反緊縮派議員の経済解説には問題あり

反緊縮派の安藤裕衆議院議員が不正確な解説をしているので検証する。

小さい字で「20年間(1995~2015年)の名目GDP成長率」とあるが、正確には実勢為替レートでUSドル換算した名目GDPの増減率のことである。

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グラフの作成者(F)が実質GDPではなくドル換算GDPを用いているのは、1995年が円高の山、2015年が円安の谷なので、日本が「断トツの最下位」の「唯一の衰退国家」であるかのように印象操作できるからである。

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ドル換算GDPは日本0.8倍、アメリカ2.4倍なので、アメリカは対日本比で3倍になっているが、これを1人当たり実質GDP、人口、実質為替レートの3つに分解すると1.2倍、1.2倍、2.1倍と実質円安の寄与が最も大きく、1人当たり実質GDPには大きな差は無い。

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1995年は日本の1人当たりGDPがアメリカの1.5倍になるほど円が著しく過大評価された年なので、比較の基準年としては適当ではない。

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日本の世界シェアの低下にも実質為替レートの減価の寄与が大きい。20年間で日本は物価が高い国から安い国に様変わりした。この「安さ」の追求が日本経済の相対的縮小の主因ということである。

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「通貨の供給が増えない」とあるが、現預金残高は2000年代末から再び増加基調に転じている。

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企業部門の資金余剰を「企業が国内の預金を消滅させる」と説明しているが正しくない。

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資金余剰とは「金融資産の増減-負債の増減」がプラス(黒字)の意味なので、負債が増えても金融資産がそれ以上に増えれば資金余剰になる。

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企業は2012年後半から借入増加に転じている。「預金を消滅させる行動」は続いていない。法人向け銀行貸出と消費者物価指数の連動にも注目(企業のdeleveragingがデフレの主因ということ)。

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「国の財政が破綻寸前は嘘」はその通りだが、「国債を発行するという行為は通貨を発行するという行為」ではなく、民間からカネを調達する行為である。

預金を増やすのは民間銀行が国債を買うことによる対政府信用供与なので、銀行以外が国債を買う場合には預金は増えない。国債を償還して減らす場合も、銀行保有分は同額の預金が減少するが、銀行以外が保有する分では預金は減少しない。

銀行が国債を買うから、引受けるから、それによる調達資金が政府によって支払われ、それが預金となって銀行に集まってくる(つまり対政府与信を始発とするMS増現象)、と解するのが正しい。
企業発行の有価証券を銀行が購入した場合は、純然たる信用創造行動であり、見合いに預金が創出されることになる。ある会社の社債を銀行が引受けた場合、また、国債を銀行が購入した場合がそのケース。念のため。

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「国の財政赤字は国民を黒字にすること」も、一般人がイメージするであろう「家計の収入増」になるとは限らない。「国民」には企業も含まれるので、企業部門の資金余剰が増えるだけの可能性もある。

1990年代後半から家計部門の黒字(資金余剰)が減少しているのは、政府が赤字(資金不足)を減らしたからではなく、企業が資金不足から資金余剰に転じたためである。高度成長期は政府は黒字で「企業の赤字が家計の黒字」だった。

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定額給付金のように政府が家計に直接カネを渡せば家計部門の黒字(資金余剰)が拡大することは確かだが、それは現状のような非常事態における弥縫策であって、企業の株主利益最大化→人件費抑制→家計貯蓄の減少という構造問題の解決策にはならない。

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安藤議員の話を聞くと「政府の国債発行が足りない→市中の通貨量が増えない→経済成長しない」のだから、「政府が国債を増発する→市中の通貨量が増える→経済成長して国民生活が豊かになる」となるが、そうは問屋が卸さないことは別の記事で検証している。問題の本質は市中の通貨の総額ではなく偏在である。

安藤議員には素人騙しのグラフを用いることを止めてもらいたい。

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本題からは外れるが、安藤議員が対談の第五弾の4:45~で国会議員のカネについて語っているので是非聞いてもらいたい。国から議員に支払われるカネや議員数が多過ぎるから減らせという国民が少なくないようだが、議員活動には費用がかかるので、カネを減らせば活動が制約されて政府のやりたい放題が罷り通るようになってしまう。同様に、議員数を減らせば議員のチェックが行き届かないところが増えるので、やはり政府の暴走を止めにくくなる。立法権を弱めれば三権分立が形骸化して行政権の独走になりかねない。

国会議員にもっと仕事をさせたいのであれば、もっとカネを支払わなければならない。日本は公設秘書は3人までしか雇えない。

韓国では公設秘書、私設秘書の区別なく議員が補佐官4人と秘書3人、有給インターン2人までを自由に採用できる。補佐官と秘書は特別公務員の扱いで、給料も大手企業の管理職並みで悪くない。

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