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娘のやわらかな髪

5ヶ月になる娘の髪は、てっぺんで括れるくらいにふさふさになった。

もう少し長くなったら胎毛筆を作ろうと、私は心に決めている。

母が、これがあなたの毛で作った筆よ、と子どもの頃見せてくれた小さな筆があったが、ふーん?と何も思わなかった。

息子のときは胎毛筆を作るか迷っている間に夏になり、汗でびっしょりと濡れる息子の髪をなんとかしなくてはと、急いで床屋に連れて行った。
膝に乗せた息子の機嫌が悪くなる前に、床屋さんと私と夫とで息子をあやしながら大慌てで散髪を済ませた。
やれやれ。
夫のものによく似た、息子のしっかりとしてコシのある髪が床に散らばっていた。
切った毛が私の服にも入り込み、チクチクと痛い。
この毛じゃきっと、猪毛ブラシになっていたな。
服についた毛をつまみながら、名残惜しさを感じることもなく、私は思った。


そんな息子の髪とは対照的に、娘の髪は細くて柔らかくて、まるで子猫の毛のようにふわふわだ。
顔は似ていないけれど、髪はあなたとおんなじね、と私の母は言う。
夜、真っ暗な中、うつらうつらと授乳をしながら、娘の頭をなでる。
するする、ふわふわ、あったかい小さな生き物をなでて私は心をあたためる。
娘と私がゆっくりと2人きりになれる唯一の大事な時間。
この毛は取っておかなくちゃ。

将来、娘の胎毛筆を手に取り、私はきっとこのふんわりとした時間を思い出す。
きっと私の母がそうしていたように。

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