善の国を造る(致知2022年12月号より)
【特集】追悼 稲盛和夫
特別講話『人は何のために生きるのか』より
運命論は悪者か?
『人は誰もが生まれる前に自らが選んだ使命を背負って生まれてくる』
とは良く聞く話で、往々にしてそれを運命という。
この運命という考え方に対して否定的な印象がもたれるようになったのは何時の頃からだろうか。
確証があるわけではないが、それまで連綿と続いてきたものが崩壊した明治維新と、それに続く自由民権運動が発端であるように思う。
はっきりと分かれていた身分による権利の差が無くなり、選べる道が一気に拓けたことで「自分の未来は自分で決める」という意識が民衆に広まったためだろう。
それ自体は悪いことではない。
しかしながら、時代の流れが性急過ぎたため、人々は現実主義を通り越して、現物主義(あるいは拝金主義)になってしまい、その結果、義理や人情といった心が豊かであるために大切なものが失われてしまったのではないだろうか。
これから造る日本の未来
そんな多大な犠牲を払ってまで維持し続けていた経済成長も、昨今ではついに頭打ちとなってしまった。
物価は上がり続け、賃金は上がっていないにも関わらず、増税の繰り返しによる税収だけは右肩上がりとなっている。
正直な話、こんな歪な現在の日本の姿には失望の念を禁じ得ない。
しかしながら、そんな未来に希望を持てない今こそ、本来あるべきだった『正しく、美しく、幸福に満ちた国』を造る潮時なのではないだろうか。
稲盛氏の講話は、その答えを如実に語ってくれている。
清貧でありながらも誇り高く生きていた時代の日本を取り戻すために必要なのは何か。
最も重要な一つは、個々の胸の内から湧き出す他者を慈しむ善意、『利他の心』であることは間違いない。
そして、それを社是とする企業こそが、これからの時代を生き抜いていくことができるのではなかろうか。
会社においてもそれは同じであり、常に『利益』ではなく『人』の方を見て邁進することこそが、今求められていることに違いない。
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