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経済

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2019年8月の記事一覧

「働けど賃金低迷」の本当の原因とその副作用

東京新聞に「働けど賃金低迷」の記事が掲載されたが、分析が不十分なので補充する。 記事では「1時間当たり賃金」として民間部門のHourly Earnings (MEI) を用いているが、ここでは1時間当たり雇用者報酬(Labour compensation per hour worked)を用いる。 G5諸国では日本の伸び率が突出して低い。増加に転じた2012→2017年も年平均+1.1%にとどまっている(同期間の4か国は1.8~2.4%)。 しかし、労働生産性(GDP

韓国からの観光客数の推移

訪日韓国人数の推移をグラフで確認する。 昨年後半から減少傾向にあるが、それでも5年前の約3倍の水準である。訪日外客数に占める割合は、1位が中国(28%)、2位が韓国(23%)、3位が台湾(15%)となっている。 日本から韓国への渡航者数は昨年から増加傾向にあるが、韓国→日本の44%にとどまっている。 2009年までは韓国への渡航者の約1/2は日本人だったが、中国人が急増したために現在では24%に縮小している。 韓国も中国人観光客の激減で打撃を受けていた。 そもそも、

日本経済の世界シェア低下は構造改革の成功の証

日本経済の世界シェアが1/3になっているという記事が話題になっていたので、簡単に考察してみる。データは世界銀行のDataBankによる。 市場為替レートでUSドル換算したGDPのシェアと実額 購買力平価換算のGDP 日本の1995年と2018年のシェアは市場為替レート換算では18%→6%、購買力平価換算では8%→4%で、それぞれ約1/3と約1/2に縮小している。 中国を除いた世界シェアも18%→7%なので、中国経済の急成長が日本のシェア縮小の主因という見方は否定される

故フリードマンの思想によって貧国化する日本

アメリカの経済団体Business Roundtableが、1997年以来の株主第一主義から転換することを明らかにした。 Since 1978, Business Roundtable has periodically issued Principles of Corporate Governance. Each version of the document issued since 1997 has endorsed principles of shareholder

税収を増やせば経済成長する?~積極財政派が隠蔽する国民貧困化の黒幕

この動画の54:12~のように、各国の名目GDPと名目政府支出の伸び率に強い相関関係があることを根拠にして「政府支出の抑制が日本経済停滞の低い主因」「政府支出を拡大すれば長期停滞から脱却できる」と主張する素人集団がある(いわゆる積極財政派)。 (左下の赤点が日本) しかし、名目のGDPと税収にも同程度の相関関係があるので、「税収を増やせば経済成長率を高められる」とも主張できてしまう。 政府支出はGDPの構成項目の一つなので、政府支出→GDPの方向性があることは確かだが、

ゴーン流コミットメント経営が日本を滅ぼす

1990年代末から日本企業(特に大企業)がコミットメント経営を採り入れたことが日本経済の衰退を招いていることをデータで確認する。 分かりやすい数値目標を掲げ、トップの責任を明確にするゴーン流の再生手法は、日本の多くの企業や自治体などにも採り入れられた。一般的に使われるようになった「コミットメント」という言葉には、「単なる努力目標ではなく、結果責任を伴う」というニュアンスが織り込まれた。 ここ数年、コーポレートガバナンス強化、投資家との対話の重要性が高まる中で、ROE(自己資

「政府の赤字は民間の黒字」では解決しない日本経済の構造問題

部門別の資金過不足は経済の状況の把握に有用である。 企業部門(非金融法人企業+金融機関)では、バブル崩壊後に資金不足(赤字)が急減し、1998年度以降は資金余剰(黒字)が続いていることが特徴的である。 政府部門は第一次石油危機後に赤字化→バブル期に黒字化→バブル崩壊後に赤字化→金融危機とリーマンショック後には赤字急拡大だが、近年では赤字は縮小している。 家計部門は1990年代後半に黒字が急減し、その後も低迷が続いている。 家計貯蓄率も1990年代前半から約10%ポイン

企業の金余り・家計の金不足・財政赤字・銀行の運用難の元凶

野口悠紀雄が「企業の現金・預金保有が増えすぎた」ために「日本経済は極めて奇妙な状況になっている」と書いているが、日本経済の潜在成長率に比べて株主資本コストが高過ぎることが原因だととすれば説明できる。 問題の根源は、企業の現金・預金保有が増えすぎたことだ。 仮に、将来の売り上げ増が見込まれ、旺盛な投資意欲があるのなら、利益の増加分は設備投資に使われただろう。またそれだけでは足りずに、借り入れを増やしたことだろう。 これが、金融緩和政策が目指したことだ。 しかし、実際には、資金

イノベーションよりも賃下げを選ばされた日本企業

前の記事では日本経済の潜在成長率に比べて高すぎる株主資本コストが需要面から経済成長を抑制していることを検証したが、今度は供給面における悪影響について見てみる。 資本コストは資本形成すなわち設備投資のハードルレートに関係するので、高くなれば設備投資は抑制される。 アメリカのレーガン政権が設立した産業競争力委員会(President's Commission on Industrial Competitiveness)の1985年の報告書"Global Competition

橋本龍太郎の罪は消費税率引き上げではなく金融ビッグバン

日本経済の成長を阻害する犯人として、リフレ派は日本銀行、積極財政派(MMTer)は財務省を糾弾してきたが、マクロ経済政策しか目に入らない彼らが見落としているのが、1996年11月に橋本龍太郎首相(当時)が打ち出した金融ビッグバンが企業経営に及ぼした影響である。 1996年11月11日、時の総理橋本龍太郎は官邸に三塚博大蔵大臣と松浦功法務大臣を呼び、日本の金融システム改革(いわゆる日本版ビッグバン)を2001年までに実施するように指示したのでした。実はこの金融システム改革を仕

MMT(現代貨幣理論)は、日本経済を「大復活」させない

「とてもいい記事」「希望の見えない日本経済に大きなヒントを与えてくれる」とのことだが、原因不明の体調不良に苦しむ人がインチキ医療に引っ掛かる心理と同じである。 政府は法定通貨を定めているが、経済活動に用いられる通貨の発行は民間銀行に任せている。財政支出のための財源は民間から税や借入(国債発行)によって調達するので、「政府が支出することが先」や「政府は好きなだけお金を発行でき、財政的に縛られることはありません」は誤りである。MMTは根本が誤っている理論なのである。 「政府は