、柄が良く見えるというのは当たり前だけど、くるくる回ったり、袖を振り回したり、手を上げてみたり、とにかく動いてもらった。良い悪いというのは、人によって評価も変わるけど、それにあまり惑わされず、人と違う事をどんどんやってみる、と言うのは、ずっと教えられてきたことだから。ま、これも何年か続いたけど、このご時世、事業縮小の憂き目にあってなくなってしまった、と言う結末でした。