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落ちる準備ができた時。覚悟が伝わった瞬間

KGキャピタルを設立してからというのも、
投資家でありパートナーだった彼から、どれほど怒られたかわからない。

会社運営のこと、事業の考え方、プレゼンテーションの資料のつくり方まで、もう何から何まで怒られっぱなしだった。

大人だって、怒られることは当然悔しい。
全部身につけてやろうと思って、怒られたこと、指摘されたことは全部メモしていった。
丁寧にカテゴリーに分類し、なぜそうしなければいけないのか、深い意図はなんなのか、全てメモに残した。

エクセルシート80-100行にもなったそのメモは、いまでも時折見返して、判断や戦略の指針となる。
僕の宝物となった。


そんなふうに始まった会社だったが
しばらくすると、違和感というのか噛み合わなさというのか、
自分の中にもどかしさが募るようになった。

どこまで行っても、一緒に会社を作ってくれた投資家と「同じ目線」で話せていない感覚が拭えない。
KGキャピタルという会社の代表取締役であっても、自分でお金を出して起業したわけではない。
結局は雇われ社長だ。
覚悟の違いから、思考の深さの違いを感じた。

言ってしまえば、一緒に会社を創っていってるパートナーではなく、お金を出してる人と、それをただ運営している人。
完全に感覚が彼に追いついていなくて、そこには大きなギャップがあった。
彼は単なる投資家ではなく、常に自ら勉強し、情報収集を欠かさない人でもあった。

事業はお金がないとできない。
お金を出すということは、リスクを取るということだ。
事業自体はうまくいっていたが、結局は投資家の彼がリスクをすべて取ってくれていて、僕は彼の手のひらの中で事業を運営しているだけだと痛感していた。


さらに当時の僕は、ハートが小さかった。

投資の世界にいると、より一層ローリスク・ハイリターンを求めがちになってしまう。
机上の空論・テクニックだけで上手くやろうとしてしまう。
しかし、起業や会社経営ではそんな理屈だけでは成り立たない。
起業家はそんな甘ったれた考え方で近づいてくるヤツをごまんと見ている。

今思い返すと、彼は僕のそういう部分を見ていたのだろうと思う。


結局、腹の括れない人間には、大したことなんてできない。
お前の覚悟はどうなんだ、と常に突きつけられていた気がした。

でも彼は決して覚悟を”強要”することはなかった。
強要することはなかったが、僕はそこから何かを感じ取っていた。


不動産業界の中では異例にステップアップできたキャリア、
周囲からの高評価、
その心地よさを、未だ捨てられずにいた自分。
狭い業界だから、失敗したらすぐに叩かれる。
恥ずかしい。かっこ悪い。
何を怖がっているかと自問自答したとき、そんなことを心配している自分に気がついた。


そこに思い至った時、
「よくよく考えてみれば、もともとは底辺からのスタートだったのだ。
失敗したところで、また元の場所に戻るだけだ。
何をカッコつけていたのだろうか、今までが運が良すぎただけだ」
と力が抜けた。


こう自問自答できたことで、腹が括れた。
表現が適切か分からないが、ようやく「落ちても良い準備」ができた。

それと同時に、彼らのような起業家と対等に話せるようになるためには、一度ゼロから自分で起業しないと無理なのだと悟った。


投資家の彼に独立する旨を伝えたが、簡単に合意は取れなかった。
「KGキャピタルの代表をもう少し続けなさい」と反対され続けた。
起業は簡単ではない。

4、5回くらいは話しただろうか。
この時にはじめて、互いに思いを込めて腹を割った話が出来た気がした。
最後の最後は、想いのすべてをぶつけた。

「僕はあなたの世話にばかりなっている。
だから、あなたからは何もいらない。ゼロでいい。
それでも自分で会社をやります」
そう伝えた。

ようやく「わかった」という返事をもらえた。

都合のいい解釈かもしれないが、覚悟が伝わったのだと思う。

ただひとつ、そこには条件があった。
それは、社外取締役としてKGキャピタルに残ること。
これも勝手な解釈だが、「なにかあったらこっちに戻ってくればいい」そんな親心みたいな愛情を受け取り、自ら会社を立ち上げることに決めた。
僕にとって、KGキャピタルでの時間は、めちゃくちゃ大事な時間だった。

次回につづく。


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