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Luminary Talk! vol.7 スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版編集長 中嶋愛さんにきく〜「わたし」も社会を変えられる?〜

Project MINTでは、大人がパーパスを起点に新しいステージに移行するための学びのサポートプログラム・コミュニティを提供しており、特別パネルディスカッション「Luminary Talk」を開催しています。この「Luminary Talk」では、Project MINTアドバイザーやパートナーの一人ひとりにフィーチャーし、ユニークな経歴を持つ彼ら・彼女たちのストーリーや変遷を、皆さんと共有しています。
今回はシリーズ第7弾ースタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版編集長 中嶋愛さんにきく〜「わたし」も社会を変えられる?〜 を開催しました。本記事はそのイベントに参加したProject MINT修了生の二人、川井美奈子さん(3期生)と大渕久恵さん(4期生)によるイベントレポートです。

▶︎スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本とは
『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』(SSIR)は2003年にスタンフォード大学で創刊され、社会の新しいビジョンの実現に向けて実践する人たちのパートナーとして世界中で読まれてきました。
社会は与えられるものではなくつくっていくもの。いま、日本でも多様な背景を持つ人たちがそれぞれに「わたし」が実現したい社会のために行動を起こしています。『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版』(SSIR-J)は、「わたし」を主語にして「やってみる」人の学びと実践を応援し、企業や行政、NPO、学校、特定の地域など、さまざまな場所にいる人たちの挑戦を後押しするようなインスピレーションや知見をお届けします。(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版ウェブサイトより)

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中嶋愛さんプロフィール
スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 編集長。
日本経済新聞社の記者として通商問題などを担当したのち、スタンフォード大学で修士号取得。帰国後、プレジデント社で20年に渡って雑誌、単行本、ウェブコンテンツの編集に携わる一方、海外ライツ事業部を立ち上げ、日本語コンテンツの海外輸出業務を手がける。担当した『ワーク・シフト』(リンダ・グラットン著)は2013年ビジネス賞対象を受賞。翻訳書に『徹底のリーダーシップ』(ラム・チャラン著)などがある。

当日の流れ

当日のイベントには30名の方々にご参加いただきました。

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パネルトークのトークテーマは、参加者に事前アンケートでお答えいただいた質問の中から特に多かった6つを紹介し、どのテーマを中嶋さんにお話いただくか投票方式で決定しました。

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このうちの上位3つを中心に中嶋さんにお話いただきました。
No1. 「わたし」を知り社会を変えることのつながりの探し方:38%
No2. 中嶋さんが「わたし」を知ることから社会変革の行動をするようになるまで:23%
No3. 次世代が生きやすい社会に残せるような私たち大人世代ができることは?:19%

「皆さん、今、生きやすいですか?」
参加者に対する中嶋さんのこの質問から始まったパネルトーク。

次世代が生きやすい社会にしていくために私たちの世代で終わらせたいこと、私たちにできること。そして、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版、創刊号のテーマでもある「主語をわたしに戻す」について、また同誌のコンテンツ中でも反響が大きいという「『わたし』を犠牲にせず社会を変えよう」で言及されているウェルビーイングに関する考え方、「わたし」を知る方法…と、参加者と一緒に「社会問題」との対峙の仕方、関わり方、を探求する対話の時間となりました。
最後に中嶋さんの近い未来に目指すもの、大切にしている信念などをご紹介いただき、90分間のオンラインイベントは終了しました。

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『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版』創刊号のなかでも反響の大きかった「ウェルビーイング」に関する記事

参加者の反応

 参加した皆さんがそれぞれ自分の問いを持ち帰る、というゴールのもと、テーマに関連した中嶋さんからの投げかけに、参加者からはご自身の抱える疑問や興味が次々あげられました。

イベント冒頭の中嶋さんからの「今、生きやすいか」という問いかけには、この様な声が上がりました。

「女性として生きにくいことがあるかも」
「コロナがあって生きにくい」
「どの年に生まれたかで、就職氷河期に当たるなど差がついてしまう」
「塾ありきの受験制度。貧富の差が教育格差になっている。」

