フランスと日本の出生率の(本当の)差

広告代理店を辞めて独立したこの自称独立評論家は少子化問題の専門家のように振る舞っているが、統計を読み取る能力が足りないようで、誤った数字を基に勝手なストーリーを創作することが多すぎる。

この引用部にも幾つもの誤りがある。

フランス以外、日本より出生率の低い韓国、台湾とで、年代別の累積出生率を比較してみよう。
フランスと比較すれば他国はすべてどの年代も低いのであるが、30代の日本に関してはそれほどの差はない。しかし、圧倒的に差があるのが20代の出生率である。
フランスとの差は日本で0.3、韓国で0.5もある。

  1. 「累積出生率」という用語がここでは正しくない。

  2. フランスと日本の30代の出生率には差がある。

  3. 20代の出生率の差は0.3ではない。

2020年の合計出生率はフランス1.79、日本1.33で差は0.46、差の内訳は29歳未満が0.22、30~39歳が0.20、40歳以上が0.04である。

Insee, 厚生労働省「人口動態調査」

これも正しくない。

某政治家が、「日本の少子化は女性の晩婚化のせいだ」などと言ったそうだが、晩婚化などは起きていない。後ろにズレる晩婚化ではなく、20代のうちに結婚しなかった分がそっくりそのまま非婚として残っただけである。

1963年生まれの女の初婚年齢のピークは24歳だったが、1973年生まれでは25歳、1983年生まれでは26~27歳へと後ずれしている。20代の結婚が減ったのは事実だが、晩婚化も起きている。

厚生労働省「平成28年度 人口動態統計特殊報告」

結婚が後ずれしているので出生も後ずれしている。

国立社会保障・人口問題研究所

未婚化といっても確信的な非婚主義者は少なく、多くは婚活や決断を後回しにしているうちに婚期を逃してしまうパターンである。夏休みの宿題をやる気はあるが、親がうるさく言わないので後回しにしてしまい、結果的に間に合わなくなるようなものである。

非婚化には価値観・人生観(特に女の)や社会規範の変化が関係しているので、若い男の可処分所得が少々増えても解決しない。フランスの20代の出生率が高いのも若者(特に男)の可処分所得が多いからでもない。フランスは西洋諸国の中でも例外的な高出生率なので比較の基準としては適当ではない。

付録

Insee, 厚生労働省, 中華民國統計資訊網, 大韓民国統計庁

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