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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑭

 初任者研修は午前中に終了し、平田さんが僕たちを最終日に、自分のマンションで打ち上げをしないかと、1週間前から声をかけてくれた。

 平田さんは、普段からこういった飲み会などをしていると、研修の休憩時間に話していた。
 僕自身はお酒も飲まないし、タバコも吸わないので飲み会とかはコンビニのバイトで少しいったくらいだった。場所も大衆居酒屋で自分はソフトドリンクを飲みながら空気みたいな存在で、たまに愚痴を聴く役だった。

 そんな事を回想しながら、目黒区にあるマンションに着くと、一緒に研修を受けていた女性が。
 「ここ、一人で住んでるの?」
 「はい。僕一人っすね。」
 「凄いね。若いのにこんなタワーマンションに住んでいて。」
 「いやー。もっと稼いで港区とかに住みたいっすね」
 そんな会話をしながら、平田さんの1607号室についた。
 

 マンションは29階建てで、一人暮らしよりは家族と住むようなマンションで、いかにも”都会”というキャッチフレーズのマンションだった。
 入り口は2カ所あり、来客の所と住人の人が入れる場所があった。出てくる住人には芸能関係の人もいると平田さんが言っていた。

 エレベーターは3台あった。
 

平田さんの部屋に入ると、皆が
「うわー、凄い」
 確かに、小学生でも分かるその一言に尽きる。凄いのだ。

 生活感のない部屋、そして見た事のない家具。ゴミ一つ落ちていない片付いている部屋。

 平田さんは
「そんなに、部屋をジロジロみないで恥ずかしいだろ」
 16階のマンションからの眺めは良く。僕も外を眺めてしまう。
「とりあえず座ってくださいな」
と、5人がソファーに座るとビールが6つ平田さんが持って来て、テーブルに置く。
 ビールグラスは冷えていた。
「とりあえず、乾杯しましょう」
 一斉に6人が乾杯する。僕もお酒は飲めず弱い方だが、平田さんの気遣いと勢いで、
「かんぱーい」
と皆が声を揃えて、お酒を飲んだ。

「うわー、最高に美味しい」
 平田さんは、
「良かった。喜んで貰えて、こう喜んでもらえる顔を見るの俺好きなんだよね」
と笑いながらビールを飲み干す。

 いくつか、つまみを持って来て。
「今日っていくら払えばいいの?」と聴くと
「いや、大丈夫。気にしないで、何か足りないものあったり、欲しいものがあったら頼んでいいから」
 と、平田さんはピザを頼みだした。
「あっ、ピザで何かダメなものとかある人いる?」
 皆は大丈夫なので、平田さんが注文した。

「いやー、今日は改めて家に来てくれてありがとう。そしてお疲れ様でした」
 産まれて初めてのタワーマンション。生活感の違い。このような生活は自分には無理だったが、平田さんの気配りと若いのに、こんなに凄いと所に住めるのは自分が会って来た人種ではいなかった。

初任者研修では介護技術を学ぶ以外にも、素敵な出会いがあった事に感謝しかなかった。

介護を本気で変えたいので、色々な人や施設にインタビューをしていきたいので宜しくお願いします。