ECM: 私の1枚
ジャズを中心とした記事を多く掲載してきているJazzTokyoが、300号を記念して『ECM: 私の1枚』なる記事を企画した。これまで多くのライブ/作品レビューやインタビューをおこなってきたということもあり、JazzTokyo寄稿者のみ(?)による記事ながら、すべてを読み切るにはなかなかの時間を要すであろうヴォリュームだ。
そもそもECMとは
ECMとは「Editions of Contemporary Music」の略称であり、すなわち現行の音楽をリリースすべく、主宰Manfred Eicherが1969年に西ドイツにて設立したレーベルである。レーベル第1弾として発表されたのはMal Waldronによる[Free at Last]であり、この段階ですでにジャズ的な要素が強い作品が発表されていくのであろうと感じた人も当時多かったのではないだろうか。
しかしながら、1984年になるとEicherは「ECM New Series」という部門も設立した。こちらではArvo Pärtなど現代音楽家の作品などが継続的に発表されており、ジャズ以外の作品のリリースについても注力していこうという彼の意向が伝わってくるであろう。また、傘下にはCarla Bleyを中心とした「WATT」、Egberto Gismontiの有する「CARMO」、ECM設立以前にEicherが運営していた「JAPO」、そしてノルウェーの「Rune Grammofon」が存在する。
なお、当レーベルについて言及されるとき、"The Most Beautiful Sound Next To Silence(「沈黙の次に美しい音」)"という表現が用いられることがよくある。リバーヴをかけた音づくりをおこなっているため、(個人的にはその行為自体がイージーな発想と感じてしまうことも多いが)その表現が用いられ続けているのであろう。
私の1枚
傘下のレーベルを含め、さまざまな作品を聴いてきた僕自身にとって、この巨大なレーベルから1作品に絞って紹介するのには結構難しいものがあります。何度も何度も聴き込んだ作品も多くあり、しかしながら今はほとんど聴いていなかったりする作品もあり、手放してしまったものもあり。膨大なリストをDiscogsから引っ張り出して思い出すという手もありましたが、企画タイトルに乗っ取って、傘下のレーベル作品は検討範囲から除外しました。また、わざわざ思い出さないと出てこないような作品というのもどうかなと思い、瞬間的に浮かんだ1枚を紹介します。
Meredith Monk本人による映像作品のためのサウンド・トラック作品。もともとMeredith Monkというと(音楽のシーンに限っていえば)作曲家であり拡張奏法を使用したヴォーカリストというイメージが僕のなかでは強くある。もちろんそれは間違いではない。ただし彼女の活動フィールドはそれよりも全然広く、映画監督、演出家、振付師、パフォーマーなどといった側面をもっている。そのキャリアはECMでの活動に限っても非常に多く、去年80歳になるのを記念して、過去作品13枚をすべてまとめたボックスセットが発表された(さすがに手が出なかったが…)。本編映像をまだ観られたことがないので映像とのバランスについては言及できない。けれども、本作は彼女の作品のなかでも飛び抜けて特異な作品のように思う。このタルコフスキー監督による非常に内省的な作品のなかで、少人数での美しいヴォイス・アンサンブル(と若干のエレクトリック・ピアノの音色)を聴くことができる。映像のストーリーはどんなものかわからないが、音だけで十分にあなたも没入感を楽しむことができるだろう。そう願いたい。
欲を言って、もう少しだけ
膨大なカタログを有するECMだが、現在も活発にリリースを続けており、入手困難でない作品も多い。興味があれば1枚に限らず、あなたも是非好きな作品を見つけてみてほしい。
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