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言えない秘密

タイトルにある「秘密」を知らずに見るとちょっぴりレトロな感じの王道ラブストーリーで、あるトラウマのせいでピアノが嫌いになりかけている湊人を雪乃が励ますためにふたりで授業をサボって二人乗りしたり、海へ行ってはしゃいだり、クリスマスパーティーでダンスをしたり、ふたりが音大のピアノ科の生徒なので連弾をしたりしてこころを通わせていく姿がとても「純愛」な感じで微笑ましい恋物語なのだけど、その「秘密」を知るとこの映画の手触りがごろりと変わる。

その「秘密」を知った時、私は、あぁ、これはただのラブストーリーではなく人生につまづき悩む湊人、そして大好きなひとに初めて出会えた雪乃の「生命(いのち)」を祝福する出会いの物語なのだと。
雪乃があのタイミングで湊人の前に現れたのは思い悩む湊人を前に進ませるための必然だと感じたし、そしてまた同じく絶望の中にいた雪乃の人生を輝かせるために湊人は運命に導かれ彼女の前に現れたのだと思った。

私が映画を観る前に何も知らずに買ったあの、赤いピアノのキーホルダー。あのピアノには湊人へのあなたがこの世界にいてくれてよかった、という湊人がこの世に生まれてくれたことへの「祝福」の気持ちが込められていたのだ。
それを知った時、私は気づいた。あぁ、これはラブストーリーでもあるけれど壮大な「生命(いのち)」の物語でもあるのだと。

だから、よくあるラブストーリーが苦手な私のような人にこそ、この「言えない秘密」という映画をオススメしたい。

演者さんの中では、凛々しくも儚い美貌と楽器のような印象的な声、言葉を発せずとも表情ですべてをわからせてしまう表現力、特に片方の瞳からポロリとこぼす涙の美しさが印象的だった湊人役の京本大我さん、何か言いたげな表情と少しふしぎな雰囲気を持ち、こちらも独特な声の響きでミステリアスな雪乃をとても魅力的に演じていた古川琴音さん、踏み込みすぎないよう距離を保ちつつもやさしく湊人を見守る湊人の父、尾美としのりさんがとても良かった。

そして、ラストシーンが終わり、喪失の中にいる湊人の心情を代弁するかのように流れ始めるSixTONESの「ここに帰ってきて」。何度も聴いてきたこの曲はこの映画の最後に流れて初めて完成するものなのだと感じたし、この曲が流れてこそ、「言えない秘密」という映画は完成するのだと感じた。

素晴らしかったです。

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