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【P+Bインタビュー】かがみよかがみ編集長・伊藤あかりさん(前編)「『私』が主語のZ世代女性の投稿が、社会を変える」

18~29歳の女性によるエッセイ投稿メディアとして注目を集めている“かがみよかがみ”。Z世代女性の本音や世の中に抱いている違和感などリアルな心情が発露されており、同世代のみならず多くの読者からの支持を集めています。

今回は、元・朝日新聞記者で“かがみよかがみ”を立ち上げた編集長の伊藤あかりさん(現在はサムライト株式会社に所属)に、Z世代女性の投稿者によるWEBメディアを立ち上げた背景や、投稿から見えてくるZ世代の特徴について前後編にわたってお話を伺いました。

伊藤あかり/2009年朝日新聞社入社。奈良県と徳島県で記者を務めたのち、配属先で編集者として紙面製作やミレニアル世代向けWEBメディア“telling,”の立ち上げに携わる。2018年に自身が企画したZ世代向けWEBメディア“かがみよかがみ”を立ち上げ、編集長に就任。Z世代女性の発信の場を提供し、それらを社会課題につなげる活動も行っている。

「私は変わらない、社会を変える」。Z世代の女性の表現の場として

―まず“かがみよかがみ”について教えてください。

伊藤:“かがみよかがみ”は2018年に誕生した朝日新聞社のWEBメディアです。ターゲットはいわゆるZ世代の女性で、「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。書き手もプロのライターではなくZ世代と重なる18~29歳の一般の女性である点が特徴的です。サイトを通して、「私」が持っている違和感を発表し、社会を変えるムーブメントをつくっていくことを目標としています。

―伊藤さんがWEBメディアに携わるようになったきっかけを教えてください。

伊藤:私は2009年に朝日新聞社に新聞記者として入社し、その後大阪の編集センターというところで新聞の紙面を作って見出しをつける仕事をしたり、並行して朝日新聞がスマホ世代向けにつくったWEBメディア“withnews”で記事を書いたりなどしていました。当時書いた「ガングロと新聞社 「絶滅危惧種」同士の生き残りかけた作戦会議」という記事がジャーナリズム・イノベーション・アワードという賞で入賞したのをきっかけに、社内の新規WEBメディアを立ち上げる部署に呼ばれました。そこでミレニアル世代の女性向けメディアの“telling,”の立ち上げに携わったのが本格的にWEBメディアに関わるようになったきっかけです。

“telling,”では初期メンバーとして、WEBならではの編集やライティングの洗礼を受けました。読まれる見出しのつけ方から原稿の書き方など、紙(新聞)とは異なることがたくさんありました。

―では、“かがみよかがみ”はどのようにして生まれたのですか。

伊藤:“telling,”に携わり、自分のメディアを持ちたいという気持ちが強くなってきた時、社内で新規事業のコンテストがありました。そこで現在の“かがみよかがみ”の趣旨の企画を提案して実現することになったのです。提案者が自分がやりたいWEBメディアの企画を通して編集長になったのは、社内では初めてだったそうです。

最初は1500字もの原稿を書いてくるZ世代の投稿者なんて本当に集まるの? という声も社内であったのですが、蓋を開けてみると、たくさんの投稿が集まりました。

―企画段階からZ世代向けのメディアにしようと考えていたのですか?

伊藤:それもあります。ミレニアル世代である自分よりも少し下の世代に向けて、自分が若いころに欲しかったメディアを作りたいという気持ちがありました。ただし当時はZ世代という言葉が出てきたばかりで、Z世代がどのような世代かは私もよくわかっていませんでした。最初は「自分が10代20代だった時の悩みとそこまでかわらないだろうな」という認識でした。

―伊藤さんが作りたいと思った、若いころに欲しかったメディアというのはどのようなものだったのでしょうか。

伊藤:「私」を主語に、一人ひとりが自分の思っていることを書く場所が欲しいと思っていました。その延長線上に、今の若い世代が言いたくて言いたくてたまらないことは何なのだろう、というのを知りたかったというのもあります。マイクを向けられたから話す言葉ではなく、「自分が書きたい言葉」というものがあると思うのですよ。特に若いころは、若いからという理由だけで話をちゃんと聞いてもらえないことがある。そういった発言の機会が多くない方たちが表現できる場をつくり、どんなことを考えているのか知りたいと思いました。

ブログやSNSで表現することとの違いとは

―現在はSNSやブログやnoteなど発信の場がたくさんあるので、何かを表現したい子たちは自分自身でできてしまうのでは、とも思います。そういったものと“かがみよかがみ”の違いは何でしょうか。

