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株価4倍増のKADOKAWAは、どんな将来を織り込んでいるのか?

今回はかなり上級編のnoteです。上場会社はさまざまで、投資分析では考えなければいけないことが多岐に渡ります。その中でよく見落とされるポイントについて、KADOKAWAを取り上げて解説しようと思います。

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株価を動かしたストーリーを想像する

株式投資をずっと続けてきたかたでも、投資先として検討するのは、長年追いかけてきた株ばかりではありません。社名を知っていても、その株がこれまでどのような動きをしてきたかは知らないことが多いでしょう。

その会社の事業について知っていることと、その会社の株について知っていることとは別なのです。株価には織込んでいる将来業績があり、市場参加者の見通しや、発表される実績がその織込み以上であった場合に株価は上がります。

ですから新しい会社を分析するときのSTEP1は、これまでの株価がどのような業績によって上下に動いてきたかの把握です。過去起きたことの把握をすることで、将来についても、どのような業績になれば株価が上がるのかが分かるのです。

さて、KADOKAWA株は昨年3月の大底から約4.5倍にも上昇し、700億ほどだった時価総額が3000億円に達しようとしています。株価の動きを業績と照らし合わせ、どのようなときに株価が動いたかを見てみましょう。

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まず年度業績です。ぱっと目につくのは営業利益がきれいなV字を描いていることですね。ドワンゴと統合したのが14年10月、初のフル年度である16.3月期の営業利益は91億円でした。そこから利益はどんどん減少し、19.3期の営業利益は27億円。

その後の2年度では一転して力強い回復を見せ、直近の21.3期では統合直後の利益水準を大きく上回る実績をあげました。

コロナ前のKADOKAWA株値上がりは2019年11月に始まっています。業績の底にあたる19.3期の翌年度、20.3期中間決算発表の2週間ほど前からです。

もう少し詳しく、四半期も見てみましょう。

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四半期別の業績をみて気付くのは、期中の利益変動です。

業績が最も悪化した19.3期、Q1~Q3まで、営業利益は前年比で一進一退していましたが、Q4の赤字転落で年間利益が一気に大幅減益に。赤色の二重枠の部分、利益率が前年比で△1.2%も下げています。年間△4億の減益のうち、Q4の減益幅が約△7億でした。

しかしそのQ4決算が発表された19年5月中旬、KADOKAWA株は全く落としていません。既に予想されており、株価には織り込み済みだったのでしょう。

青枠で囲った部分を見てみましょう。翌20.3期、Q1から利益率がハネ上がります。四捨五入すれば前年の1%→5%→1%が、7%→6%→4%に。それでも株価が上がり始めたのは19年11月からでした。

Q1の営業利益率7%は、統合後一度も出したことがない高水準です。前年Q4の例もあり、投資家はこれが持続可能だと信用しなかったのではないか?そんな想像が働きます。

Q2決算も利益率の改善が続きます。このとき配当予想が修正され、期末の20円が30円に変わりました。会社としても自信を深めたこの発表を受け、そこから力強い株価上昇が始まります

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Q3決算ではいよいよ改善傾向が明確になりますが、このあたりからコロナ感染の暗雲が。相場の反転と共にKADOKAWA株も急落し、3月の大底に至ります。

業績上は翌21.3期も四半期利益率は一様に改善を続け、下期には売上も回復し始めます。株価は一本調子に上げ続け、21年4末の本決算発表2週間前にピークを付けました。

さて、KADOKAWAの業績で特徴的なのは、利益と売上高の動きが驚くほど揃っていないことです。ドワンゴ統合後の2000億円から2100億円まで、コロナ影響で下げた20.3期を除き、全体としては緩やかに増収してきたといえますが、利益の動きは全くこれに一致していません。特に19.3期と21.3期は売上高がほとんど同じなのに営業利益には5倍もの開きがあります。

今年度22.3期の会社予想も、これまでにない増収率が予想されているのに、減益予想になっています。

と、このくらいのざっくりとしたストーリーを、過去2年くらいについて把握するとよいでしょう。調べ物をするまえに、まず株価と業績を見比べてこのような見立てをしておくと、その後がぐっと楽になるのです。

ここからの株価はなにで決まる?

株価と業績を比べたら、長期的に重要だと思われるニュース類を洗います。ソニーおよびサイバーエージェントとの資本業務提携や、社長の交代発表があったことが分かります。

最終的に知りたいのは、今後の株価をなにが動かすか。4.5倍ほどにも上がった株価がなにを織り込んでおり、それを上回る業績とはどのようなものかが分かれば、投資判断ができるのです。

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proproの業績予想画面では、いまの株価が織り込む将来業績がわかります。ここでは5年後の売上高が約5300億円、成長率にして17%と、これまでとは異なる水準の高い長期成長率が織り込まれていることが分かります。

5年後営業利益は約250億円、営業利益率は4.7%と出ています。先ほど見たように、KADOKAWAの利益率は過去5年間で目まぐるしく変化しています。4.7%というと、直近年度21.3期の6.5%や本年度22.3期の会社予想5.4%よりも低く、20.3期につけた4.0%との間の水準です。

ここで、画面右上に表示されている、「分析のしやすさ」に注目してください。赤色で★2つと表示されています。

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proproは過去業績に対して回帰計算を行い、限界利益率を算出します。織込み業績の計算では、まず株価の指し示す将来の利益水準を計算し、それに限界利益率をあてはめて、売上高とその成長率を表示しています。

ところが、限界利益率というのは会社によって、非常に安定している場合もあれば、年々の変化が激しい場合とがあるのです。

画面表示されている「分析のしやすさ」は、この限界利益率の安定性を示しています。★2以下で赤色表示される会社はかなり安定性が低いため注意が必要なのです。

ここで仮に、KADOKAWAの5年後の営業利益率が8%になるとしましょう。出版・映像・ゲーム・Webサービスの利益率は既に10%ありますから、営業損失が△26%にもなっているその他事業の赤字を多少抑えられたシナリオです。

