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脂肪吸引にRFタイトニング治療は必要か?

RF治療とは?

RF(Radio Frequency)は、ラジオ波のことです。
ラジオ波は医療においてはがん治療をはじめ、様々な分野で利用されています。美容外科の領域では皮膚の引き締めを行う目的でRF治療機が使用され、脂肪吸引後に皮膚の内側からRFを当てて皮膚の引き締め(タイトニング)を期待する治療で利用されています。

クリニックによってはこのRFタイトニング治療を脂肪吸引ほぼ全例の患者さんに行うことがあるようですが、果たして全例に行う必要はあるのでしょうか?

今回はこのRF治療についての複数の論文をまとめた、2022年の報告があるのでご紹介いたします。


RF治療についての論文(システマティックレビュー)

Eric Swanson: A Systematic Review of Subsurface Radiofrequency Treatments in Plastic Surgery, Annals of Plastic Surgery 89(3):p274-285, September 2022. 

この論文は脂肪吸引を含む形成外科手術にRF治療を併用した研究をまとめた、システマティックレビューの論文です。日本人の論文は含まれていませんが、アジア人が筆頭著者の論文は数編含まれています。

参考:システマティックレビューとは?
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/システマティック・レビュー

この論文は、23編のRF治療に関する論文をまとめたものになりますが、内容を以下にさらにまとめてみます。

RFは有効?-RF治療に関する論文の大問題-

結論から先に述べますが、この論文では現時点でRFの有効性と安全性を支持するエビデンス(科学的根拠)はほとんどないとしています。これは有効ではないという意味ではなく、現時点では必要な研究が足りないため有効であるか分からないとされており、適応すべき患者や注意すべき事項などがより明らかになれば、有用なデバイスとなる可能性はあります。

しかし、ただ研究が足りないだけなら今後の研究結果に期待するだけでいいのですが、そもそもRF治療の論文には大きな問題があります。多くの利益相反があり(77%)、マーケティングが科学より優先されていて、研究結果に影響を与えている可能性があると先の論文は指摘しています。(利益相反は以下参照)

お金もらって研究を頼まれたら、悪い結論の論文を書きにくいですよね?そういった研究が積み重なっていくと、真実とは遠い結果に導かれてしまう可能性があります。

さらにRF治療の論文では症例写真の信頼性が欠けるものが含まれており、そのうち一件は、RF治療後に余った皮膚をとる「腹部形成術」を受けた患者さんの症例が載っており、その手術を受けたことを隠してRF治療の効果を謳っていたようです。これは大問題です。

RF治療の注意点⚠️

この論文で指摘されているRF治療の注意点をまとめてみます。

RF治療の満足度は低い?

RealSelf 「Worth it」スコアによる患者満足度はRF治療群が一貫して低かったそうです。これは、術後経過やダウンタイム延長の不満、RF治療特有の合併症が影響しているようです。以下にダウンタイムや合併症をまとめてみます。

火傷のリスク

レーザーは吸光度と呼ばれる光の吸収の具合が組織によって異なる性質を利用して、シミの除去の時のように特定の組織のみ反応性を高めることができます。
しかし、RFは熱の組織特異性が低く、脂肪、コラーゲンだけ、と組織を限定してエネルギーを集中させることはできませんので、全ての組織が損傷する可能性があります。

火傷を起こす皮膚温の閾値は42℃  、真皮のコラーゲンの収縮の閾値は60℃と言われているので、コラーゲン層を引き締めようと温度を上げると、お隣の表皮に火傷を及ばしてしまう可能性があります。これを防ぐために皮膚側と内部で温度をモニタリングして、火傷を起こさないように機械側のセーフ機構が存在します。

ただこのセーフ機構の設定でも火傷をしてしまったという報告が2020年の論文にありますので、火傷のリスクは必ずあります。(1)

手術時間の延長によるリドカイン(局所麻酔)中毒

追加でRF治療を行うことにより当然手術時間は伸びます。脂肪吸引は大量の局所麻酔が使いますので、長時間の手術よって局所麻酔は徐々に吸収され、局所麻酔の中毒をひきおこす危険性が増加します。
局所麻酔は神経に作用して痛みをとる作用がありますので、たくさん体内に流れると、心臓の神経に作用してしまう可能性があるのです。

