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好きな短歌100首言ってみよう(寸評つき)


 普段、自分の好きな短歌を布教する機会がなかったので、こちらの記事にインスパイアされて思うがままに今年読んだ中でお気に入りの100首を選んで感想を書いてみました。



1~10

ドア開ける。カーテンはためく。 「お。部活?」で、何て答えた?何言ったっけ?? /みさきゆう

声をかけられた時の一瞬の心の動き、躍動感。

さようなら長生きしてね私のために来世は会わずにすむように /渉

出会って費やした(奪ってしまった)あなたと私の時間のぶんだけまだ長生きしてほしい、のだとすればそれは愛でもあり罪。

拾わない猫に名前をつけるよう君は無邪気に下の名を呼ぶ /ナカムラロボ

本気にしてしまうから、呼ばないでほしい。ちょっとした贅沢でもある。

思い出す時は背中が多いから片想いだと気付いてしまう /あきやま

追いかけてたあの頃が一番楽しくて、振り返ると切ない。顔が思い出せない。

この人に教わった箸の持ち方でこの人の骨を拾うのだろう /袴田朱夏

体が覚えているその動作で土に帰す。いつか恩を返す時がくる。

何度でもはじめましてと言う父は記憶の中の父より笑う /ただのり

忘れたことで明るくなった父の表情と複雑な子の気持ちが目に浮かんで、胸が詰まる。父の覚えていない頃を知る証人として生きること。

メタモンに死にたいと言うと自殺した後の私の姿になった /深山睦美

はたしてメタモンが「死にたい」の抑止力となるのか。メタモンは意志をもって変身したのか。自分の遺体と対面する瞬間。

はじけないポップコーンはよけられて休み時間の廊下にぎやか /カラスノ

教室の隅で固まるひとと廊下の音の対比があふれ出て、ひりついた空気を肌で感じた。

ごめんね、と抱きしめられる百点のテストを見せたときより強く /藤井

褒められた時のうれしさを上回るくらいの瞬間が、子どもにはあって。それでもいいんだってゆるされたときの眩しさ。

ほんとうはいない小さな弟が駆けて帰ってきそうな夕暮れ /音平まど

ifでしか語れないこと、誰かと一緒に歩きたかった帰り道があったこと。

11~20

友だりはひとりもいなくなったけどわたしが踊れば影も踊った /谷川電話

寂しいときに寄り添ってくれた友だちがいて、それだけをまだ覚えている。

ひかれあうことと結ばれあうことは違う二人に降る天気あめ /俵万智

同じ場所にいてもたどり着く過程が違ったように、分かり合えないこともある。

無意識に入れる暗証番号の由来をときどき確かめている /宇野なずき

例えばそれはだれかの誕生日で、ナンバープレートに刻んだ数字で。

教習所帰りの夜は右折する車がすべて奇跡に見える /藍元

にじむウインカーの光に、運転のへたな自分が突き放されたように感じたあの日。

さかなつり磁石の口で確実なハッピーエンドばかり望んだ /初夢

確実なものだけを狙っていれば、ずっと楽しくて、ずっと安全だ。

AIがヒトに代わって学ぶのに1000年かかるキスをしようよ /文雪

まねされたくない、この味も仕方もテクニックも。

踏み台にした言葉を忘れたままブラインドタッチがうまくなる /ツマモヨコ

それは子どもが幼少期に受けたあらゆる愛情や、環境のすべてに似ていて、恩恵に気づくのはずっと後になってからのことだったりするように。

スカートの丈を短くしているのは短い夏を走りきるため /神戸女子大学のキャッチコピー

身軽さと、どこへでも行ける若さと、夏と。

曲名がわからないままCMへ そういうさよならっていくつある? /岡野大嗣

聞き逃したくなくて、巻き戻したかったさよならでいっぱい。

ンジャメナ、で回避したのに内申、と言ってあなたは角を曲がった /三浦くもり

しりとりを続けたまま去ってしまうずるい後ろ姿、あなたと交わした言葉が一気にリフレインする瞬間。

21~30

おにぎりを箸で食べたら崩壊し正しい距離がまだ掴めない /水口夏

不器用さと社会への適合、生きづらさ。全部がここに詰まってる。醤油に浸したシャリのような脆さだけがある。

梯子って四足歩行 天国へ近づくために獣になった /早月くら

二段ベッドの上で寝てた頃がたまらなく愛おしくなる。

せり、あのさ、土曜、例えば、ほとけのざ、やっぱ、すぐ来て、私に、会いに /笠原楓奏(ふーか)

