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ゲームストップ株騒動の基礎知識(6)  結局、株式市場の民主化とはなにか?

RobinhoodのHPには、会社のミッションについて以下のように書いてあります。和訳すると、すべての人にとって金融を民主化すること。

Robinhood’s mission is to democratize finance for all.

今回のGME株騒動に関連し、「株式市場の民主化」という言葉がほうぼうで使われました。1月末に聞いていたClubhouseのルームでも、とある大手企業の社長が「ところでゲームストップってなにが起きてるの?」と切り出して、著名VCのかたが「結局これは民主化の動きなので、それはいいことだと思いますよ」とまとめておられました。シリーズ最終稿では、その「株式市場の民主化」について掘り下げてみたいと思います。

民主化の対義語はなんでしょう?英語でいえば、democracy に対する autocracy、つまり専制です。各種政策を一人の君主や官僚/軍人組織、あるいは単一政党が決定権を持つ制度を専制といい、国民の意見を反映させる余地や手段を確保した制度が民主制というわけです。

一言でdemocracyを説明しろと言われたら?というのはアメリカの小学生によく課される質問ですが、"everyone has a say" というのが正しい答えだったと記憶しています。

そして民主「化」というからには専制的な制度が民主的に変わること、という意味になりそうです。それでは「株式市場の民主化」というフレーズを裏打ちしている「現状の専制的な制度」とはなにを指すのでしょうか?

今回wsbでは株価が高騰し、一般民衆がウォールストリートの巨悪に勝ったんだ!という高揚感が生まれました。10年前のオキュパイ・ウォールストリート運動では金融機関の本社周辺に座り込んで占拠する抗議方法が広まりましたが、今回はその流れを株式市場という場で実践し、大きな結果を残したんだという実感です。

その底流には、以下のような思いが交錯しているのではないでしょうか。

・誰が  エスタブリッシュメント/富裕層が 
・何を  1)価格決定権を握っている  2)価格発見力を握っている

レッテル貼りのリスクは付き纏いますが、誰が、のほうはある程度イメージがつきそうです。一方、何を、については1と2とで全く意味合いが異なるように思います。

価格決定権

1)価格決定権、すなわち価格を動かす力という意味では、板の上では全てのビッド・オファーは平等で、約定したらキャンセルはできません。その意味で、今日はじめて取引しようとしている人の注文も、長年の実績を誇る古参マネジャーのオーダーも、等しい権利義務関係のもとで処理されます。

結局オークション方式で決まる価格というのは、その価格で買いたい人の株数と、その価格で売りたい人の株数とを比べてどちらが多いかを判定し、買いたいほうが多ければ最良ビッド・オファーの配置場所をワンティックひきあげ、売りたいほうが多ければ逆にワンティックひきさげるというだけの仕組みです。

ただ、ヒト単位で数えた場合、持っている札の数は平等ではありません。札は金銭そのものですから、当然お金持ちのほうがたくさん持っている。それを活用すれば価格を引きあげたり引き下げたりできるだろう、つまり得をする可能性が高いというのは一見、真実を言い当てているように聞こえます。

ただ、投資では買ったものを売ってはじめて利益が確定します。そしてオークション方式における価格決定力は自ら買い上げたり、売り下げたりすることで発揮することになりますから、買うときは価格をあげて、売るときには価格をさげる方向に働きます。

通常は買うときに価格を下げて、売るときに価格を上げたいわけですが、逆なんですね。このような「価格決定力」を駆使して利益をあげるには、相場を盛り上げておいて売り抜けるテクニックを使う必要がでてきます。要するに自分以外の人が追随することを活用した価格決定力ということに。

もちろんそのような行為は相場操縦として規制されています。

金融商品取引法(相場操縦行為等の禁止)第百五十九条
※  以下、実際の条文に含まれるカッコ書きは省略

2 何人も、有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引のうちいずれかの取引を誘引する目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。(以下略)
一 有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、又は取引所金融商品市場における上場金融商品等若しくは店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること。