漿液腫(seroma)のリスク

漿液腫(Seroma)とは、体液の溜まりがコブのように膨らんで残ってしまうものです。VASERと呼ばれる脂肪吸引デバイスでもよく報告されるものですが、RF治療でも漿液腫の報告があります。これはRFによって皮下リンパ系が損傷して、体液の回収が滞ってしまっている可能性が考えられています。

通常の脂肪吸引であれば漿液腫の頻度は非常に少ない
です。海外の文献ですが、384人の脂肪吸引後の漿液腫発生率は0人だったという報告があります。(2)

神経障害

熱によって感覚神経の脱髄を起こし、感覚障害を起こす可能性があります。RFによる痺れは長期にわたることが多く、5%の患者さんは改善しなかったとのことです。
最も一般的な障害は上腕の内側腕前腕皮神経の損傷です。

エルゼビア・ジャパン: グレイ解剖学アトラス原著1版より一部改変

この神経は表層を走行しており、気をつけないと通常の脂肪吸引でも損傷してしまいます。特に腕の内側は皮膚が柔らかくたるみが気になる方が多いと思いますので、RF治療を行う場合、気をつけないとこの神経の熱損傷の可能性があります。
また顔にRF治療を行う場合、下顎辺縁の神経麻痺(特に表情筋を動かす顔面神経の枝の麻痺)を起こすリスクがあります。

腕の片側だけRF治療を受けた10人の比較

両腕の脂肪吸引で片側だけRF治療を受けた、平均BMIが26の10人の患者さんの報告という面白い比較があります。(3)
この論文ではRF治療側は前腕全面13.1%の皮膚収縮、脂肪吸引単独側では前腕全面8.1%の皮膚収縮であったとのことです。脂肪吸引単独でも有効な皮膚収縮があり、輪郭の改善には有効でしたが、RF治療側が収縮率は高い結果でした。ただしRF治療は合併症率も高いとされています。
しかし、元のシステマティックレビューの記述によれば、この変化率に統計学的に優位差はない、つまり、RFの方が有効性が高いとは言い切れないとしています。

そもそも日本人に必要なのか?

腕の脂肪とたるみに関しては、1998年にTeimourianとMalekzadehが発表した4つのカテゴリーに分けることができます。(4)

A.T.Lyos : Circumferential Para-Axillary Superficial Tumescent (CAST) Liposuction for Upper Arm Contouring. Body Contouring pp459-471 ※論文によってはカテゴリー、ステージ、グレードと呼び方が異なっています

カテゴリー1→4の順で皮膚のたるみが強くなっていますが、カテゴリー1とカテゴリー2のうち皮膚下垂が5cm未満は、脂肪吸引単独で対応可能で、カテゴリー2の5cm以上の皮膚下垂以上のたるみを持つ人は皮膚切除が必要と言われています。
日本人は耐糖能(血糖値を下げる能力=エネルギーを取り込む能力)が低く、超肥満になる前に糖尿病になってしまうと言われています。そのため、体格が良くても実際に日本人でカテゴリー3以上になっているケースはかなり稀だと思います。RF治療の存在意義は、本来は余剰皮膚切除が必要である患者の皮膚を引き締めて、手術の必要性を減らすことであると考えています。
そうすると、脂肪吸引単独で対応できる、カテゴリー1や2の方に対しては慎重にRF治療適用を検討する必要があります。

まとめ

たるみ治療と聞くととても魅力的ですが、安くはありません。
僕自身はRF治療自体を批判したいわけではなく、個々の論文を見ると魅力的な効果はありそうに感じますが、科学的根拠がまだ不十分で、合併症がないわけではないので、現時点では適用は慎重にいくべきかなと思います。

脂肪吸引単独でも皮膚収縮しますので、リスクとベネフィットを天秤にかけて決めていきましょう。

参考文献
※本文中に引用元の記載のない情報は、システマティックレビューの論文から引用した情報です。

1) Araco A. A case report of deep skin burns following radiofrequency-assisted liposculpting technology of BodyTite. Dermatol Ther. 2020;33:e13683.

2) Swanson E. Prospective clinical study of 551 cases of liposuction and abdominoplasty performed individually and in combination. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2013;1:e32.

3)Chia CT, Theodorou SJ, Hoyos AE, et al. Radiofrequency-assisted liposuction compared with aggressive superficial, subdermal liposuction of the arms: a bilateral quantitative comparison. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2015;3:e459.

4) Teimourian B, Malekzadeh S. Rejuvenation of the upper arm. Plast Reconstr Surg. 1998;102(2):545–51.



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