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私の中のあなた(2009)

病気の姉、ドナーの妹、訴えられた母
複雑な関係の家族が育む温かい絆

家族って何だろう。家族を守りたいという気持ちは理屈では割り切れないものでしょう。しかし、家族だからこそ、という思いは時には大きな負担を強いることにもなります。
白血病に冒された長女の命を救うために、懸命に努力する家族の間に生まれた皮肉な溝が、家族の絆について考えさせます。

【ストーリー】
サラ(キャメロン・ディアス)とブライアン(パトリック・ジェイソン)夫婦の長女ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)は2歳で白血病と診断されます。適合するドナーのいないケイトを救うために、夫婦は医師の勧めに従い、遺伝子操作でドナーとなる次女アナ(アビゲイル・ブレスリン)を出産します。以来、アナは両親に言われるまま姉のために体内の組織を提供してきました。しかし、11歳になったアナはドナーになることを拒否する権利を求め、敏腕弁護士(アレックス・ボールドウィン)を雇って両親を提訴します。

アナが腎臓を提供しなければ、ケイトの生きる望みは絶たれてしまいます。ケイトを見捨てるようなアナの行為にサラは激怒しますが、幼い頃から手術を重ね、ドナーのリスクを生涯背負うことになるアナは「自分の体を守りたい」と主張。ケイトの命をかけた母と妹の対立は法廷へと持ち込まれますが、どうすることが正しいのか、その難しい判断は観る者にもゆだねられることになます。

弁護士や裁判官を交えて協議を進めるサラとアナ。その間にも刻々と病状が悪化していくケイト。無慈悲な現実と並行して、病気のケイトと共に生きてきた家族の記録が描かれます。そして、これが家族に与えられた難問を解くカギとなります。

ケイトを中心にすべてが回る家族たち。サラは人生を捧げてケイトの看病にあたり、アナは姉のために産まれた出自に戸惑いながらも、ケイトを心から慕っています。ブライアンや弟のジェシーも自分の事はさておき、ケイトのために心を尽くします。そして、ケイトは家族の関心を独占している事に心を痛めています。

家族は皆心優しく、互いを思いやっているのに、なぜ争うことになったのか。センセーショナルな問題の審議が進むうちに明かされる愛と喜び、苦悩と哀しみに満ちた家族の記録。幻のように繊細な映像の中で描かれる、美しくも切ない家族のエピソードの数々に胸が熱くなります。

子供の病気という過酷な現実を、家族の協力と思いやりの心で乗り越えようとする一家に、『きみによむ物語』のニック・カサヴェテス監督は優しく、温かな視線を送ります。倫理観をはらむ深刻な題材ですが、家族一人一人の人物描写が細やかで感情移入を誘い、家族に訪れる驚きの結末も無理なく受け止められます。

「生きるとは」「愛する人を守るとは」という根源的な命題に独特の方法で迫り、大きな感動をもたらす傑作ヒューマンドラマ。

残念ながら女優を引退してしまったキャメロン・ディアスが初めて母親役に挑戦し、強く、明るく、ひたむきなサラを好演しています。当時、名子役として注目されたアビゲイル、そして健気な姿が涙を誘うソフィアの熱演も光ります。

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