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経済

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2020年11月の記事一覧

反緊縮派議員の経済解説には問題あり

反緊縮派の安藤裕衆議院議員が不正確な解説をしているので検証する。 小さい字で「20年間(1995~2015年)の名目GDP成長率」とあるが、正確には実勢為替レートでUSドル換算した名目GDPの増減率のことである。 グラフの作成者(F)が実質GDPではなくドル換算GDPを用いているのは、1995年が円高の山、2015年が円安の谷なので、日本が「断トツの最下位」の「唯一の衰退国家」であるかのように印象操作できるからである。 ドル換算GDPは日本0.8倍、アメリカ2.4倍なの

日本の賃金を下落させた改革と思想

この分析に基づいて関連情報を示す。 中野氏によれば、70年代までは、「賃金主導型成長戦略」によって成長し続けてきた日本経済も、80年代、とりわけ90年代以降に採用された、「構造改革」という名の「利潤主導型成長戦略」によって低迷し続けてきたのだ。 名目賃金は1997年度、実質賃金は1996年度がピーク。 1996年度→2018年度に国民所得は+3.3%、賃金・俸給は+0.8%だが、法人企業所得(配当等支払前)は1.7倍、配当は6倍に激増している。 「賃金主導型成長戦略」

中高年のひきこもり増加はリベラル改革の成果

この記事と関係する内容を先月に書いていたので、紹介と若干の補足をする。 2000年前後に日本社会に構造変化が生じている。 自称広義のリベラリストの宮台真司が熱望していた「社会から孤立する脱落者を出す改革」の成果である。孤立が「自分が招いたことなんだという態度」がひきこもりになる。 自由化すると、人がばらけてますから、自分で友だちをつくる力がないと永久に孤立する。現に、自由化を進めた単位制高校などを見ると、結局、友だちをつくれなかったヤツは脱落していくんですね。ものの見事

国の財政の推移をグラフ化

2019年度の決算が財務省から国会に提出されたので、主な項目をグラフ化してみる。 1980年代末からの税制改革が、法人税と消費税を入れ替えるものだったことが見て取れる。 この流れ(⇩)を加速させたのが橋本龍太郎の金融ビッグバンと消費税率引き上げで、民主党政権と安倍政権がそれに続いた(どちらも金融資本主義のネオリベラル)。 国家は課税政策のバランスをとる能力を失っているのだ(これも国家の政策能力不足の証左)。国家は自分が誘致していると思っている資金の動きに振り回されること

自称左翼の時代遅れの左翼批判

松尾匡がまたいい加減なことを書いている。 D. アトキンソンを批判する部分の小見出しに 「生産性」は豊かな時代の論理だ とあるが、アトキンソンの「問題意識」を全く理解してない。アトキンソンは、人口構造の激変は不可避なのだから、豊かな生活を維持するためには労働生産性の向上が不可欠と主張しているのである。 国内需要が量的に縮小することは必至なのだから、供給側もそれに応じてダウンサイジングする必要がある。コロナショックに乗じてショックドクトリン的に進めることは適切ではないに

反緊縮派のグラフの読み取りの誤り

反緊縮派を代表する論客の中野剛志が昨年の国会議員相手のレクチャーで初歩的な誤りを犯していたが、同様の誤解が反緊縮派に広まっているようなので、グラフの読み取りの誤りについて改めて指摘する。 54:12~のこのグラフである。 反緊縮派はこのグラフから「政府支出が経済成長率を決定している」と主張しているが、現実はその逆で、政府支出の増加率は「実物的な生産能力」の増加率(→経済成長率)に制約されている。 予算に「財政的」制約がないからといって、政府ができること(そしてすべきこと

