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一生命科学者からのメッセージ

今回はコロナウイルスの話では無い。
先日ネット上で行われた大阪大学大学院生命機能研究科入試説明会における私の研究科長としての挨拶が、動画配信されている。大学院への進学を考えている大学生に向けたものだが、科学とは何か、科学的思考とは何かについて私の考えを述べているので、一般の方にも聞いて頂けたらと思い、noteにアップすることにした。
https://www.youtube.com/watch?v=e0zdOnx54cE&t=19s

また、そのスピーチの内容を文字にしたものが下記である。

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皆さん、こんにちは。
大阪大学大学院・生命機能研究科長の吉森です。

新型コロナウイルスの陰が世界を覆っています。誰もが、早くワクチンや治療法が開発されることを望んでいます。私たち生命機能研究科は、生命に関わる謎を解き明かすことを目的としています。いわゆる基礎研究に特化しており、ワクチンの開発などを直接目指すための機関ではありません。

今回のような状況や災害などの人類が遭遇する様々な困難を考えたときに、全ての研究者はすぐに役立つような研究をすべきだと考える人もいるかも知れません。しかし、科学とは体系です。いわば大きな建造物のようなものであり、その土台はすぐには役立つことは無い無数の知識から成り立っています。その総体の中から枝として人類に役立つ発見発明が現れてきます。さらには、一見何の役にも立たないように思われる研究から、世紀の発見と呼ばれるような社会に大きく貢献する知見が得られた例は枚挙にいとまがありません。

生命は偉大で複雑です。その理解や応用に近道はありません。地道な研究の積み重ねの先にしか、例えば対症療法ではない根本的な病の治療法は見いだせないのです。私は科学は、バルセロナにあるサグラダファミリアのようなものだと思います。大きく美しい教会ですが、100年以上かかって多くの人の手で少しずつ作られており、まだ完成していません。科学も、人類が何千年にも亘って営々と少しずつ煉瓦を積んで作ってきた目には見えない大伽藍です。

皆さん、是非生命機能研究科に入学し、生命の謎に挑む研究を行い煉瓦の一つを積み上げて下さい。ひとつひとつの煉瓦は小さくとも、それによって作られる科学の大系は壮大で美しい。そしてそこから人類を守り幸福にするテクノロジーが生まれます。サグラダファミリアが宗教的に人々を幸せにするように。

生命機能研究科にはもうひとつ大事な使命があります。それは入学した人達に、科学的精神と科学的思考を身につけて貰うことです。科学的思考とは、論理的で合理的な思考方法のことであり、科学研究を行う上で必須の要素です。長い科学の歴史の中で、試行錯誤により磨かれ洗練されてきました。この科学的思考は、研究以外の日常生活でもとても役立ちます。将来研究者にならずとも、社会に出て様々な職業に就いたときに生命機能研究科で身につけた思考方法があなたを助けてくれるでしょう。

そして私は、今の時代には、この科学的思考はあらゆる人に必要だと感じています。目下の新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、ネットやメディアに膨大な情報が溢れています。ですが錯綜する情報の取捨選択と最終的な判断は結局個人に委ねられており、そのためには冷静かつロジカルで自律的な思考が要求されます。

また科学技術は以前より格段に進歩のスピードを増しており、私たちの社会に素早く広範に滲透します。例えばゲノム編集技術はヒト遺伝子への介入などを容易にし文明に対し大きなインパクトを与えるでしょう。つまり一般の市民が、新しい科学技術に直接的に影響を受けるのです。そういった状況では、ひとりひとりが自分で考えなければいけません。限られたことしか判らない専門家任せにしていてはいけないのです。

私たちの社会が大きな技術的革新や感染症や自然災害などの脅威に直面するときに、ひとりひとりが理性的に科学的に考えることができれば、恐怖と不安を取り除き、差別や憎しみ、偏見、パニック、を排除し戦争を回避できるのです。皆さんにはこの科学的思考の伝道師になって頂きたい。研究科で科学的思考を身につけ、なるべく多くの人に伝え、その重要性を理解して貰って欲しいのです。今回のパンデミックの渦中にあって、私はそのことの大事さを痛感しました。

本研究科で私たちと一緒にわくわくするような発見を目指しましょう。おもろい研究があなたを待っています。

以上です。

最後に。手洗いをしっかりしてください。お願いします。

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