伊藤:“かがみよかがみ”は編集が入る、つまり公開前に一度ちゃんと受け止めてくれる人がいるというのがSNSやブログなどとの大きな違いです。あとは、多くの人の目に触れる場だということも重要な点です。そうなると書き手もブログやnoteとは違って読み手を意識して書くようになるのかなと思います。

―なるほど。“かがみよかがみ”に投稿する書き手は“かがみすと”と呼ばれていますが、そういったプロの書き手ではない“かがみすと”さんたちの文章を編集するにあたって意識していることはありますか。

伊藤:原稿の批判はせず「とにかく書いてきてくれてありがとう」と伝えるようにしていて、編集部にもそれを徹底しています。ここだから話せた、という子もいるでしょうし、外に出していい文章なんだと思ってもらえる安心感にもなると思っています。あとは書いてくれた人に必ず何か感想を書いて返信しているのが喜ばれているようです。

―原稿にはどれくらい手を入れているのですか。

伊藤:じつはほとんど手を入れていません。「てにをは」を直したり、事実誤認がないか引用元を確認させてもらったりするくらいです。ただ、タイトルはほぼ全て編集部でつけていますね。

あと暴力的な内容や「論」だけのものは掲載していません。たとえば「だから私は夫婦別姓に賛成である。なぜなら、データでは~、他国では~」という「論」ではなく、「自分が結婚しようと思った時に夫となる人に名字を変えてと言われてすごく違和感があった」といった「自身のエピソード」を求めているんです。データや統計の話は有識者がすればいい。だけど、N=1の自分の体験は投稿者にしかできないのかなと思っているんです。

コンセプトを変えるほどの力を持つ、Z世代の投稿の特徴

―伊藤さんはものすごい数の投稿原稿を読んでいると思うのですが、「いつの世も20代ってみんなこういうことで悩んでいるよね」という普遍的なものではなく、今のZ世代ならではの悩みや、考え方の傾向などが見えてくることはありますか。

伊藤:最初の頃は「ミレニアムのすぐ下の世代」程度の解像度でスタートしたのでわからなかったのですが、投稿を読むうちにこの世代には、自分自身の悩みで終わらせない力があるということに気がつきました。当初は、「見た目で悩んでいてきれいな二重になりたかった」「美人だからいいよね」以上、といった投稿がたくさん来ると思っていたのですよ。でも、「なんで他人に美人とかブスとか判断されなきゃいけないんですか? 容姿で人を差別する社会のほうが間違っているんじゃないんですか?」というように、投稿の中で個人的な悩みを社会問題に繋げるものが多くて、それは私が想定していたことを超えていました。

“かがみよかがみ”の当初のコンセプトはじつは、「私のコンプレックスをアドバンテージにする」というものでした。書くことで悩みを浄化させたり、こういうつらい経験をしたから今こうして書けるんだ、という経験をしてほしくてスタートしたのですが、自分だけの話にとどまらないエピソードが多かったので、途中から現在のコンセプトである「私は変わらない、社会を変える」にチェンジしたという経緯があります。それ以降のほうが若い世代の共感を得ていると感じます。

―「私」発信の投稿が読む人の心を動かし、社会を変える力になりえる、と。

伊藤:はい。幅広い層に届くようになったことで、「ライターになりたいというわけではないけれど、この話を誰かに聞いてほしい」という投稿者がたくさん現れました。「今まで彼氏にも友達にも話したことなかったけれども」と書いてきてくれる内容には、例えば性暴力の被害に遭っていたとか、過労死直前まで働いていて本当にしんどかった、というものもあって、なおさら社会問題として考える必要があると思いました。自分の考えをただ書いておしまい、ではなく「ちゃんとこの子たちの声を世の中に届けて変えていかなきゃいけない」という使命感が編集部の中で生まれてきましたね。(後編に続く)

Z世代の心を動かす“かがみよかがみ”の特徴

①    ブログやSNSと異なり、編集が入るからこそ、「ここだから話せること」を安心して投稿できる
②    「論」ではなく、「私」を主語にした個人のエピソードが共感を集める
③    書きたいことの発表の場とどまらず、社会に訴える力を持っている

「言いたいことを書いて終わり」にとどまらず若い世代の声を社会に届ける場に――。投稿者の多くが自分ごとを社会問題につなげる力を持っているからこそ、“かがみよかがみ”から今という時代が見えてくると言えるのかもしれません。後編では、Z世代をさらに深堀り、“かがみよかがみ”がなぜ支持されているのか、そして「伝える、のその先」としてどのようなことを考えているのかについてお話を伺います。


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