詳しいことは弁護士のかたに譲りますが、ここでの「誘引」というのは、実際は人為的な操作による変動なのに、それが自然な需給による変動だと勘違いさせて誘い込むことだとされています。

なお、想像に難くありませんが「目的」というような主観的なものを証明することは非常に難しく、この条文は滅多に適用されません。確か2006年のライブドア事件で使われて注目されたはず。

一方で、利益を確定させず、持ったままでもその価値が上がればメリットになるというケースもあるでしょう。含み益込みのパフォーマンスに応じて報酬が支払われ、その原資がどこか別の財布から出てくるような場合です。資金流入が旺盛なファンドでは似たような状況がありそうです。

このとき株価には長期的には正しい金額に収斂する力が働きますから、利益確定しないということは、ずっとその人為的な高値が継続しなくてはなりません。すなわち収斂する力に継続的に抗い続ける(=買い向かう)必要があるわけで、いかに資金力のある組織・団体でもそれは無理というものです。

やはり人為的に価格を押しあげたら売って利益を確定させないと「価格決定力」で得をすることはできないわけでして、そのためには他人を巻き込む必要があり、それは法律上禁じられているというのがまとめです。

価格発見力

2)つぎに、価格発見力についてはどうでしょう?発見ということは、どこかに正しい株価なるものが存在しており、それを見つける力、理解する力ということです。

価格発見力の源泉とはなんでしょうか?ひとつには情報量とその収集スピード、そしてその分析力や判断力ということになるのではないかと思います。

そう考えると、多大な資金を持ち、優秀な人材を多数雇い入れている集団がどうしても有利だという単純な結論になってしまうような気もします。価格発見力が特定の集団やコミュニティに握られている状態はあたりまえだということに。

企業間競争と同じく最大手が必ず勝つということにはなりませんが、ゴールは常に「正しい株価」という数字しかありません。新しいニーズをみつけてそれに応えるという手が使えませんから、新規参入は王者と同じ土俵で闘う必要があり、高度に効率化した市場は極めて厳しい世界になるでしょう。

幸い市場はそのような効率とは縁遠く、あやまった値付けがしょっちゅう発生しています。最大手がほとんどの利潤をさらっていくという世界には程遠いと思いますが、それでも「民主化されていないじゃないか」という主張は成り立つように思います。

ゲームストップ株で顕在化したのは民主化か?

結局、民主化とは、各者の価格発見力を向上させることで実現するほかないのです。資本市場の最大の役割は、資本の適性配分によってよりよい社会を実現すること。そのためには「正しい値付け」が必要で、わたしたちは、全体としての価格発見力が最大限発揮されるよう、様々なルールを整備・維持していかなければなりません。

今回のゲームストップ株で得られた高揚感は、決して価格発見力ではなく、一時的な価格決定権を獲得したという「成果」です。ショートインタレストが極度に積み上がっているような特殊な状況でなければ同様の現象は起こり得ないと思われますが、120倍は論外であって、株価が急に2-3倍になることが珍しくなくなったら悪影響は甚大です。

ひとつには、運用成果はボラティリティとリターンのバランスで評価することになっており、同じ平均15%のリターンも、ボラティリティつまり変動率7%のそれと、5%のそれとでは後者のほうがよいわけです。

10年に1度、年末には△10%減になってしまうかもしれない投資案件と、10年に1度、年末には△5%減になっているかもしれない投資案件があったとします。どちらも平均的には同じ年15%のプラスだとしても、明らかに後者のほうが安心です。

現状、今回の事件は市場全体に対するリスクとして捉える必要はないという見方が大勢を占めるように思いますが、ファンダメンタルズに基づく正しい株価がいかに社会にとって必要かということを忘れてしまうことの危険性は決して軽視できません。

ですので、単に「民主化イコールよいこと」という考えで、個人に力が渡ったのだからいいことだ、とするのは厳に戒めなければならないと思います。

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