七草に混ぜた思いが口からゆるゆる解けていく姿がチャーミング。

僕たちもスノードームの住人で逆さまにされたから降る雪 /初(うい)

いま自分たちが立っている場所がそもそも反転させられるファンタジー。

夜通しの翻訳作業 全国の光る「ツリー」も翌朝には「木」/かきもちり

ツリーと聞くだけで心躍る季節と、その終わりの儚さ。「翻訳」ってすごい。

通知表目にした親の不機嫌でサンタは大体ウチには来ない /月硝子

相関関係が見えてきて面白い。

必要な実験であるドアノブの音であなたが起きるかどうか /夏野ネコ

部屋を出る前に引き止めてもらうためなのか、それとも帰宅に気づいてもらう実験なのか。いずれにしても、みえない愛を試すという部分がとても好き。

我慢する涙の代わり「あーあ!」って溢してきみは一歩大人に /佐久早天

言葉にすれば悔しくて、それでも「きみ」が越えていく先が明るいことを誰よりも祈っている。

にわとりのたまごはうまれるまえに死にあきらめてきたことがおもたい /君村類

たまごの重量が、言葉によって規定される妙。食への感謝を通り越して直球でにわとりの「死」と「あきらめ」が提示されるのがすごい。

自転車のサドルを高く上げるのが夏を迎える準備のすべて /穂村弘

the 夏。めいっぱい漕いで風を受ける感じの。

31~40

三年が修学旅行に行っているときの二年の歩幅の広さ /川島薪

あまりにもリアルな情景。少し背伸びができる感じと、教室がぽっかり空いた静けさ。

背泳ぎをしている時にだけ見える天動説のような青空 /小泉キオ

すごい。自分だけが見つめたプールの天井、小さくなっているような感覚、頭をぶつけそうなギリギリのところでタッチする壁、青空、狭さ。全てを表現してしまえるのがすごい。

