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8月16日の夜に

【子どもに関する、ちょっと重たい話を含みます。苦手な方は他の記事をご覧くださいませ。どうぞごゆるりと。】



夢を見た。


だだっ広い公園のような、でもそこまで整備されてはいない広場。3、4歳くらいの男の子が、私の右手を握っている。声が出ない。彼はそんな私の様子を見て、心配そうに顔を覗きこんでいる。

咄嗟に思った。あの子だと。



2019年の6月、はじめての命を授かった。
何年も不妊治療を重ねた末のことだから、嬉しくて嬉しくて、心から神様に感謝した。

でも十月十日よりもずっとずっと早く、お別れを言わなければならなくなった。



そこから、自分のことを責めに責めた。
ごめんね、私がちゃんとしてあげられなかったからだね。ここまでやっても、どんなに生活に気をつけてもあなたを抱きしめてあげることができなかった。できることは全てやったつもりだった。もしかしたら私には、親になる資格がないのかもしれない。


泣いて泣いて、文字通り涙が枯れるまで泣いた。それから1年後のお盆に、そっと2人で名前をつけた。心の中で呼ぶために。謝るために。


それからというもの、月日は流れ。
その時から環境も状況も変わり、これまた文字通り身一つになった。がむしゃらに生き抜いた約半年間。多少のガス欠感はあるけれど、必死すぎて目を向ける余裕はない。


そんな中で、夢を見た。


足元は枯れ草で覆われていて、靴が見えない。
声を出そうとしても声が出ない。動けない。でも、なぜかこれが夢であることだけはわかっている。

手を繋いでいる小さな彼は、心配そうな顔でしきりに私を見ている。手が温かい。何かを伝えようと口をパクパクしているが、風の音で聞こえない。なんて?なんて言ってるの?顔で訴えると、彼は満面の笑みでこう言った。


「大丈夫」


そう聞こえた瞬間、目が覚めた。


ただの夢、そう、ただの夢だ。
でも今日は8月16日。
少しだけ、信じたいじゃないか。


起きてから、心の中でつぶやいた。
「優しく」なること、優しさが何であるかを教えてくれた、「知らせて」くれたあの子に。


ありがとう、知優(ちひろ)。
あなたの名前を心の外へこぼすのに、3年もかかってしまった。


今んとこ超カッコ悪いし、ダサいし、なんの余裕もないし。自慢できるようないいところがあんまりないんだけどさ。こっからかっこいい母ちゃんになれるようにがんばるからさ、いつか私がそっちに行った時は親子やろうね。きっと私に似て、ヘラヘラ笑う言葉の上手な子だと思うから。



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