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うんこを漏らす大人たち

 と言っても、何もふざけたことを書こうというのではない。いうのではないが、ひとまず「肛門投手」というワードでぜひ検索してみてほしい。

 「肛門投手」というのは、5chの「なんJ」という板で行われている肛門の、抑え投手への擬人化だ。当然、ほとんどの人が年間365セーブを挙げるわけだが、実際「肛門投手」で検索すると抑えに失敗、すなわち便失禁している人の多いことに驚かされるかもしれない。

 「肛門投手」が抑えに失敗するのは、気体をひり出そうと思ったらそのじつ液体だったような場合がほとんどなのであるが、そういうケースばかりではない。何を隠そうこの私の「肛門投手」が、何度も抑えに失敗しそうになったり、ごくまれに抑えに失敗した経験があるからだ。

魔の275号線

 国道275号線と言えば、空知そらちの街々から札幌に出るのにはちょうどいい路線だ。特に大きな都市を通過するでもなく、みんな時速80キロくらいで飛ばす信号で止められることもあまりないので、速く札幌に到着できるので非常にいい路線だ。私は月に一度メンタルクリニックに通っているので、かつては275号線を使っていた。「いた」ということは、今は使っていない。なぜか。

 トイレが少ないからだ。

 275号線沿線には、各町に1か所程度、コンビニがある。逆に言えば、コンビニを出発してしまえば、隣町に到着するまでコンビニ、すなわちトイレがないことを意味する。

 あるとき、当別町を札幌方面に向けて走っていたとき、突然便意がやってきた。こう書くと強烈な便意がやってきたように感じるかもしれないが、初めは本当にわずかなものだ。それが、5分ほどで猛烈な便意に増大してしまうのが私の特徴だ。あっという間に我慢ができないほどになってしまう。次のコンビニまではもうすぐそこなのに、脂汗がダラダラと流れ落ち、もうどうすることもできない。車内で便失禁する事態だけは避け、以後この路線は使わないようにしている。

タバコはやめたのに

 30代後半で、タバコはやめた。職場が全面禁煙になりそうだったから、後で苦労するよりも、先にやめてしまったほうが楽だと考え、飲み薬を使って禁煙した。健康になったかどうかは知らないが、いろいろと楽になった。野球を見に行ってもタバコ一本のために札幌ドームの長い階段を上り下りせずに済むようになったし、同窓会に出て妊娠中の女子がいても迷惑をかけずに済む。

 そして、もう一つのメリットはクラシックの鑑賞だった。開演から約1時間半から2時間、開場からだとさらに30分、タバコが吸えなくなる。この時間は長く、吸いだめしてから会場へと入ったものだが、そのイライラを味わわずに済むようになった。これで快適に音楽を楽しめると思ったのであるが、例のアレに苦しめられることになる。

 シベリウスの生誕150年に合わせて、尾高忠明率いる札幌交響楽団が交響曲全曲を演奏したことがあるのだが、このころの腹の調子が最悪だった。演奏が始まった途端、便意を催すような気がするようになった。持って回った表現だが、おなかのあたりがモゾモゾする。モゾモゾするが結局休憩まで間に合うので、「気がする」なのだ。事前にトイレに行ってもダメ、下痢止めを飲んでもダメ、とにかくいつ「本物の波」がやってくるかわからないから演奏中は気が気ではない。演奏中の退席もマナー違反だが、演奏中の便失禁は大パニックを起こしかねない。この恐怖と闘いながら聞くシベリウスは、良いものではなかった。

 この頃から今でも、演奏会の前はできるだけ重たいものは食べないようにして足を運ぶようにしている。

常にトイレを気にして

 ある時から私は、片道25キロほど離れたところへ通勤することになった。その道には、結構コンビニや道の駅、ついでに自分の実家もあって、トイレには事欠かなかったのだが、トイレに事欠かなくなったらなったで、今度は「次のトイレまで持つだろうか」という不安が頭をもたげるようになった。トイレは等間隔にあるわけではない。近距離に次のトイレがある場合もあれば、便意を感じてから切迫するまでの5分の間、トイレのない区間もある。そうなると、トイレを通過する瞬間、便意がないからトイレをスルーしても、その直後に便意に見舞われるという何とも面倒な事態が起きるようになった。

 この頃、便失禁を一度経験している。実家の向かいにはコンビニがあり、いつもそこに寄っていたのだが、その日は切迫度合いが半端ではなかった。もしこれでコンビニに飛込み、トイレが使用中だった場合はアウトだ。そこで実家に飛込み、「トイレ貸して!」と言いながらトイレに駈けていったのだが、あと3歩くらいのところでプリッといってしまった。大便のほとんどは便器に流し込むことに成功したが、残念なことにパンツには付着物があった。不幸中の幸いというべきか、父が前立腺の手術をして以来尿漏れがあって、紙パンツを捨てるゴミ箱があったからそこにパンツを捨てさせてもらい、父から紙パンツをもらって出勤することができた。

 無事出勤したらしたで、もう一つの難関が待ち受けていた。当時勤めていたのは高齢者向けデイサービスで、高齢者の送迎をしなければならない。長いときで1時間半ほど車を運転し、9時半までに施設に迎え入れなければならない。そうなると常にトイレの場所を考えて、便意に襲われた場合どのルートを使ってどのトイレを借りればいいかを考えながら運転したり、随行したりすることになった。

