不思議な女性差別

 日本は女性の社会進出が不十分だとしばしば言われる。まだまだ女性の地位が男性よりも低いと。それでも近年は、女性差別の解消が着々と進んでいるとは言い難いとはいえ、その意識が少しずつ変わり始めているのを感じる。
 そんな中で経験した不思議な女性差別の話をしたい。

税理士事務所への応募

 私が職業訓練を終え、ハローワークで求職活動を行っていたときだから、つい3年ほど前の話になる。それほど遠い過去のことではない。
 私は日商簿記2級を持っており、長いこと経理の仕事をしてきたので、そちら方面の就職先はないかと探していた折、とある税理士事務所の求人を見つけた。
 求人票を印刷して窓口に持って行くと係官が事業所にこういう方がいるのですが、と電話をして話を聞く。
 すると求人票には当然書いてはいないが、それは女性限定の求人です、というではないか。もしどうしても男性が、というなら何歳以下でなければ、というのである。

 どうにも不思議な話なのだが、こういうことらしい。税理士事務所には外勤と内勤という職種があり、今回の求人は内勤の募集だったと。内勤とは要するに事務所に詰めていて来客へのお茶出しをしたり、データ入力をしたりという仕事をするものであるらしい。外勤とは、毎月客先を回って証憑書類がちゃんと保存されているか、帳簿はきちんと記帳されているかをチェックする仕事だ。得意先の会計上の質問にも税理士に代わって答えたり、種々の指導を行ったりする。事務所の幹部候補生として育てられ、ゆくゆくは税理士の資格を取り、事務所を継ぐなり独立するなりするのだろう、事務所で修業しながら資格を取るにはそれなりの年数がかかるから、年齢制限があるというわけである。

 つまり、内勤は女性の仕事、外勤は男性の仕事、というのである。別に男性がお茶出しをしたりデータ入力をしたっていいと思うし、得意先回りをしつつ幹部候補生として育てられ、将来的に税理士を目指すのが女性であってもいいではないか。
 ちょっと納得がいかない部分はあったが、とりあえず年齢要件は満たしていたから、応募書類は送らせてもらった。ハローワークの係官からは「望み薄ですね」とは言われたが、万に一つの可能性に懸けたのである。
 結果は書類選考で不合格であった。まあそれはいい。事務所の都合というものがある。

 ところが。やはり納得がいかないのは、その事務所の所長が女性だったことだ。自分が女性税理士ならば、女性を外勤として採用して幹部候補生として育て、男女問わず内勤の仕事に充てたっていいものだろうと思ったのだが……。
 女性が女性の社会進出・地位向上を阻んでどうするの?と思った出来事だった。


介護事業所にて

 前述の求職活動を行う前に勤めていたのが高齢者向けデイサービスの仕事だった。介護関係だから、どちらかというと女性中心の職場になる。

 小規模の事業所だったから、パートタイマーも使いながらカツカツの人員で事業所を回していたのだが、そんなある日のこと。施設の割と中心的なスタッフが、妊娠をしたのである。妊娠をしたということは、いずれ産休・育休に入るわけで、それまでに人員の補充も考えなくてはいけない。育休が明けた後も、小さい子どもを抱えていれば早退や休みが多くなることも考えられる。そういったときにどう仕事を回すのか。

 いろいろと考えなければならないことは多かった。仮に誰かを雇うにしても、育休が明けて戻ってきたから「はい、もう来なくていいですよ」というわけにはいかない。意外と労働者の権利というのは手厚く守られていて、事業者が解雇権をおいそれと行使できるようにはなっていない。

 いろいろとやらなければならないことがあるなあ、正直面倒くさそうだなあとわれわれ男性陣(私は労務や経理を担当していたから、種々の手続き関係は私の仕事になる)は思っていたが、それはおくびにも出せない。ちょっとでもそんなことを言えば、どストレートのマタハラで責任問題に直結する。そういう種々の手続きが発生することを抜きにすれば、やはり子どもができるということはおめでたいことなので、本人にはよかったね、おめでとう、体調は大丈夫かい、といったような言葉をかけていた。

 ところがである。パートタイマーの年配の女性職員が、「忙しいのに子どもなんか作って」「子作りなんていくらでも自分で調整がきくのに」と、現今では完全アウトな発言をしていたのである。さすがに本人の前でそんなことを言わないだけのわきまえはあったにせよ、である。
 男性職員も、他の女性職員も、そういうことは頭をよぎることは当然あるだろうが、それはグッと飲み込むものだ。それが、自身も二人ほど子どものいる女性職員からそういった発言が飛び出してくるのには驚きを隠せなかった。

 意外と、女性の敵は女性なのかもしれない、と思った出来事であった。


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