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ゲームストップ株騒動の基礎知識(3)    13Fに示されたショートポジション

さて、ゲームストップ騒動の発端は2019年に遡ります。以下、簡単なタイムライン。(Chamath Palihapitiyaが人気YouTube番組で語った内容に終値とツイートを追記。ファクトチェックしていませんが、こんな感じで展開していったんだなぁということが分かることを目的に)

2019年6月 DFVがレディットの掲示板wsbに、2021年1月限のコールオプションを$50k分相当購入したことを書き込み
2020年8月 Michael Burry が3%持分を取得。GMEの5700店舗はその9割がFCFを生んでおり、株価は余剰キャッシュ水準近傍にあり、今後の収益を全く織り込んでいないとしてGMEに自社株買いを要求
2020年8月 著名起業家のRyan Cohenが10%持分を取得
2020年9月GMEのショート残高が120%もあるとwsbに書き込まれる
2020年11月 Melvin Capitalというヘッジファンドが4年以上に渡ってプットを保有し続けていることがwsbに書き込まれる
2021年1月 Ryan CohenがGME取締役に就任
・2021/1/13 売買金額が急増し、株価が$30を越える
・2021/1/19 Citric Researchがショートポジション保有を公表
・2021/1/22 再び売買金額が急増し、株価が$65を越える
・2021/1/25 終値$76.79、Melvin Capitalが巨額損失、$3bの資金注入

2021年1月26日 Elon Muskがツイート

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2021/1/26 Chamath Palihapitiyaがツイート

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・2021/1/26 終値$147.98
・2021/1/27 終値$347.51、前日比2.3倍
・2021/1/28 Interactive BrokerやRobinhoodなどの証券会社がGME株ほか急騰銘柄に対する買い発注の規制を実施、GME株は44%下落

ショートインタレスト100%超という事態

今回のGME急騰で必ず引き合いに出されるのがショートインタレストすなわち空売り残高の高さです。

ショートインタレストというのは公式統計ではなく、プライムブローカーといわれる機関投資家の金庫番の役割をはたす証券会社の部門から情報を集計する民間会社が公表している数字なのですが、これがGMEの場合は流動株式数の120%とか140%という水準にあることが分かっていました。

こんなことがなぜ起きるのか不思議に思うかもしれませんが、株式の売買には買い手と売り手が必ずどちらもいるということを考えてみてください。とある投資家Xが空売りしたということは、また別の投資家Yがそれを買ったということです。

投資家Yが買った株を貸株に出せば、同じ株を再度借りて空売りすることができますから、理論上、空売り残高は流動株式数どころか発行済み株式数の100%だって越えることが可能です。

ただ、通常そんなにショートインタレストが積み上がっている会社というのは存在しないのです。ひとつにはやはりショートスクイーズが怖い。スクイーズというのは細心の注意を払わなければいけないこととして誰しもが初年坊のときに叩き込まれるような話でして、その危険性が高い会社をあえて空売りするようなことは避ける場合が多いのです。

今回、巨額の損失を計上し、Point72やCitadelに資本注入を受けて持分を譲渡した Melvin CapitalのPlotkinという人はSAC時代に1、2争う敏腕で慣らした人だそうですので、なぜそのようなポジションを組んだのだろうということにはちょっとした疑問を感じます。

空売りポジションはどのようにして開示されているのか

機関投資家は原則として、毎四半期末から45日以内に、一定規模を越えるポジションを開示しなければなりません。13Fと呼ばれる書類がその報告書で、これは誰でもネット上で簡単に見ることが可能です。


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上記はMelvin Capital が2020年末時点のポジションを開示した2/16付けの13Fですが、GMEについては6百万株分のプットを保有していることが記載されています。

ここでちょっと注意すべきことは、13Fでの開示対象にショートすなわち空売りポジションは含まれていないということです。開示対象になるのは「保有」している一定の有価証券等なのですが、プットの場合、これは空売り同様に株価下落で利益を出すポジションではあるものの、それはそのようなコントラクトを買う取引を行い、それを持っていますので、開示対象です。

一方、空売りは借りてきた株を売るという行為です。このケースでは買って保有している有価証券等というものがありませんから、13Fへの記載は不要なのです。

さて、Melvin Capital は今回、GME急騰で巨額の損失を計上し、$8bのAUMに対して1月は53%もの損失を出したと報道されています。つまり$4b近くの損失ということなのですが、ここで、その相当部分がGMEによるとの仮定をおいて試算してみましょう。

まず、そもそもプットというのは株価が上昇してもオプション購入時に合意した代金以上には損をしないという安全装置の付いたコントラクトですから、13Fに記載されているプットでは巨額損失は生まれません。恐らく、プットの代金を賄うためにコールを売っていたか、もしくはプットに通常のショートポジションを組み合わせていたのだろうと推測されます。

ポジションをカバーしたとされるのは資本注入翌日にあたる1/26ですから、終値ベースで見たときのそこまでのGME株の月間上げ幅は約$130です。単なる空売りなら3000万株分もしていなければそのような額にはならないのですが、発行済み株式数が6400万株の会社ですから、いくらなんでもその50%近くをショートしていたなどというのは俄かには信じられません。

今回、AMCなどGME以外の銘柄も急騰しており、上記13FにはMelvinがAMCのプットも持っていたことが書いてあります。

それらにも大きなショートポジションを張っていてGMEが損失全体の3割に過ぎなかったとして、それでも損失が$4bに至るには900万株必要です。発行済み株式数の14%をショートというのもとんでもない規模でして、個人的には聞いたことも見たこともないというのが正直なところ。恐らく実際はファンド内の様々な銘柄がおかしな動きをし、GMEが端緒であったことは間違いないものの、その波及効果がもたらした巨額損失だったのではないかと思います。

個人以上にプロも買い上げた(はず)

冒頭のカレンダーに登場するMichael Burryというのは、08-09年の金融危機を描いた映画 "The Big Short"、邦題では「マネー・ショート 華麗なる大逆転」でクリスチャン・ベールが演じた人です。サブプライムローン業界が実質破綻していることを見抜き、巨額の利益をあげたことで有名。かれは今回ロングで、ものすごく収益をあげたのですね。

今回のGME急騰劇は、大規模なショートポジションを積んだヘッジファンドに対し、お金を持たない個人投資家が大量の人数を動員して買い向かい、株価を押し上げてついにヘッジファンドに巨額の損失を食らわせて破綻寸前に追い込んだ、というレトリックで語られています。

ただし、これはあくまで経験則ですが、実際にはロング側にも大量のプロが参加していたと思われます。Michael Burry 以外にも GMEをロングしたことでWSJに写真入りで取り上げられたヘッジファンドがありますが、全体としては大量のモメンタム勢やクオンツが参入してきたはずだと考えるのが普通です。

私の知る限り、通常、個別株について個人投資家や機関投資家など、主体別の売買情報は集計されていないはずですが、今回SECは証券会社から売買情報を集めて調査するのではないかと言われていますから、ひょっとするとそのあたりの話は今後データとしても出てくるのかもしれません。

第4回へつづく ➡︎
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