その後「なぜダイバーシティがあるといいのか」という二つ目の問いには、

「自分が仲間に入れてもらえる」
「誰もが参加券を持てる」
「敗者復活戦が当たり前の社会にしたい」

といった声が次々上がりました。人生の巡り合わせで不利な側に回ると生きにくい現実を変えたいという心の声が出てきた印象を受けました。

続く、次世代には引き継ぎたくないこと、という問いには、家族の役割と社会でのキャリアの評価の話題が上がりました。

「女性が家事育児をするものだという価値観。夫の海外転勤には妻が仕事を辞めてついていくもの、という観念が日本では強い。そして、そうやって職場を離れ家族と過ごした期間がキャリアの欠落として扱われ、社会に戻ってポジションを得るのに長く苦労をした。片方の性に家族の用の負担が固定するのは自分の世代で終わらせたい。」

この発言には類似の例が次々と続きました。

「扶養控除。多くの人がその枠の中で働くという選択に導かれてしまう。」
「『自己責任』を安易に使う感じ」

性による役割分担などがまだまだ見えない仕組みとして存在し女性の社会参加を阻害しているということを、参加者がそれぞれ「わたしが感じる社会課題」として意識し始めているように感じました。
  

次に『「わたし」を知ることから社会への行動をするようになるまで』というテーマでは、中嶋さんからの「仕事以外にしている活動について」の質問に対して、

「コロナの期間に発想を転換して海外の大学院に参加」
「途上国でインパクト投資支援のNPO。リタイア世代から20代まで広い年代の方が各々得意分野に従事していた」
「音楽業界にいて、教育方面やコミュニティづくりなどに仕事を活かしながらアクショントライしている。」
「居住地の『ご近所イノベーター講座』に参加し、普段なかなか縁のできない人たちと繋がれて楽しかった。」
「趣味のアマチュアオーケストラや『みんなの畑』というオープンな空き地活用の畑に参加。」
「仕事以外の繋がりが欲しいと思いMINTに参加」「90歳ヒアリングという活動に参加した。戦前のモノがない時代の人たちは、今より心豊かだったという。なくなりつつある当時の暮らしの知恵をきくのは目が鱗の体験」

などのコメントが活発に挙がりました。

参加者の方々は、家庭と仕事以外の第3の場所を既に得て、行動に繋げている方が多いようでした。今回改めてこの問いかけと中嶋さんからのお話を聞かれたことで、利害関係のない「第3の場所」での「わたし」を知る方法のアイデアを持ち帰っていただけたのではないでしょうか。

また、セッションの流れの中で下記の2つの興味深い調査結果のご紹介がありました。

▶「90歳ヒアリング」ー参加者からのご紹介
 便利なもののない戦前の時代を過ごした90代の人たちへ全国でのヒアリングがあり、参加されたことがあるとのこと。昔を生きた人に当時のことを聞くことで、ヒアリングをした各年代の人たちが影響を受けるのだそうで、「私を知る」の機会になっているようです。また昔は不便でも心豊かだったことなどがわかり、便利でも生きにくい現代と対比して未来を考えるヒントになりそうです。
(こちらの研究室のサイトに情報が載っています。)
京都市大学環境学部 古川柳蔵研究室 – We create new business in backcast way of thinking for affluent lifestyles. (ryuzofurukawa.com)
▶「日本で一番自殺率の低い町についての調査」ー中嶋さんからのご紹介
 well-beingに関してのお話の中でご紹介がありました。
幸福度がとても高いというのとも違う、中嶋さんがwell-beingを腑に落ちる言葉として提示された「ニュートラル」に近い状態を意図的につくってきた町のようです。
 周囲の町より幸福度は低い(ハイな状態ではない)、互いの監視はしないが関心を持つ、出入り自由、悩み市に出せという言葉があり悩みをため込ませない、緩やかな繋がり(密だと弱みを吐けない)など、気になる言葉が沢山出されました。
(こちらの本が出されています。)
『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』(岡 檀)|講談社BOOK倶楽部 (kodansha.co.jp)


イベントに参加して--MINT3期生 川井美奈子


 創刊号を出され超ご多忙な中嶋さんですが、個々人の社会課題への関わりには優劣がなく、市民農園のようにそれぞれの取り組みを受け止める場になるのがStanford Social Innovation 日本版ということで、参加者それぞれの方の在り方や取り組みに敬意と興味を持たれていました。
  
