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「防災気象情報に関する検討会」オンライン傍聴

 5月14日、気象庁で開かれた「防災気象情報に関する検討会」をオンラインで傍聴した。
 まあ、感想はモヤモヤする、というものだが、おそらくその場にいた委員の皆さんも、同じような感覚だったのではないか。

 この検討会は、わかりづらいと評判の防災気象情報をシンプルでわかりやすいものにするとともに、警戒レベルと関連付けて国民の避難行動につなげようというものだ。
 2年間の討議を経て、今回第8回の検討会が最後の検討会となり、検討会で出された意見を基に最終とりまとめ案がとりまとめられ、最終的に気象庁・国土交通省により決定される。

 この最後の検討会にあたって出された案が、だいたい次のようなものだった。
(1)注意報・警報等の前に、警戒レベルを表す「レベルX」(Xは2~5)がつく。
(2)警戒レベル2から順に、○○注意報→○○警報→○○危険警報→○○特別警報と称する(○○にはハザードの名称が入る)。「レベル4氾濫危険警報」のように。
(3)ハザードの名称は、洪水に関するものが「氾濫」、大雨による浸水害に関するものが「大雨浸水」、土砂災害に関するものが「土砂災害」、高潮に関するものが「高潮」。
(4)洪水に関するものに限り、レベル5の情報に「氾濫特別警報(氾濫発生)」と「(氾濫発生)」がつく。
(5)気象情報を、極端な現象を速報的に伝える情報である「気象防災速報」と「気象解説情報」に分け、それぞれ括弧書きで「気象防災速報(線状降水帯発生)」「気象防災速報(記録短時間大雨)」「気象防災速報(短時間大雪)」「気象防災速報(竜巻注意/竜巻目撃)」、「気象解説情報(線状降水帯予測)」「気象解説情報(台風第X号)」とキーワードを付す。

 第2案(?)として、ハザードの名称を「大雨浸水」ではなく「大雨」としたもの、レベル3と4とをいずれも「警報」としたものも掲げられた。

 実際に意見を聴取すると、これが最後の検討会かと思われるくらい、根本的な疑問が投げかけられていた。
 例えば、とにかく長いというもの。「レベル5氾濫特別警報(氾濫発生)」は長すぎる、と。これは確かにそうで、警戒レベル5というのは災害が既に発生したか、現に発生している可能性が高い状態を指すのだから、(氾濫発生)は蛇足であるように感じた。

 それから、上流で堤防が決壊して氾濫が発生したが、下流では大雨が降っておらず、レベル5の氾濫特別警報と、レベル2の大雨浸水注意報やレベル3の大雨浸水警報が同時に出るような事例が考えられるという意見。まっとうだが、防災気象情報の伝え方とはまた別の問題であるように感じた。

 長くなじんできた「大雨(注意報・警報)」をなくすことについて、異議も出された。「大雨浸水」では長いし、なじみの深い「大雨」ではなぜいけないのだ、と。
 これに関しては、他の委員から、ニュースで各地で降った激しい雨について、「今年一番の大雨」などと報じられており、「大雨によって生じる現象(浸水害)」ではなく、ただ土砂降りの雨が降るという受け止めがされるのではないか、という反対意見も出されていた。
 これについては、現行の大雨注意報・警報がすでに「大雨警報(浸水害)」「大雨警報(土砂災害)」「大雨警報(浸水害・土砂災害)」として運用されており、「大雨」だけをことさら残す意味は希薄であるように思った。

 レベル3の「危険警報」は英語に直すとアラート・ワーニングだから、これでは馬から落馬する式でしつこい、というもの。確かに「危険警報」というのはちょっと変だ。
 実は私は令和元年度に行われた「防災気象情報の伝え方に関する検討会」の報告書を読んで気象庁に手紙を送ったこともあるくらいで(気象予報士の勉強を始めるよりも前のこと)、その中で私は、指定河川洪水予報にならい、レベル2を「注意情報」、レベル3を「警戒情報」、レベル4を「危険情報」、レベル5を「発生情報」と統一すべきだと主張したから、このようにするのがやっぱりよい、と思いながら聞いていた。

 伝える側の意見として、警戒レベルを先に出すのはおかしい、やりづらいという意見。つまり氾濫レベル3とか、土砂災害レベル4とかにしたほうが伝えやすいのだという。これには、報道(速報)で用いる呼称と、気象庁が出す正式名称が別であってもいいのではないか、という声もあった。
 さらに、伝える側からすると括弧なになに括弧とじる、というのは非常に伝えづらいのだと、特にラジオでは、という意見にはなるほどと思った。これは気象防災速報にも言えることだ。

 気象防災速報の絡みでいうと、防災気象情報の中に気象防災速報があるというのはいかにも紛らわしいという意見。
 現時点でも全般気象情報とか府県気象情報などという区分はマニア向けのものだというのに、さらに情報の種類を増やしてどうする、というものもあった。

 また、いずれは「氾濫レベル4」とか、「土砂災害レベル5」などと、省略されて呼ばれるようになるのだから、その淘汰される部分についてこんなに時間をかける必要はないのではないか、という意見もあった。確かに、テレビなどの現場では、情報をなるべくコンパクトに詰め込むために、名称の一部が削られていくことはありうることだと思った。

 そしてあまり多くの委員が触れなかった点になるが、警戒レベルとの紐づけがなされない警報・注意報の存在だ。暴風や大雪などは、これまでどおり○○注意報、○○警報、○○特別警報として運用されるのだという。であるならば、国民に広く浸透した注意報、警報、特別警報の名称を残すことはこちらのほうで実現するのだから、警戒レベルと紐づけられる情報に注意報、警報、特別警報の名を残さなくてもよいのではないか、と思ってしまったし、暴風や大雪などの注意報、警報、特別警報にも警戒レベルが紐づけられているという誤解を生みはしないかと思ってしまった。
 これは正直なところ今回の検討会での最大の悪手だろうと思った。紐づけの有無に対応して、名称を変えたほうがやっぱりいいのではないか、と私は思う
 つまり、○○注意情報と言えば警戒レベルの数字を持ち出さなくても警戒レベル2であることがわかり、○○警戒情報と言えば警戒レベル3であることがわかり、○○危険情報と言えば警戒レベル4であることがわかり、○○発生情報と言えば警戒レベル5であることがわかる(国民への周知徹底が必要だが)、そういう考えのもとに気象庁に手紙を送ってしまった私としては、同じ名称を使うことへの抵抗感があった。

 最後に、2年間も議論を重ねてきたのにこれほど異論が噴出するということへの驚きがあったことに触れておく。委員各位は2年間の議論を通じて、様々な課題を見つけてはそれに対する解決策を提示し、座長と事務局がその取りまとめをし……というプロセスを繰り返しつつ、前進してきたはずだ。
にもかかわらず、最後の検討会でまるで“終わった議論を蒸し返すような”意見が出てきていた。それはやはりとりまとめ案の作成、様々な意見の最大公約数を取ることの難しさを表しているのだと思う。
 可能な限りシンプルに、と言いつつ、多くの意見を取り入れれば取り入れるほど複雑になっていく。いろんな人が主張する「各論」部分を取り入れれば、その部分はその委員の賛成が得られるけれども、「総論は受け入れられない」ものが出来上がってしまう。

 いずれにしても、「答えが出なさそうなもの」に対して2年間も議論を重ね、「とりあえずのゴール」にたどりついた委員の皆さんには敬意を表したい。


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