ハイフンのつけられている生まれ年いつか死ぬって決めつけんなよ /姿煮

ガツンときた。ハイフンがついて当然と思っていた表記への反発が新鮮で、面白い。

人生を章立てされて保険屋に綺麗な死まで語られている /斎藤君

葬儀プランを組むときにお金が発生すること、その物語っぽい非現実感。

ExcelのA5のセルは角部屋で2面採光で家賃が高い /真ん中

住もうとも思っていなかった場所に光が照らされて、非常にファンタジー。

フィクションで泣かない君はインスタをしない「餃子に羽はいらない」 /南の柳

リズムが好き。

「はしる」「とぶ」「まわる」しかないコマンドの小1男子は下校してゆく /毛糸

ドテッ、トコトコ、クルンッ。全ての動作に音が聞こえてくるような表現がゲームみたいでとても楽しい。

もう二度と会えないことを知っている生きてるだけできっと最愛 /マミヤマレイ

「最愛」というのがとても良い。会えなくても肯定的な愛を語りたい。

童貞の頃のあなたの手を握りそれだけしたら未来へ帰る /霧島あきら

タイムマシンのもっともエモい使い方。天才。童貞か童貞じゃないかの、その曖昧な境を時間で行き来するところ。

君からの「していい?」なんてマクドナルドの紙ナプキンくらいほしいよ /西藤智

マックに行くと必ずこの歌を思い出してしまうくらいには印象に残ってる。もう呪いみたいなもん。ナプキンだいじ。

41~50

「エプロンの紐結んで〜!」と声がして家庭科室にちょうちょが増える /菊智七星

小学校の調理実習が一気に蘇ってくる。ちょうちょ結びと共同作業の空気感、ミシンで作った自作エプロンを纏う空間が同時に想起されて好き。

ブランコに乗る君の背を押すように優しい風だ 屋上だった /ミウラユウガ

こんなに穏やかで、優しい風なのに最後の語で急に不穏になる感じ。叙述トリックのようで、心をかき乱してくる。

朝焼けの射さない部屋で寝起きする 誰かを愛していた気がする /塩野志帆

いつも自分よりも先に起きてカーテンを開けてくれる存在があったこと。喪失の朝。あまりにもせつない。

あめがふるまえにでるにじなんてないぼくらはいくつないたっていい /悠太郎

好きなひとに虹を見せたくて、空も泣いたことがあるかもしれない。

二番目も高校受験浴室の隅の黒かび擦る春の日 /梅鶏

全部がイメージできた。それぐらいに解像度の高い歌。浴室掃除から次の一年に備えて準備する親と子の覚悟、「ふたたび」戦うという春の決意。

ペットボトルキャップを開ける握力を君に使ったことはまだ無い /森屋たもん

青春って感じがする、やってあげたいこと、やれないことの歯がゆい満足感。

言葉をことばと書いたばつかりに街ぢゆうの精通が遅れる /暇野鈴

こういう因果によって規定される世界が本当にありそうで、おもしろくて怖い。

背を向けて板書しながらあなたにも翼があると教える仕事 /木下龍也

先生の背中って記憶の中ではいつも実際より大きく見えることがあって、どんな励ましの言葉よりも自信をもらえる気さえする。

すごいキスシーンが始まってヘッドホンしてるのに母を見る /三沢臼歯

えこれ見ちゃっていいんですかという空気と、見られたらマズい空気と、不安。

腕力も金も色気もロボットもない出木杉の頑張る理由 /たろりずむ

主要4人と比べた時に明らかに名前からして「できそう」なのに、それでも勝てないことがあるのなら、じゃあなぜ頑張るのか。ハッとさせられる。

51~60

おとなにはなりたくないって言えるほどこどものままでいたかったのに /埃

気づけばもう戻れなくて、いつの間にか退行する余裕もなく大人を受け入れている瞬間。

西側と東側とに向いているスピスピカーカーの声声 /工藤吉生

こういう奇抜なこともできるっていう短歌の可能性を感じる。インパクト大

地獄にも時代に合った罰がありネタツイとかを音読される /高下龍司

これされたら恥ずかしいっていう部分を突いてくるのがお上手なこと。

赤シート越しに目が合う君のこと忘れないからもう消えないで/ネプリ「Primary」

覚えるために赤シートで見えなくなった箇所。「忘れないから」っていう言葉の重みをこんなに変容させるのはすごい。

その時の一人称を覚えててチューニングから入ってしまう /山形さなか

例えば特定の相手のために使い分けてる一人称があったとして、あの時の関係性で話せたことってどれくらいあっただろう、と。

長い話をするからサイゼに来たんだよ 以外と浅くにぶつかるスプーン /富岡正太郎

スプーンをここに持ってくるのがすごい。サイゼの空気感と、話すペース・食べる分量・滞在時間がすべて作り物めいてくる。

指の位置きみにさんざん直されていまはじめてのギターの和音 /笹原千波

思い出って案外からだが覚えてるもんで、それがきみに届くことだけを願う。

知らぬ間に傷つけていたわたしにはサバの痛みが分からなかった /かねきょ

サバを開くときに骨いやだなって思ってた自分を恥じるような、同じ命で食べることは傷つけることで、同じ痛みのはずだった。

跳び箱に跨っているときひとはオートロックに閉め出されている /栢山ヤカ

跳び箱を飛べなかったときの、あの沈黙と、あーあっていう諦めと、疎外感。それは「オートロック」の冷たさに似ていて、怖い。すごくすごく怖い。

大・中・小のマトリョーシカが現れたような気がした家庭訪問 /望月万里葉

ユーモラスな喩えがとてもかわいい。とても分かる。

