人間力とシャトレーゼ(致知2023年5月号)
インタビュー『人生も経営も試練が成長をもたらす』より
三喜主義
折しも最近自宅の近所にシャトレーゼの新店舗がオープンしたばかりというこのタイミングで、シャトレーゼホールディングス会長 齊藤寛氏のインタビューに出会えたことに不思議な縁を感じた。
二十歳で始めた四坪の焼き菓子店から一代で年商千億を超える企業にまで成長させたという齊藤氏の経営哲学は、意外なことに商いの基本中の基本を頑なに守り通してきたものだった。
それがシャトレーゼの社是として掲げられている『三喜主義』だ。
この三つ言葉を聞くと、近江商人の『三方良し』(売り手良し、買い手良し、世間良し)が脳裏に浮かぶ。
『三喜主義』は、この『三方良し』をより具体的かつ身近に感じられるものにブラッシュアップされたものではないだろうか。
シャトレーゼの成功の理由は、創業時から『三喜主義』の姿勢を崩さないで現在に至るで貫き続けていることにある。
『三喜主義』の効果
記事では直近の例として、昨年5月からの原材料の高騰による食品の値上げラッシュを挙げていた。
小麦10%、油脂40%の原材料アップにより各企業が販売価格の値上げに踏み切る中、シャトレーゼはいち早く価格据え置きを表明した。
(お客様に喜ばれる経営)
そのための努力を外部に求めるのではなく、自助努力で無駄を省くことで10億円のコストダウンを実現させた。
(お取引様に喜ばれる経営)
何よりもその原動力となったのは、苦しい状況にも関わらず社員の給与を下げるどころか逆に10%もアップさせたことにある。
(社員に喜ばれる経営)
ここで驚きなのは、コストダウンが成功したから上げたのではなく、コストダウンよりも先に給与を上げたということだ。
これにモチベーションがあがらない社員はいないだろう。
実際、月に500点以上の改善項目が挙がったということがそれを示唆している。
「成功したら上げる」というのは、そのまま「成功しなかったら上げない」ということだ。
過程がどうであれ、結果的に実らないのであれば、それまでに費やした時間と努力が無駄になる。
評価されないことが、さらにモチベーションを下げることになり、待っているのは負のスパイラルだろう。
ところが、先に結果を与えることでこれを逆転させたのが齊藤氏だ。
モチベーションの上がった社員たちは、それに見合った結果を返そうと努力し、正のスパイラルを生み出したのだ。
『人間力』があればこそ
これは私の想像だが、その時の社員たちの気持ちを言葉にするならば、義務感や焦りではなく『報恩感謝』ではないだろうか。
無理矢理ではなく、自発的に感謝の気持ちを込めて仕事をするならば、それは確実に『良い仕事』になるに違いない。
そして、それを実現させたのは、ひとえに「人を大事にすること」という両親の教えを守ってきた齊藤氏の『人間力』があればこそ、であることは明白であろう。
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