【読書】佐藤多佳子著『明るい夜に出かけて』

富山(とみやま)は、ある事件がもとで心を閉ざし、大学を休学して海の側の街でコンビニバイトをしながら一人暮らしを始めた。バイトリーダーでネットの「歌い手」の鹿沢(かざわ)、同じラジオ好きの風変りな少女佐古田(さこだ)、ワケありの旧友永川(ながかわ)と交流するうちに、色を失った世界が蘇っていく。実在の深夜ラジオ番組を織り込み、夜の中で彷徨う若者たちの孤独と繋がりを暖かく描いた青春小説の傑作。山本周五郎賞受賞作。

新潮社 HP(https://www.shinchosha.co.jp/book/123736/)

仕事関係でお会いしたラジオ狂の方に勧められたのはもう半年以上前だと思う。読まずに積んだままだった本の山からようやく手に取り読み始めたら、そこからはそう時間はかからなかった。

とは言ったものの、佐古田と出会うまでの富山のそのもったいぶった言い方や思考は共感が難しく正直なところ、また生きにくさを感じる若者がぐるぐるしている……と我慢の時間だった。

佐古田と出会い、鹿沢と永川と交流していくことで、富山の人物像が他の3人に反射して見えてきたように思えた。

何に悩んでいるのか、何が嫌いなのか、もっと言えばどんな自分が嫌いなのか。そこを理解してから、主人公の変わっていく様や変わろうともがく様が愛おしかった。物語全体を通して柔らかい空気があってより一層彼を最後まで見届けたいと思った。

一方的な独白では他者を理解することできない。人と繋がり交流し会話をすることで浮き彫りになるものもあるのかなと思った。それは必ずしもリアルでなくてもよくて、深夜ラジオでも同じことなのかなと。

パーソナリティだけが話すのも面白い、でもリスナーからのはがきという反射で、パーソナリティについて知れるのだと。逆に、リスナーについてもわかるのだと。わかることで増す面白さがあると思った。

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