富裕層マーケティング vs 中間層マーケティング?雑な概念にはブランディングの根本に立ち返るべし。

最近、富裕層マーケットが活況である。日本は少子高齢化で市場規模の縮小が懸念されている中、富裕層人口は増加し続けている。(NRI富裕層アンケート調査によると、純資産1億円以上の富裕層は236万世帯、純資産5000万以上だと341万世帯に上る)

多くの日本企業、外資系企業が富裕層向けのビジネスを盛り上げようと画策しています。私の周囲でも大変盛り上がっており、もともと富裕層のターゲット含有率が高いラグジュアリーブランドは当然そうだが、今まで挑戦してこなかった企業や、金融関係の企業においては富裕層ビジネスの拡大が重要な経営課題として設定されてきている。私は富裕層でも何でもないのだが、ラグジュアリーブランドのコンサルをやっている手前、様々な相談を受けるケースもある。彼らの悩みの理由としては、既存のブランドビジネスを強化したい、とか、自社の経営層から富裕層ビジネス強化せよ、と言われているが、どうやってターゲティングしてよいかわからないからと頭を抱えている、といったケースのいずれかといった印象だ。

私自身、富裕層マーケティングに携わっている立場として、そもそも「富裕層マーケティング」って、とっつきにくい言葉だと思う。例えば、中間層マーケって言わない。なぜならこれはほぼ≒マスマーケのことだから。私たちは、中間層の趣味・趣向はバラバラだという当たり前すぎる現実と常に向き合っているので、リアルにイメージできるからだ。一方で、富裕層マーケティングという言葉から富裕層というと、なぜか同じような集団が存在していて、その謎のコミュニティにアプローチをとるコツがありそうなイメージを想起してしまう。したがって、まずは、富裕層という括りは存在するが、そもそもこれは非常に雑な括りであることは意識しなければならない。

マーケティングの原則に立ち返り、富裕層ということくくり自体が非常に雑であるということを意識しよう。先に私なりの結論を言ってしまうと、富裕層マーケティングは、富裕層向けの「ターゲティング」、「コミュニケーション」、「ブランディング」を必要とする、フツーのブランドマーケティングである。中間層マーケティングと少しやり方が違うのは、「ブランディング」の領域だと言ってよいと思う。

例えば、ポルシェ。
ポルシェのビジネスの現場では、富裕層マーケティングはしていない。ターゲットがたまたま富裕層なので、彼らの期待に応え、期待を超える存在であることを伝え続ける活動をしている。それが富裕層マーケティングそのものなのである。この場合、顧客の期待値を理解することが非常に大切であり、富裕層のこだわりに注目し、共感しなければならない。ポルシェの場合は、オーセンティック(本物、信頼できるといった意味)といったキーワードであった。ポルシェは、オーセンティックであるために、常に完璧であることへのこだわり、品質へのこだわり、デザインへのこだわり、そしてサービス(接客、CRM、デジタル)へのこだわりを持ち続けることで長期的な信頼を構築している。そのこだわりを実現するために、マーケティングの各機能においてがそれを表現しコミュニケーションしているのである。このこだわりが中間層マーケティングと富裕層マーケティングの大きな違いだと考える。

また、富裕層市場という観点においては、富裕層ビジネスは「超富裕層向け」か、「富裕層ボリュームゾーン」かに分けられ、それぞれに対応が異なる。超富裕層向けの場合は、そもそも顧客数が少ないので、営業的(属人的)に対応可能なので、各マーケティング機能の仕組み化というよりも、VIP対応的な顧客マネジメントによって対応している。マーケティング機能もブランディングに寄せ、しかもそれは多くの場合、海外本社でマネジメントすることで、リソースを効率配分している。(このテーマは別で書こうと思うのでここでは詳しく記述しないが)

一方で、ポルシェやルイヴィトンのようなブランドは、富裕層ボリュームゾーンが主なターゲットになるので、先ほど上記で述べたマーケティング機能をすべて網羅的にマネジメントすることが大事。富裕層のこだわりに対して、ブランドの価値観(オーセンティック的なもの)を通してアプローチし、共感を得ながら、コミュニティに取り囲んでいく、という手法になる。

まとめると、富裕層マーケティングというのは非常に雑な概念であるが、この成長市場において対峙すべき概念である。富裕層顧客のこだわりに対応できる自社のブランド要素は何なのか。富裕層を集めてパーティをやったり、派手なおもてなしをすることは富裕層マーケティングでは決してないことを踏まえて、しっかりと自社のブランディングに向き合うことが、急がば回れで、とても重要な作業になる。

これを語ると長くなってしまうのでこのへんにして、次回は、富裕層ビジネスのブランド管理手法について書こうと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?