 「考えすぎじゃないの?」と言われたこともあるし、考えすぎなのは私が一番よくわかっていた。が、考えないようにすればいいというほど精神は単純にできていない。考えないようにすればするほど考えてしまうくらいのものだ。いろいろなものを試したが、結局登山用の簡易トイレを持ち歩くことにした。簡易トイレといってもどこでも用便できるはずもなく、結果として簡易トイレの出番はなかった。

授業中に

 デイサービスを辞めたのち、職業訓練に通っていた時期がある。基礎的なパソコンの扱いを学ぶ退屈な授業だったが、なぜか表計算の授業のときに限って便意を催すようになった。授業前にトイレに行っておくこともできないだらしない人間だと思われたくないから、授業の前はトイレに座り、腹の中にあるものはできる限り絞り出してから授業を受けるのだが、必ず10分ほどすると便意に襲われた。この職業訓練の間は、ついぞ便意を克服することはできなかった。

就職後、初の救援失敗

 それからしばらしくして、私は現在の職場(公立病院)に就職した。就職当時、職員駐車場は職場から歩いて10分程度の空き地にあった。ちなみに、職場から歩いて5分程度のところにセコマがあって、出勤時はそのセコマを横目に見ながら駐車場に向かうことになるのだが……。

 覚えておいでの方もおられるだろう。トイレを通過した直後、便意に襲われることがあると、そして私の便意は5分ほどで猛烈な便意に達すると……。

 つまり、そのセコマを通過した後便意に襲われると、駐車場に着き、病院に到達するまでの約15分間はトイレを我慢しなくてはならない。幸い、職場までの道のりで“ネイチャーうんこ”の屈辱を味わうことはなかったが、一度だけ便失禁の経験がある。

 職場近くのセコマのさらに前に、出勤経路には車で3~5分程度のところにセブンイレブンがあるのだが、そこを通過したときに便意が来たのだ。

 あーやばいやばいと思いながら車を走らせたが、セコマ直近の交差点に到達したときにはすでに便意は最高潮に達していた。無情の赤信号に阻まれていたが、ここは緊急避難、信号無視を敢行しようと思った。しかし、ルームミラーには自車の直後に停止しているパトカーの姿があまりにもはっきりと映っていた。肛門をせりあがってくる圧力。信号が青になる前に、私の肛門投手は、マウンドに膝をついてうなだれていた……。

 不幸中の幸いというべきか、そのとき私は成人用紙パンツを履いていた。便意の出やすい月曜日と木曜日(月曜はわかるが、木曜の便意は今なお謎だ)には成人用紙パンツを履き、いざというときに大惨事を惨事に食い止める努力はしていた。セコマに駆け込むと用便を済ませ、職場には「腹を壊した」と休みの電話を入れて、家に戻り、シャワーで体を洗った。

対策、そして究極の結論

 とはいえ、手をこまねいてこの事態を放置していたわけではない。

 就職後は、やはり仕事をするためのパワーをつけるために、朝ご飯を食べてから出勤していた。しかし、胃・結腸反射により大腸が排便へと働くのを防ぐため、家で朝ご飯を食べるのをやめ、職場についてからプロテインバーなどを食べるようにした。

 メンタルクリニックでは、過敏性腸症候群対策として、イリボーという薬を処方してもらった。これはかなり強力な味方になってくれた。

 この対策でかなり便意を感じづらくはなったが、それでもときどき便意を催し、コンビニに寄ることもたまにあったし、7時40分ころ、出勤のため家を出る直前に便意を催し、2度3度とトイレに向かうこともよくあった。

 そしてあるとき受けた総合検診が、決定的な対策を私に与えてくれることになる。

 総合検診の結果、腎機能が低下していることがわかったのだ。そのため役場の保健師に数値を見てもらい、対策を聞いた。すると、腎臓のためには夜の10時~翌2時までは寝てくれ、といわれたのだ。夜中遅くまで夜更かしをすることも少なくなかった私はこれを機に生活を改め、早めに寝て早く起きることを選択した。

 つまり、今まで6時27分に起床していた生活を、5時に起床するようにして、その分早めに寝ることにしたのだ。

 それが便意とどう関係するのか? 実は、5時起きの生活をするようになると、6時前後に便意が来ることがわかったのだ! これは重大な発見だった。6時27分に起床していたころ、起床から1時間前後と言えば7時半前後だ。これは出勤のために家を出る直前の時刻だ。そう、今まで出勤が近づくと精神的な要因からトイレに行きたくなるものとばかり思っていたのが、実は体の自然なリズムであったことがわかったのだ

 このことは、私の生活に劇的な変化をもたらした。最初の便意が来る時間に若干の差異はあるが、最初の排便から出勤まで1時間半程度の時間があるから、多少腹が渋っても遅刻する心配がなくなった。この安心感からか、遅刻を意識して焦ることがなくなり、自然と出勤途上で便意を感じることもなくなった。

 今でも万が一の事態に備えて月曜・木曜の紙パンツ着用とイリボーの服用は欠かせないが、随分とQOLが上がった気がする。

 肛門投手の出来に不安のある人は、排便の時間と便の性状、便の量を記録することをお勧めする。そうすれば、生活リズムと排便との間に何かしらの規則性が見出せると思う。そして、克服に向けた対策が取れることだろう。


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