61~70

水槽の向こうで終わる連休をつかれまなこで悟るアザラシ /一筆居士

すごい視点。気だるげな感じと水族館でにぎわう家族連れが一気に目に浮かぶ。

好きだとか言わなくなった日常で面取りされた大根から愛 /さんと

言葉を介さない愛ってこういうところに現れていて、食べやすいように切られた具材、タオルの畳み方、干したシーツ。あらゆる部分に潜んでいると気づかせてくれる歌。

スランプを助走と訳す人だから一番星に最初に気づく /哲々

転ぶために立ち上がることだってあるはずで、誰かの頑張りを近くで見てくれる人がいるっていうのは本当に幸せなことだと思う。

きゅーけぇと言ってノートに突っ伏したきみのつむじに真夏のひかり /桃

the青春。ちょっと間延びしたような声がとても好き。

汗かきと決めつけていた ただきみが歩幅の違い埋めていただけ /西虎俊寛

このカタルシスがあまりにも尊くて好き。じりじりと太陽が照りつける道中で、並んで歩いてみたかったこと。汗がぽつぽつと等間隔で染みていく地面が、最高に夏。

はま寿司をハザムシと言う三歳の は!は!はざむし!響く夕方 /川合真生

発声練習ともとれるし、「はま寿司」を食べた帰り道なのかもしれない。こういう夕方の景色は緩やかに流れていて、どこか愛おしい。

出来立てのコートで遊ぶ少年がおそらく出来立てのレイアップ /とらうと

作り手のやさしさを背負ってプレイする姿。「出来立ての」が魔法の言葉に聞こえる。

闘って勝つ筈のない難病を記者の都合で闘病と書く /菊池洋勝

そこには本来、省略されるはずのない物語があったはず。

悪戯ということにしてその頬の血糊を舐める 渋谷、プリ機で /小石丘なつ海

「悪戯ということにして」があざとい。ハロウィンって無敵だ。

恋は自傷行為の亜種でいつまでも待っていられたしもやけの夜 /吉村おもち

「自傷行為」という言葉にハッとさせられた。さすっても治らないのに掻いてしまうしもやけのように、「待っていられた」ことは恋の熱に浮かされた一過性のものだと後になって気づくし、終わるとたいてい自分が傷ついただけだったりする。

71~80

歌うとき人はかなしい雲だから来たよ、濡れてもいい服装で /喜多抱

哀歌、鎮魂歌、なにを歌うのかにも思いを馳せることができる一首。濡れてもいい、言い換えると濡れるために用意された一着ともいえるところが愛。

驚かせたいより笑い合いたくて練習中の手品を見せる /伏見幸慈

マジックの醍醐味とは別のところを、共有したくて。例えば、その時間をあなたと。

ひらかれる時は明るい冷蔵庫 母は私の前でなかない /鳥さんの瞼

ひらいてない時も稼働している冷蔵庫は開いたときにしかその明るさに気づけないし、むしろ子の前で見せる表情が全てでないことを知った時、言い知れない感情が押し寄せてくる。

居場所って笑そこにソファーがあるじゃん笑」とすぐ自転車に乗れてた人は /岩倉曰

苦労とか何の生きづらさも抱えずに生きてきた人の住む世界との隔たりを、初めて感じる時。ふとした会話から生まれる「差」を言語化する妙。これを「言う側」には一生分からないであろう「言われる側」の痛みに寄り添ってくれている歌だと思った。

もう少し背が高ければ星屑を拾う仕事で暮らせたのにな /daist

くすっと笑いたくなる世界線で、でもあながち現実でも諦めがつかない仕事・やりたいことが子供の頃にあったよなと急に覚めていく感覚になる。

クジラののどを忍び歩いているような夜の道 街灯がくるしい /薄暑なつ

比喩があまりにも美しい。「クジラののど」と聞いて、ピノキオがザトウクジラに飲み込まれたあのシーンがすぐに頭に浮かんだ。とても幻想的な情景で、それを夏と絡めるのがすごい。

へいきだと言えばひとりの帰り道すこしじょうずに笑いすぎたな /桐島あお

胸が苦しくなるような、「あの頃」を追体験したかのように感じた一首。友だちに厚意に甘えるのは少し気が引けて、でも寂しくて、うまく笑えてしまった自分が悔しくて、苦しい。全然へいきじゃなかったよ。

ワニの歯を交互に押して私たち、いつでも笑えるように待ってた /あきせ

勝敗なんかよりもハプニングやアクシデントを実はひそかに期待している時の高揚というか。ワニワニパニックに噛まれるのを待つじりじりした空気感と笑いの予感。

アクセルを踏むのが恋で時としてそっとブレーキ踏めるのが愛 /関根裕治

ふたつの違いを上手く言い表している歌。恋は直情的だけど、相手を思った判断ができるのが愛というか。

顔見れば欲しいタバコがわかるほど会っているのにほかは知らない /田中颯人

なんとも哀愁漂う一首。動物にとっての飼育員みたいな関係性を思い出した。「エサをくれる人」という認識しかないように、それ以上深くは立ち入れない様子というか。

81~90

おかあさんを産みたい。困ってない眉で笑うところを見てみたいから /瀬生ゆう子

もちろんそれは有り得ない仮定なんだけど「もし私がお母さんのお母さん」だったら、今まで苦労をかけた分の苦労を私が一手に引き受けたいと思うのかもしれないし、お母さんの子どもの頃の屈託のない笑顔、無垢なまなざしを知りたいと思うのかも。

いける、って君がわたしの手を奪い点滅走る走る大好き /あの井

リズム感、昂ぶり、愛しさ。無意識的に君はわたしの手を引いたのかもしれないけど、わたしにとっての感情のピークが、そこで突然やって来る。横断歩道の点滅と高鳴る動悸がシンクロした歌。