ゾンビと日本経済

ゾンビ企業とは、再建の見込みがないが、銀行の追い貸しや政府の補助金等によって存続している死に体の企業を意味する言葉である。 経済は人体と同じで、活力の維持には企業の新陳代謝が重要だが、ゾンビ企業を生かし続けることはその逆に新陳代謝を阻害して経済の老化の促進につながる。これが構造改革論者の「日本経済再生のためにはゾンビ企業に逝ってもらう必要がある」という主張の論拠である。ゾンビ企業につぎ込まれていたリソースをスタートアップ企業に振り向けて新陳代謝と活力を回復させるわけである。

政府支出とGDPの相関関係の再検証[補足]

先日のこの記事に補足する。 反緊縮派は各国の政府支出とGDPの名目値の伸び率の相関係数が1に近いことを「政府支出の伸び率が名目GDP成長率を決定している」と解釈したいようだがそうではない。 政府支出の対GDP比は景気変動によって上下するものの、政府はいわゆる「政府の大きさ」が過大にも過小にもならないように財政運営するので、長期的には水準は大きくは変化しない。このことは、GDPと政府支出の伸び率が長期ではほぼ等しくなることを意味する。 この関係はほとんどの国に共通するので

政府支出とGDPの相関関係の再検証

反緊縮派の「名目ベースで政府支出をa%増やすとGDPもa%増える」との主張を再検証する。過去記事のアップデートになる。 GDP=民間需要+公的需要+純輸出なので、この主張は「公的需要をa%増やすと民間需要+純輸出もa%増える」と言い換えられる。 注意が必要なのが、インフレの取り扱いである。公的需要と民間需要+純輸出の実質ゼロ成長が続いても、各年のインフレ率が異なれば、散布図にプロットした各点は直線上に並んで相関係数=1になる(両項目のインフレ率が等しい場合)。この相関関係

1997年の景気後退

「1997年4月の消費税率引き上げ(3%→5%)によって日本経済はデフレと長期停滞に陥った」というのが反緊縮派が描くストーリーだがそうではない。 麻生財務相は、97年は4月の増税で「4-6月の消費は反動減となったものの、7-9月には回復した」と指摘し、景気後退の要因は、同年後半のアジア通貨危機や山一証券破綻などの金融システム不安だったとの見方を示した。 『国債膨張の戦後史』の第45話「金融再生期の国債」から引用する。 平成9年11月からの未曾有の景気後退の原因については

好景気でも韓国よりも低い日本の経済成長率

日本では韓国経済崩壊説が根強い人気がある。 「韓国では最低賃金の引き上げで失業者が増え、経済がボロボロになった」という反論です。「最低賃金を引き上げたらどうなるかは、韓国を見ればわかる」「最低賃金の引き上げによって、韓国は大不況になった」などと言われます。 この動画の31分過ぎでも、本田が同様の話をしている(本田のアトキンソン批判は別記事で検証)。 しかし残念なのは、「惨事」の韓国よりも、2002年1月~2008年1月(73か月)と2012年11月~2018年10月(7

リフレ→反緊縮の本田のアトキンソン批判

日本銀行にブタ積みを増やせと迫っていたリフレ派の本田悦朗元内閣官房参与の主張を検証するが、穴だらけである。 本田はアトキンソンが「人口減少で元々労働者が減っているのだから、生産能力をそれに応じて減らすべきである」と主張していると言うがそうではない。アトキンソンの論旨は「労働力が大幅に減少し続ける中で経済を縮小させないためには労働生産性を高めるしかない」である。 今後の日本では、他の国以上に「生産性がすべて」となります。なぜなら、これからの日本では何十年にもわたって、どの先

法人企業統計調査から企業行動と日本経済の構造変化を見る

2019年度の法人企業統計調査から、企業の内部留保がやたら厚くなった理由と日本経済の構造変化について確認する。 日本経済の動向を見る上で最も重要なのは、戦後最長の景気拡大(2002年1月~2008年2月)が始まる前後で企業の行動原理が全く別物になっていることである。 ドーアの2004年の著書での指摘を踏まえれば、以下のグラフには説明は不要と思われる。 日本企業の性格はこの10年間で本当に変わったと思います。・・・・・・もっとも端的にいえば、経営者マインドにおける経営目標