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AIのための読書リスト 2

自分が実際に読んだ本の中から、AIとの付き合い方のヒントになりそうな7冊を紹介する。今回はコモンズ関連の本をまとめた。AIが可能にする新たな民主主義について考えたい。


01. ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読

ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読
多木 浩二
2000.6/16

ベンヤミンがこの有名な論考を発表した20世紀前半、複製技術の発展が芸術と人間の関係を変化させていった。多木浩二による同論考の解説と批判的検討。

かつて作品のオリジナルは「いまここ」にしか存在しえない「アウラ」という一回性によって権威を保っていたが、大量生産が可能にした遍在する無数のコピーはオリジナルを本来置かれていた文脈から時間的および空間的に切り離してしまう。ベンヤミンは、芸術作品の展示可能性を増大させ、大衆が参加しうる芸術への道を開いた複製技術を評価しつつ、芸術作品というものの自律性を問い直さねばならないと説く。

生成AIも複製技術を加速させるツールであると考えることも出来そうだが、むしろより根本的なパラダイムシフトを巻き起こす装置であると考えられる。ここではオリジナルとコピーの関係性を見出すことが難しい。無数の画像を学習して生成した画像は、元の画像のコピーといえるのだろうか。また、ほとんどゼロの労力でほとんど無限の画像を出力できる点でも、従来の複製技術とは大きく異なる。生成AIによる芸術を考えていくために必読の一冊。


02. なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵 ―PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論
鈴木 健
2013.1/28

境界のない世界を、科学技術によって現実的に構築する方法を模索する一冊。複雑系科学や仮想通貨、分人民主主義など、さまざまな理論から可能性を導く。

断片化と複雑化が加速していく現代社会では、複雑な社会を複雑なまま生きる方法が必要とされている。本書では、細胞の膜と核の関係性が社会制度のアナロジーとして用いられる。社会の「なめらかさ」とは、膜の機能を弱め、諸物が連続的なつながりをなすネットワークへと開いていくことにほかならない。それは、情報技術の支援の下、貨幣・投票・法・軍事というコアシステムの変革によって実現される。

価値が人から人へと伝播していく仮想通貨システム、個人をさらに分割することで一人が複数の思考を併せ持つことを可能とする分人民主主義、ロックとルソーの思想によるルール作りを情報技術ベースで考える構成的社会契約論。これらとともに、なめらかな社会を考える。


03. 限界費用ゼロ社会

限界費用ゼロ社会 —〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭
ジェレミー・リフキン
2015.10/27

資本主義からシェアリング・エコノミーへの移行を、経済の視点から捉える一冊。モノを追加で作り出す(複製する)際に必要な「限界費用」が、限りなくゼロに近づく社会を考える。

モノのインターネット(IoT)はコミュニケーション、エネルギー、輸送の「インテリジェント・インフラ」を形成し、効率性や生産性を極限まで高める。限界消費がゼロに近づくことで、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して資本主義は衰退を免れないと予想する。音楽や動画は簡単に複製できる。3Dプリンターを使えば、フィジカルなモノを自分用にカスタマイズすることもできる。

生成AIは、複製どころか新しいモノの発明にかかるコストすらもゼロに近づけていくかもしれない。本書では、生産消費者という概念が提示される。今まではっきりと存在した生産者と消費者の境界が、このようなツールによって消滅していくというものである。労働の消滅がいよいよ現実味を帯び始めてきた今、どのような経済による社会が可能なのかを考えるための一冊。


04. WIRED VOL.42

WIRED VOL.42 —new commons コモンズと合意形成の未来
WIRED編集部
2021.9/16

世界はコモンズに溢れている。自然の中だけでなく、都会の真ん中にもスマホの中にさえある。この古くて新しい人類の共有地を、2020年代のいま、どれだけオープンで豊かに、そして未来にまで拡張できるだろうか。コモンズを総特集した一冊。

コモンズの議論と大きく関係してくるのが合意形成である。誰がコモンズを管理していくのか、どのようにコモンズ的に政治を進めていくのか。有名な「コモンズの悲劇」に陥ることを危惧するだけでなく、民主主義というものを再考する必要がある。本書では、熟議民主主義や液体民主主義など、共同的な合意形成のための6つの新たな手法が提示される。

生成AI、特に追加学習(LoRAなど)はコモンズを促進する有効な手法になりうると考える。曖昧な概念としての民意のようなものを、AIが非言語情報として把握し概念化する。それらは、共有され自由に利用できるものとなる。AIによる合意形成とコモンズは、今後大きな課題になるだろう。


05. 一般意志2.0

一般意志2.0 —ルソー、フロイト、グーグル
東 浩紀
2011.11/22

18世紀のルソーの見た夢が現代社会で実現されるかもしれない。グーグルやツイッターなど、人々の無意識を可視化する情報技術を、民主主義の組み替えのためのツールと考え、政治の新たな可能性を拓く大胆な構想を示す一冊。

良い政治とは人々が議論をすることで成り立つ、と今まで信じられてきたが本当にそうなのだろうか。どこまで議論しても全員が納得する案は作れないし、十分な勉強がないと議論に参加できないという排他的なシステムでもある。そもそも、直接民主制でないかぎり、民意がしっかりと反映されたと言えないかもしれない。

本書は、情報技術によるシステムを構築することで、人々の無意識的な呟きや感情などを集め、それらを混ぜて政治へ反映させる「無意識民主主義」を提案する。無数の情報を統合し、複雑なまま処理することはAIの得意分野である。議論を必要としない合意形成は、どれほど実現可能性があるのだろうか。そして、議論を必要としなくなった人間は、どうなってしまうのか。


06. 世界史の構造

世界史の構造
柄谷 行人
2010.6/25

本書は、世界史を交換様式の観点から根本的にとらえ直し、人類社会の秘められた次元を浮かび上がらせることで、未来に対する想像力と実践の領域を切り開く。

人類史は交換の歴史である。贈与と返礼で成り立つ氏族社会(A)、支配と保護で成り立つ国家(B)、貨幣と商品で成り立つ資本制社会(C)。現在の資本制社会を行き詰ったものとして捉えると、その先にはどのような交換様式の社会があるのだろうか。筆者は、Cの上にAが回復された交換様式Dであると述べる。資本主義をベースとした氏族社会を考えていく。

コモンズはAの発想である。資金源として囲い込んだ土地やモノを解放し、人々の手に届く形に戻す。歴史上でAを実践した大国にソ連などの共産主義国があるが、筆者はそれをC未満の上でのAと表現する。現代の成熟した資本主義の上で、情報技術を上手く活用することで、コモンズによる社会が回復されるのかもしれない。コモンズを人類学と経済哲学から考える。


07. 一九八四年

一九八四年
george orwell
1949.6/8

「ビッグ・ブラザー」率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた彼は、この社会を統治する仕組みとその穴が詳細に記された文書に出会ってしまう。

コモンズは資本主義に対抗する思想である。モノを共同で管理し共有していこうという姿勢は、人によっては共産主義・全体主義を想起させるかもしれない。ディストピアに陥らないために、人間と社会はどのような関係でいるべきなのか、考えさせられる一冊。




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