その絵はさまだ描き足すのと訊いてくる寂しいねとは言わないあなた /とほる

未完成のままであることを願い続けるように、終わりが来てほしくないからまだ描いていてほしくて、でも「寂しい」とは言えずにいるあなたよ。

願いとはそれでもきみがあきらめず折ったつばさのよれている鶴 /少女祈祷中

折り紙って原始的だけど、手紙と同じように折った(書いた)人の思いやあたたかみを触感から受けることのできるものだと思っていて、その一つの「よれ」だったりする。

さよならを言える人から風になり私以外のすべてが初春 /暗い部屋で

別れの季節が春だとして、身をもって風になるほど誰かの巣立ちを素直に祝えない私のように。私だけがまだ風になれずにいる。

傷つけないかわりに誰も救わないぬるい牛乳みたいな正論 /遠野鈴

毒にも薬にもならないし、妥協案としても微妙な「ぬるい牛乳」という喩えがうまい。

今日塾をサボったことを責めながら月がうしろをまだついて来る /あまさめうた

罪悪感を月に照らされている情景に重ねるところがあまりにも良すぎる。「バレたんじゃないか」という勘繰りさえも想起させる。

産声をマイクが拾っていつの間に始まっていたTHE FIRST LIFE /タカノリ・タカノ

想像しただけでシュールで面白い。まさに一発録りにふさわしい状況。

でもわたし都会の風には飲まれない 寂しい時は濁音で泣く /汐見りら

濁音で泣くっていうのがすごい。独り立ちして都会に来た自分を鼓舞するような泣き方、音、風。

もう二度とこんなに多くのダンボールを切ることはない最後の文化祭 /小島なお

the青春。あぁもうあの量のダンボールに囲まれる経験ができないのだな、と分かると少し寂しくて、懐かしい日々。

91~100

漠然と生きていくにも才能が要ることを知るクレラップの端 /常盤みどり

ラップの端を綺麗にちぎるのにもコツは必要で、てきとうになれない自分や規範に縛られた生活なんかにふと思いを馳せて「生きづらさ・やすさ」について考えたくなる歌。

崩さないようにもらったあやとりをわたしはだれに手渡せばいい /戸澤ユキ

あやとりって誰かにつないでいく元祖・共同作業ゲームみたいな側面もあって、その「誰か」を想定せずに遊んだ時の虚しさにハッとさせられる一首。

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう /枡野浩一

希望にあふれた歌。ふざけたきょうがあれば、あしたが楽しくないはずがないって。

下腹部を「えくぼがあるね」と撫でられて笑った気がする切開の痕 /小松百合華

とてもやさしい歌。あなたに撫でられて喜んでるみたいねこの子も。頑張ったね。そう、あなたよ。他でもないあなたに会いたくて、だから会えて今とても嬉しいって。

はじめてのおつかいに来た死神がメモを見ながら寿命と言った /ねむけ

一見微笑ましい光景のように思えて、死神ジュニアが「じゅみょう」と言ってるところを想像すると途端にかわいげがなく思えてしまうマジック短歌。

巣穴からあたまを出した子うさぎが幸せだけを見れますように /さとうきいろ

こんなにもやさしく、誰かの幸せを願う気持ちが芽生えたことがかつてあっただろうか。と考えたくなるくらいやさしい歌。

少しだけ平行じゃない直線を引いた 遠くで交わるように /泰源

今はまだその時じゃないかもしれないけど、いつかは会えるとおまじないのように書いた直線。

疲れたし、赤ちゃんコアラの木登りのおしりを支えて生きていきたい /老川由良

まだ自分にも出来ることがあるはずだ。例えばそれは赤ちゃんコアラの……。

人類を滅ぼしたくてコンビニで袋をもらうことにしている /まいたけ

袋をもらうことへの抵抗を正当化したくなるいじらしさ、素直になれない反発みたいな感情が落とし込まれているようでとても好き。

ほとんどの願いは別のかたちで叶いほとんどの人はそれで幸せ /伊藤紺

めぐりめぐって叶う願い、夢、希望。そうなるって、信じてる。


 以上、1人1首ずつ私の好きな短歌100首を選ばせていただきました。どれも言葉にできないくらいの良さで溢れていたので、もっともっと多くの人に今回紹介した短歌が読まれたらいいなと心から願っています。ありがとうございました。&作者の方にもこの記事が届きますように!!


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