 参加者の皆さんが、イベント中に上げて下さったご自身の発言や、それをきっかけに中嶋さんが話されたされたことをどう持ち帰り、感じていかれるか、とても楽しみです。 
 
  今よく耳にするwell-beingということばを中嶋さんがしっくりくる言葉に言い換えると、ニュートラルが当てはまるそうです。ハッピーというハイな状態でも不幸な状態でもない。どちらにも行ける状態。そして、「自分」というのは探しながら人に見つけてもらうもの。たとえば「意図をもってコミュニティに参加し、そこで出会ったものに委ねる」という「意図と成り行き」の絶妙なバランスがとれている状態。自分が最近幾つかのコミュニティに加わってみている意図を言い当てられた気持ちです。

 スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版ではアクションを起こすきっかけとなる(出会いの場として)のコミュニティを3月末にオープンする予定で、すでに2000名ほどがプレ会員として登録しているとのこと。こちらやMINTのような新しいコミュニティが次々誕生しており、さらに、上の項目でご紹介したような、昔の人々の在り方や、リアルな地域のコミュニティに学ぶなど、新旧のアイディアが混ざるコミュニティでいろいろな「わたし」との出会い、新たな行動が生まれているに違いありません。

▶持ち帰る問い
 ダイバーシティについて、人生はクジ引きみたいなもの、外れクジだったとき、その外れをチャラにできるものがイノベーションであり今ソーシャルイノベーションは大きく進歩中、つまり多くの人に、今までよりチャンスのあるダイバーシティが広がる望みがあるというお話でした。しかしマジョリティの立場を得た人たちはその既得権を顕在化して渡すことはしたくない、相当な力で気付きにくくさせ変化を阻み続けるだろうと私には思えます。だから「『わたし』を犠牲にせず社会を変えよう」は、大して効力がないのか?あるいは、無理せず誰もが乗れるので、それだけで大変パワーがあるのか、両面の拮抗が気になります。


イベントに参加して--MINT4期生 大渕 久恵

当初、「スタンフォード」「ソーシャルイノベーション」などのパワーワードに気後れしてしまいそうになりながらも、せっかくの機会だからと参加しました。
開始早々、中嶋さんからの問いから引き出された

「人生はくじ引きみたいなもの。ずっと当たりを引き続けるのは難しい。ハズレくじを引いてもチャラにできる社会にすること、またチャラにするのはイノベーション」

という言葉がとても印象に残りました。
SDGsやESGなど我々が取り組まなければいけない課題がたくさん有ることは意識していました。でも、環境汚染や人口問題など個人が取り組むにはとてつもなく大きなハードルのように感じていました。正直に告白してしまうと「社会問題」をどうにかしなければ、と思いつつも、それは経験や知識、権威、リーダーシップのある選ばれた人たちがメインで取り組んでいる問題だと。しかし、そうではないことが今回のイベントでハッキリしました。

「わたし」を知り社会を変えることのつながりの探し方

最初の投票で、私はこのテーマに投票しました。
「わたし」をどうやって知るのか?「国が〜」「制度が〜」「会社が〜」ではなくて、「わたしが〜」を主語にしたいけれど、自分のことって実はよくわからないのではないだろうか?と。

今回のイベントで中嶋さんや参加者との対話で出てきた一つの解は以下のものでした。

自分は探しながら見つけてもらうもの。
「意図することと委ねること。」

社会問題は対岸の火事ではなく、「わたしの悩み」から始まるものだと分かりました。何故なら社会はそもそも数々の「わたし」達から形成されているからです。「わたし」の悩みを社会という枠組みの上から俯瞰して見た時に「これは次世代に持ち越したくない」という個人の想いや願いが集まり社会問題として浮き上がるのだ、と。この気づきは私にとって大きなパラダイムシフトでした。

ハズレくじをチャラにするのもまたイノベーションによって可能ではないか、と中嶋さんはおっしゃいました。
そのための方法もさまざまに試されていると。
affirmative actionのような劇薬なのか、それともじわじわと効果が現れる漢方的なアプローチなのか?ソーシャルイノベーションの世界では独善的な価値観ではなくエビデンスやデータを重視して「効く」ものを残しているそうです。このことは、今後DXが進むことでソーシャルイノベーションが加速し、今までの不可能も可能になるのかもしれない、と期待が持てました。

社会問題は「わたし」から始まる。このことは今後とも意識し続けていきたいと思います。


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