営業利益率8%だと、5年後に営業利益250億を出すための売上高は3125億でよく、そこに至る長期増収率は+6.9%です。今年の会社予想が+6.2%増収、中期経営計画を達成すると23.3期にかけての2年間で+6.9%ですから、もし営業利益率が8%になるのなら、今の株価は、今年度予想よりやや高い増収率が長期で続くことを織り込んでいるということに。

営業利益率は果たして、過去業績から算出された4.7%くらいしか出ないのか、それともここからぐっと上げていけるのか?会社予想では、今年度22.3期は売上高が大きく伸びるのに減益となり、営業利益率が6.5%から5.4%に下がることになっています。△16億の減益のうち△8億ほどは減価償却費の増加と説明されており、成長投資による利益負担もありそうです。

しかし、中期経営計画では翌23.3期は売上高2400億円で営業利益が160億。営業利益率は再び改善し、6.7%に上がることになっています。昨年10月末の改訂でコロナ前の当初計画より利益が上方修正されており、もしこの通りになるのなら、売上成長と共に営業利益率は緩やかに上昇し、27.3期には7%ほどになるのかもしれません。

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先ほどの8%仮定と異なり、もし27.3期の営業利益率を7%とするなら250億の営業利益に必要な売上は3571億、増収率にして+9.3%です。+9.3%となると、今期の会社予想や中計想定よりも一段と高い成長が必要です。

しかも株価の織込み業績というのは2年や3年ではなく、はるかに長い期間をカバーします。proproは今後10年間の成長を前提に株価の織込みを計算しており、+17%ほどではないににしろ、+10%近い織込み成長率はこの会社がこれまでとは異なる成長フェーズに入ることを意味します。

ソニーやサイバーエージェントとの資本業務提携や、新経営体制への移行がそれを実現するのかもしれません。そのあたりが、これからの株価を左右するポイントなんだということが分かれば、いよいよ決算説明資料を読み解いて、投資分析をすすめていくことになります。

この会社の場合、売上高の成長は群を抜いて高くなるけれど利益率は上がらないのか、それとも売上高だけでなく利益率も上げていけるのか。事業の中身と共に考えていくことになります。

このように、限界利益率が安定しない会社では複数のパラメータを検討しなければなりません。売上高がどのくらい伸びそうかだけでなく、利益率がどうなるかも考えなければならないのは非常に骨が折れるということは覚えておきましょう。

限界利益率の安定性はなぜ重要か

限界利益率が安定している会社では、売上高さえ決まれば、利益の額はほぼ決まります。一方、このバラつきが大きい会社では、同じ売上高でも利益が大きく異なる可能性が出てきます。

限界利益率を不安定にする要因とはなんでしょう?ひとつは事業ミックスです。複数の事業を行っている場合、すべての事業が一様に伸びることは滅多にありません。事業により利益率が異なれば、全社利益の水準は増収の内訳次第となるわけです。

一過性要因も原因です。その内容は、競合対策や成長投資、あるいは特需など様々ですが、言葉の表現とは裏腹に、毎年のように異なる「一過性」要因が登場することも。

コスト削減も大きく影響します。減収時はその影響を少しでも和らげるため多くの企業でコスト削減を進めますが、再び増収することになったとき、どのようなペースでコストを戻すかの匙加減は簡単ではありません。

構造的な業務の効率化など、減らしたコストを戻さずに成長できるのなら減収期よりも増収期の限界利益率は高くなります。でも、業績低迷期には成長に必要なコストも減らすもの。そのコストが戻されれば増収期の限界利益率も低いままになりますし、それが数年遅れで実施されることもあるでしょう。

これら事業ミックスの変化やコスト削減、あるいは一過性要因による利益成長はどのように考えればよいのでしょう?実はそこにはひとつの大きな課題があります。

それは、増収による限界利益の積み上げに比べて寿命が限られているということです。

限界利益率がきれいに算出される会社というのは、売上高と利益が素直に同じ方向に向かいます。売上高が伸びれば営業利益率も上がり、事業が成長している限り、安定的に利益を伸ばしていくことが可能です。

一方、コスト削減は技術革新などに裏打ちされた構造的なものでない限り、無駄を減らしたあとはそれほど毎年の効果が望めません。利益率の高い事業へのシフトの場合、売上構成比はどんなに高くても100%です。いずれはその事業自体の成長がけん引することになるはずで、その時はミックス変化の効果はなくなります。

よって、限界利益率がきれいに計算される会社というのは、株価の織込み業績を売上高に換算するためのパラメータが決まるというだけでなく、成長要因自体が長続きするよいものである可能性が高いのです。

これは別の言いかたをすると、売上増で利益を伸ばせる会社が一番だという当たり前の話です。が、これまでとは違って今後は売上が伸びるんだ、という会社を探すことも多く、結構ここが見落とされがちなのです。

なお、この事業の限界利益率は何パーセントだ、という仮定の値を使って将来予想を立てる場合がありますが、このような時はよくよく気を付けなければなりません。

事業というのは成長と共に、「固定費」とされる費用もいずれは増やしていく必要が出てきます。事業単位の固定費だけでなく、全社規模が拡大すれば例えば間接社員も増やす必要が出てきます。事業単位の仮定の限界利益率は通常、そのようなことを勘案していないため、業績予想を考えるときは固定費の増加を別途想定しなければいけません。そしてそれは、たいていの場合非常に困難です。実績値に基づく限界利益率がきれいに出てくる会社、これが一番だということをぜひ覚えておいてください。


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